働き方改革が進む昨今、健康経営を導入したいと考えている企業は増えています。
しかし健康経営と「エンゲージメント」との関係性や、エンゲージメント向上の具体的な方法が分からず、困っている方も多いでしょう。
そこで本記事では、健康経営やエンゲージメントの概要、エンゲージメントを向上させるためのポイントを詳しく紹介します。
また日本と世界におけるエンゲージメントの実態や、エンゲージメントを高めることのメリットについても併せて解説します。
健康経営に取り組む方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
健康経営とは
まずは、健康経営の概要について基本的な内容から解説します。
健康経営の考え方
健康経営とは、会社を支えている従業員が健康的に働けるような環境作りを行うことです。従業員の健康課題を解決するために、企業が一丸となって対策を施し健康的な生活に導きます。
健康経営は、経済産業省が進める日本再興戦略・未来投資戦略に関する取り組みの一種です。
企業が戦略的に従業員の健康を管理することで企業価値が高まり、社会貢献につながります。
健康経営の概要は以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
健康経営が注目されている理由
日本では高齢化が進んでおり、2015年には全人口に占める65歳以上人口の比率が26%を超え、世界201ヵ国のうち最も高齢者の多い国となりました。相対的に見た若者の割合は減少しており、働き手不足の状態に陥っているのが現状です。
そのため現在の企業においては、従業員の健康状態や定着率の重要性が高まっています。
2013年6月には「日本再興戦略」にて国民の健康寿命の延伸に関する取り組みの一つとして、健康経営の普及・推進が閣議決定されました。
健康経営を推進することで健康寿命が伸びれば、多くの従業員が長く生き生きと働ける環境が生まれます。
健康経営の顕彰制度
健康経営には、経済産業省が設計し日本健康会議が認定している顕彰制度があります。健康経営に関する優良法人を見える化することで、該当の企業は社会的な評価を受けられます。また手本となる企業が明確化され、他企業の健康経営推進にもつながります。
健康経営優良法人の種類は、大規模法人部門と中小規模法人部門の2種類です。
大規模法人部門の中でTOP500にランクインする企業は「ホワイト500」、中小規模法人部門の中でTOP500にランクインする企業は「ブライト500」に認定されます。
雇用している従業員数により、どちらの部門に該当するかが決まります。
顕彰制度についてより深く知りたい方は、次の記事をチェックしてください。
あわせて読みたい:経済産業省が健康経営を推進する背景は?制度の種類やメリットも解説
健康経営とエンゲージメントの関係性
「エンゲージメント(engagement)」は、「約束」「契約」「誓約」「婚約」といった意味を持つ言葉です。従業員エンゲージメントやワーク・エンゲイジメントが高まると、仕事や職場が楽しくなり生産性が向上します。
エンゲージメントの度合いは従業員の心の健康にもつながるため、経済産業省が実施する健康経営度調査でも取り上げられています。
健康経営度調査においては、2018年度から「従業員や組織の活性度の確認」の設問が追加されました。
この設問は企業価値の向上と健康経営の関係性を確認するための項目となっており、達成することが非常に重要です。
あわせて読みたい:健康経営度調査の内容は?評価方法や参加するメリットも徹底解説!
エンゲージメントの種類
健康経営の際に高めたいとされるエンゲージメントは2種類あります。
種類と概要を確認し、健康経営を推進する際に適切な形で採り入れてください。
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業理念に共感し「会社に貢献したい」「役に立ちたい」と感じることです。従業員エンゲージメントの構成要素は、以下の通りです。
- 目標:ビジョン、戦略、成長性
- 活動:事業内容、商品、サービス
- 組織:社風、人材、経営理念
- 待遇:就労実態、福利厚生、給与
上記の要素を従業員に適切な形で提供することで、従業員エンゲージメントが向上し生き生きと働ける環境が整います。また従業員エンゲージメントが高くなると、意欲的に仕事に取り組む従業員が増加するといえます。エンゲージメントに注力した施策は、企業価値向上、生産性向上においても重要です。
あわせて読みたい:従業員エンゲージメントとは?企業のメリットと向上させるメソッド
ワーク・エンゲイジメント
ワーク・エンゲイジメントとは、業務内容や仕事そのものに対する肯定的な感情のことです。ワーク・エンゲイジメントは、次の3つの要素によって構成されています。
- 熱意:仕事にやりがいを感じること
- 没頭:熱心に仕事に取り組むこと
- 活力:高いモチベーションを持って仕事に取り組むこと
従業員のワーク・エンゲイジメントが高まと、仕事に対して生き生きと取り組むようになります。最終的には、パフォーマンスの向上につながるといえるでしょう。
あわせて読みたい:ワーク・エンゲイジメントを高める方法を解説!成功事例3つを紹介
日本と世界におけるエンゲージメントの実態
米国ギャラップ社が2022年に実施した調査で、「熱意溢れる従業員」の割合は国ごとに大きな差があると明らかになりました。同調査において、日本における熱意溢れる従業員の割合は「5%」となっており、他国と比較して非常に低い数字に留まっています。日本において、多くの従業員はモチベーションが低いまま働いている状況です。
そのためエンゲージメントに悩む日本の企業は非常に多いといえます。
参考:ギャラップ社 State of the Global Workplace: 2023 Report
ただし、健康経営に取り組む企業は年々増加傾向にあります。
2021年までに健康経営優良法人認定を受けた企業の数は、次のように推移しています。
年度 |
企業数 |
2016年 |
235社 |
2017年 |
539社 |
2018年 |
813社 |
2019年 |
1,473社 |
2020年 |
1,801社 |
2021年 |
2,299社 |
2016年から2021年の間で、認定企業数は約10倍に増えました。
健康経営に取り組む企業がさらに増えれば生き生きと働ける従業員が増加し、エンゲージメントは向上すると考えられます。
エンゲージメントを高めるメリット
ここからは従業員のエンゲージメントを高めることで期待できる効果を3つ紹介します。
従業員のモチベーションが向上する
働きやすい環境が整うと従業員の仕事に対するモチベーションが高まり、副次的に生産性の向上にもつながります。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」において、ワーク・エンゲイジメントと労働生産性には正の関係性があることが明らかになりました。
働きがいスコア |
生産性が向上していると感じる割合(スコア) |
2以下 |
2.37 |
3 |
2.93 |
4 |
3.36 |
5 |
3.84 |
6 |
4.39 |
上記より、働きがいのスコアが上昇するほど、企業の生産性が向上していると感じる割合も増えていることが読み取れます。
生産性が高まれば企業の雰囲気が良くなり、企業イメージの向上にも役立ちます。環境のよい企業で働きたいと思う方は多いため、人材流出のリスクも軽減可能です。
チームとしての絆が強くなる
エンゲージメントが高まると、「この企業に勤めていてよかった」「もっと貢献できるようになりたい」と帰属意識が芽生えます。従業員がそれぞれ帰属意識を持ち働くことで、悩みを共有しつつ同じ目標に向かって力を合わせて働けます。
しかし厚生労働省の調査「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」では、ストレスを感じながらも職場の人に相談できていない人が一定数いることが明らかになりました。
上記調査ではストレスを抱えていると回答した従業員のうち、職場の上司や同僚に相談できる人がいると答えた人の割合は75.2%でした。
一方、実際に職場の人に相談した割合は70.2%です。
参考:厚生労働省の調査 令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況
つまり5%の方は職場の人に悩み事を相談できていないと考えられます。
エンゲージメントを高めることで働きやすい職場に変化していけば、相談もしやすくなり問題を早期段階で共有できます。
心身ともに健康的になる
仕事にストレスを感じている人は多く、従業員のエンゲージメントを高めるためにも早期の対応が必要です。
厚生労働省の調査では、仕事や職業生活に関する強い不安やストレスを感じる事柄があると回答した労働者は53.3%に上ることが明らかになりました。
ストレスの内容は「仕事の量(43.2%)」が第一位となっており、次いで「仕事の失敗・責任の発生等(33.7%)」「仕事の質( 33.6%)」と続いています。
参考:厚生労働省の調査 令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況
働きやすい職場環境を整えエンゲージメントが高まれば、問題が解決され、精神的ストレスが軽減されます。
従業員のエンゲージメントを向上させる方法
ここからは従業員がエンゲージメントを高め、意欲的に、生き生きと働ける職場を作るための方法を4つ紹介します。
エンゲージメントサーベイを実施する
エンゲージメントサーベイとは従業員のエンゲージメントを調査し、スコアリングするためのものです。ストレスチェックや従業員満足度調査と似ていますが、エンゲージメントサーベイは従業員と企業との関係性にフォーカスされている点で他の調査とは異なります。エンゲージメントサーベイの種類はいくつかありますが、その中でも特に知名度が高いのは「eNPS」や「Q12」です。
どちらも、いくつかの設問に答えるだけで簡単にエンゲージメントが調査できます。
また自社で独自のサーベイを作成することも可能です。
課題発見に向けて、自社の状態に最も適したサーベイを活用してください。
あわせて読みたい:エンゲージメントサーベイとは?意味と重要性、意欲向上のポイント
労働環境を見直す
内閣府の調査では、コロナ禍により労働時間が減少したことで生活満足度が向上したというデータが出ています。また労働安全衛生総合研究所が発表した「長時間労働者の健康ガイド」では、次の事項が明らかになりました。
- 週60時間以上の労働で心筋梗塞の発症率が1.9倍上昇する
- 1日5時間以下の睡眠により心筋梗塞の発症リスクが2.5倍に上昇する
過労や睡眠不足は従業員の健康にとって大きな負担です。
企業として、労働時間の短縮を目指してください。
参考:内閣府政策統括官(経済社会システム担当) 満足度・生活の質に関する調査報告書 2022
参考:内閣府政策統括官(経済社会システム担当) 満足度・生活の質に関する調査報告書2022
労働時間の短縮においては、働き方改革の考え方が重要です。
次の記事で具体的な対策事例を紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
あわせて読みたい:働き方改革のアイデア10選 従業員がいきいき働ける職場を目指そう
社内コミュニケーションを活性化する
健康経営を推進するためには、従業員同士のコミュニケーションを活性化させることが大切です。
ハーバード大学のロバート・ウォールディンガー(Robert Waldinger)博士が1938年から約80年、724名の男性を調査し続けた結果、「私たちの健康と幸福には、良い人間関係が必要だ」との結論を発表しました。
温かい雰囲気の職場ではお互い気軽に相談できるため、仕事の調整や課題の共有が容易になります。
働きやすいと従業員が感じるようになれば帰属意識が高まり、仕事へのモチベーションも向上します。
参考:ニューズウィーク ーバード大学が80年間724人を追跡調査して解明した「人生に最大の幸福をもたらす」意外な要素
仕事の内容を充実させる
従業員が転職してしまう理由には、仕事内容への不満があります。
次の施策で従業員同士のコミュニケーションを活性化させ、仕事への充実感を高めてください。
- 期待している仕事・役割を伝え、定期的なフィードバックを行う
- 会社の理念・ビジョンと日々の業務との繋がりを説明する
- 従業員の成長を支援する制度を作る
- 給与や昇給の決定方法に納得できるように説明する
特に重要なのは、企業理念と普段の業務とのつながりを実感してもらうことです。会社としての目標を従業員同士でも共有してもらい、一体感を高めてください。
また近年、リスキリングというキーワードに注目が集まっています。OJTだけでなく自発的なスキルアップを促進する制度も盛り込んでください。
また給与やポジションに関する希望を聞くことも重要です。従業員の悩みに会社が寄り添う形で、コミュニケーションを取ってください。
エンゲージメント向上に向けた施策導入事例3選
ここからはエンゲージメントを高めるための具体的な施策について、企業の導入事例を基に紹介します。
株式会社ユーザベース(UZABASE)
株式会社ユーザベースは、アジャイル経営の実現に向けたSaaS事業や、経済ニュースメディア運営などに取り組んでいる企業です。
組織マネジメントの面では「7つのルール」という価値基準(行動指針)を策定しつつ「4つのやらないこと」を明確にして、従業員が行動しやすい職場づくりを実現しています。
またこの方針を社内に浸透させるため、専任のカルチャーチームを作成しました。
さらに「7つのルール」をより浸透させるためアンケートを実施し、良いエピソードがあれば顔写真入りの紹介記事を作り、従業員やその家族に配布しています。
上記の取り組みの結果、ForbesJAPAN(2017年8月号)が選ぶ「従業員エンゲージメントが高い企業トップ10」の8位にランクインしました。
参考:SUPER CEO 世界を狙う組織のつくり方~ユーザベース崩壊の危機を救った「7つのルール」
株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、アメーバブログやAbema TVなど知名度の高いSNSを複数提供している企業です。株式会社サイバーエージェントでは、2013年から全従業員に対して毎月3問程度のエンゲージメントサーベイを実施しています。
パフォーマンスやモチベーションなどの主観情報を、「晴れ」「曇り」「雨」の3パターンで表現することで定量化を実現しました。
また回答内容に気になる記載があった従業員には個別に連絡をしたり、具体的な改善策を考案したりするチームの創設もおこなっています。
このような取り組みにより、株式会社サイバーエージェントの中で「働きがいがある」と答えた従業員は87%に達しています。
参考:経済産業省 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書
三承工業株式会社
出典:三承工業株式会社
三承工業株式会社は、土木工事業や建築工事業などをメインに展開する企業です。講演会やシンポジウム、並びにセミナーの企画なども行っています。三承工業株式会社はSDGsにも積極的に取り組んでおり、SDGsの目標「8:働きがいも経済成長も」に着目してきました。
具体的にはSDGsへの理解を深めるため、勉強会やコーチング指導を実施しています。
勉強会の主な内容は「女性活躍勉強会」「働き方改革勉強会」などです。勉強会やコーチング指導で自社での取り組みを社外にも公開しノウハウを提供することで、社会貢献も実現しています。
上記の取り組みの結果、三承工業株式会社は「第2回ジャパンSDGsアワード」にて、「SDGs特別賞」を受賞しました。
まとめ:エンゲージメントの向上には健康経営が必要
エンゲージメントは、健康経営に欠かせない要素のひとつです。エンゲージメントを向上させることで心身が健康になり、働く意欲も高まります。
従業員のエンゲージメントを向上させるため、「労働環境の見直し」「コミュニケーションの活性化」などに取り組んでください。
福利厚生アプリ「KIWI GO」はウォーキングイベントの開催や従業員同士のチャット機能で、従業員の健康やコミュニケーションの活性化を促進します。
従業員同士で交流できる機会を作り、生き生きと働ける環境を構築したいと考えている企業は、ぜひ導入をご検討ください。