近年、「組織エンゲージメント」という言葉がビジネスシーンにおいて注目を集めています。そのため組織エンゲージメントを高め、企業としての在り方を改善したいと考えている企業は多いでしょう。

しかし組織エンゲージメントに対する理解が深まっておらず、適切な施策を導入できていないケースは少なくありません。

そこで本記事では、組織エンゲージメントの意味やエンゲージメントにおける日本の現状について詳しく解説します。

また、施策を導入した場合のメリット・効果やエンゲージメント対策の導入事例も紹介するので、組織エンゲージメントを改善したいと考えている経営陣はぜひ参考にしてください。

エンゲージメントの種類

エンゲージメント(engagement)には、「誓約」「約束」「契約」「婚約」といった意味があります。ビジネスシーンにおいてよく使用される、エンゲージメントの種類は以下の通りです。

・従業員エンゲージメント

・組織エンゲージメント

・ワーク・エンゲイジメント

従業員エンゲージメントは、従業員が企業に抱く帰属意識や愛着心を意味します。一方、組織エンゲージメントは、「従業員から寄せられる組織に対するエンゲージメント」という意味があり、二つの言葉が示す言葉の意味はほとんど同じです。

またワーク・エンゲイジメントとは、「活力」「没頭」「熱意」の3つの要素から構成された言葉です。業務内容や仕事に対する、前向きな感情のことを意味します。

ワーク・エンゲイジメントと組織エンゲージメント・従業員エンゲージメントは、「前向きに業務に取り組む」という結果の現れ方(行動面)では同じですが、行動の発生源となる感情面は異なります。

組織エンゲージメントに似た他の概念

組織エンゲージメントに似た概念には、次のものがあります。

・ロイヤルティ

・従業員満足度

ロイヤルティは忠誠心を示す言葉です。企業が上、従業員が下という上下関係の上に成り立つ言葉である点に、従業員が自発的に帰属意識を持つ「組織エンゲージメント」とは大きな違いがあります。

また従業員満足度は、給与や福利厚生といった条件面を整えることで得られる感情です。組織エンゲージメントとは、企業と従業員との間に信頼関係があるか否かという部分に相違点があります。

ただし従業員満足度とは共通点もあり、エンゲージメントが高まることで従業員満足度が向上することも考えられます。

日本のエンゲージメントと世界の比較

米国ギャラップ社が2023年に実施した調査「State of the Global Workplace: 2023 Report」では、熱意溢れる従業員の数は国によって大きな差があると明らかになりました。

【主要国の従業員エンゲージメント(割合)】

国名 割合(%)
アメリカ 34%
インド 33%
フィリピン 31%
ブラジル 28%
南アフリカ 26%
タイ 25%
インドネシア 24%
ウクライナ 22%
オーストラリア 20%
中国 18%
ドイツ 16%
韓国 12%
イギリス 10%
フランス 7%
イタリア 5%
日本 5%

日本におけるエンゲージメントの高い従業員の割合は全体の5%であり、他国と比較して非常に低い水準に留まっています。

アメリカやドイツなどの欧米諸国はもとより、東アジアにおいても最下位である点は大きな問題でしょう。またモンゴルや中国、韓国、香港、台湾などと比較しても低水準に留まります。

なお世界平均は23%であり前回の調査時(2022年)より2ポイント上昇していますが、日本における変化はありません。

そのため現在多くの従業員はモチベーションが低いまま働いており、エンゲージメントに悩む企業は多いと考えられます。

参考:alterna 日本の従業員エンゲージメントは「世界最低」、米社調べ

参考:ギャラップ社 State of the Global Workplace: 2023 Report

参考:月間総務オンライン 日本人、やる気ある従業員は5%しかいなかった 米企業によるエンゲージメント調査

組織エンゲージメントを高める目的とメリット

組織エンゲージメントを高めることで、従業員にも企業にも多くの利点が発生します。

従業員のモチベーションが向上する

モチベーションには「やる気」や「意欲」「動機」が含まれており、目標に向けて行動する際の原動力となります。

モチベーションが高いと、その分物事に対する興味関心が強まります。研究熱心な従業員が増えれば、経営に関するアイデアや新しい発明も生まれやすくなるでしょう。

なお、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社の調査によると、ワークライフバランス施策を導入すれば、従業員のモチベーションが向上すると明らかになりました。

対象 モチベーション得点の平均値
ワークライフバランス度が高い人 3.5~4.0
ワークライフバランス度が低い人 3.0以下

労働環境や福利厚生を見直し、従業員にとって働きやすい職場環境を構築してください。

具体的には、「研修・セミナーを開く」「新しい業務を与える」「資格取得を促す」といった施策が効果的です。自社課題に合った施策を導入してください。

参考:日経メディカル 仕事のやりがいに対する意識調査

参考:東京海上日動リスクコンサルティング株式会社 モチベーションを高める経営戦略としてのワーク・ライフ・バランス 

人材の流出が減少し定着度が上がる

アメリカのコンサルティング会社であるCEB(Corporate Executive Board)社が2004年に実施した調査では、エンゲージメントと離職率に相関関係があると明らかになりました。

対象 離職率
従業員エンゲージメントの高い従業員 1.2%
従業員エンゲージメントの低い従業員 9.2%

自社への帰属意識や愛着心が育まれることで、「会社を辞めたい」「転職したい」と思う従業員が減り、人材流出リスクを削減できます。さらに働きやすい環境作りに取り組んでいる企業として知名度が上がれば、世間における企業イメージも向上します。

「この会社で働きたい」「経営理念や社風に共感できる」と感じる人材が増え、求職者が増加すればより優秀な人材を集めることが可能です。

参考:Corporate Leadership Council Driving Performance and Retention Through Employee Engagement

従業員の心身が健康的になる

厚生労働省の調査「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」では、強い不安やストレス(以下「ストレス」と呼称。)になっていると感じる事柄がある労働者の割合は53.3%に達しています。精神的なストレスはうつ病や不眠を引き起こす他、高血圧、高血糖・糖尿病といった生活習慣病の一因になる可能性があります。

組織エンゲージメントを高めるための対策を施し、従業員の精神的ストレスを緩和してください。健康的な従業員が増えることで、企業に活気が生まれ風通しのよい職場になります。

参考:厚生労働省 令和3年労働安全衛生調査(実態調査)の概況

参考:京都府 ストレスによるさまざまな問題

企業の生産性が向上する可能性がある

厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」において、ワーク・エンゲイジメントと労働生産性には、正の相関関係があると発表されました。

働きがいスコア 生産性が向上していると感じるスコア
2以下 2.37
3 2.93
4 3.36
5 3.84
6 4.39

また米国ギャラップ社の調査によると、 エンゲージメント指数上位 25%の事業所は、下位25%の事業所より、利益率が1~4%高く月間収入 ・ 売上が8万~12万ドル高いと明らかになりました。

従業員がやる気を持って仕事に取り組むことで、業務効率がアップしたり革新的なアイデアが生まれやすくなります。

そのため企業の生産性を向上させたい場合、組織エンゲージメント対策が有効です。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析

参考:PLAZA エンゲージメントとタレントマネジメント

組織エンゲージメントを高める方法とは?

ここからは、組織エンゲージメントを高める際の手順を紹介します。

1.組織エンゲージメントを調査する

まずは従業員意識や企業実態を調査・分析します。実態調査にはエンゲージメントサーベイが有効です。

サーベイはアンケートに似たもので、従業員の仕事に対するモチベーションやストレスの度合いなどをスコアリングできます。

サーベイの種類はいくつかありますが、「eNPS」や「Q12」などが有名です。

また、エンゲージメントサーベイの実施以外にも、1on1でのミーティングによって、従業員の感じていることや悩みを聞き取り調査するのも有効です。

人目につく場所では言いにくいことでも、1対1であれば話しやすい雰囲気が生まれます。

実態に即した対策を実施し、取り組みの効果を最大限に引き出してください。

エンゲージメントサーベイのやり方については、以下の記事でも詳しく解説しています。

あわせて読みたい:エンゲージメントサーベイとは?意味と重要性、意欲向上のポイント

2.組織のビジョンを定着させる

将来的なビジョンが明確でなければ、適切なゴールが設定できません。従業員にとっても「将来性のない企業」「従業員の未来を考えていない企業」といったイメージが定着してしまい、組織エンゲージメントを高めにくくなります。

そのため繰り返し組織のビジョンや仕事の目的を従業員に伝えてください。メールやミーティングの機会を利用して広報する、公式サイトに記載するなどさまざまな手段を用いて、組織ビジョンを広めることが大切です。

3.能力を高められる環境を構築する

組織エンゲージメントを高めるためには、従業員が「正当に会社から評価されている」と感じられる環境が必要です。キャリアやスキル、能力の開発ができる体制を構築することで、会社への信頼度が高まります。福利厚生を充実させたり、評価制度の見直しをしたりしながら、従業員の働きやすい環境を整えてください。

従業員の成長は企業の生産性向上にもつながるため、本人だけでなく企業にとってもプラスとなります。

4.労働環境を見直す

生活満足度と労働時間は大きく関係しており、コロナ禍により労働時間が減少したことで生活満足度が向上したとするデータも出ています。また同調査では、趣味や生きがいがある人は精神的なストレスを受けない割合が高くなることも明らかになりました。

仕事に費やす時間が長いとその分自由な時間が減り、趣味や生きがいに費やせる時間も減少します。

従業員がワークライフバランスを整えられるよう、残業時間や休暇制度を見直してください。プライベートが充実すると、従業員の仕事に対するモチベーションや帰属意識も高まります。

参考:厚生労働省 満足度・生活の質に関する調査報告書 2022

参考:独立行政法人経済産業研究所 労働時間が生活満足度に及ぼす影響 

組織エンゲージメントを高めるためのポイント

組織エンゲージメント向上においては、ただ闇雲に施策を導入するだけでは不十分です。組織エンゲージメントを高めるためのポイントを押さえ、施策を成功させてください。

ウェルビーイング経営を導入する

ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態のことです。HR総研が実施した調査では、ウェルビーイング経営を導入することで、社内エンゲージメントの向上や社員モチベーションの向上、社内コミュニケーションの活性化といった効果が出ていると回答した方が多かったと明らかになりました。

実感できる効果 割合(%)
社員のエンゲージメントの向上 57%
社員のモチベーションの向上 50%
社内コミュニケーションの活性化 33%
企業価値の向上 22%
優秀な人材の確保 13%

ウェルビーイング経営を進める際は、労働環境を見直し、従業員にとって社会的な充足感を得られる職場を目指す必要があります。

具体的な取り組み内容や進め方については、以下の記事も参考にしてみてください。

関連記事:ウェルビーイング経営とは?メリットや取り組みの進め方を徹底解説

参考:HR総研 「ウェルビーイングと健康経営」に関するアンケート 結果報告【ウェルビーイング編】

健康経営を始める

健康経営を実施するのも方法のひとつです。健康経営の目的は従業員が生き生きと働ける環境を整備することであり、企業は自社に合った施策を戦略的に導入していきます。

従業員の働きやすい環境を作る意味では、健康経営もウェルビーイング経営と似たところがあるといえるでしょう。

ただし健康経営の場合は健康経営優良法人認定制度があることから、自社の取り組みに対する評価が分かりやすい点が特徴です。

また健康投資管理会計ガイドラインを活用すれば、従業員投資の状況を簡単に可視化できます。

「自社の現状が分からない」「何から始めればよいのだろう」と悩んでいる企業は健康経営を導入してください。

参考:経済産業省 「健康投資管理会計ガイドライン」を策定しました

あわせて読みたい:健康経営の進め方とは?組織体制の整え方や効果的に進める方法を紹介

継続して取り組みを実施する

組織エンゲージメントを高めるにはPDCAサイクルを用いて、定期的に内容を見直ししながら取り組みを継続することが大切です。

【PDCAサイクルの意味】

・Plan:計画

・Do:実行

・Check:測定/評価

・Action:対策/改善

PDCAサイクルは、フレームワークの一種です。このサイクルを繰り返すことで課題が明確になり、現状に合わせた取り組みを効果的に実行できます。

組織エンゲージメントに関する対策を実施したら、その効果を分析しつつ施策内容を改善してください。

ツールやサービスの利用を検討する

自力でエンゲージメントを高めるための施策を導入できないときは、ツールやサービスを活用してください。エンゲージメントの向上や健康経営の推進を目的としたツールやサービスは数多くあり、活用することでコミュニケーションの活性化、情報分析が簡単にできます。

ツールやサービスで業務を効率化することで、施策の導入や結果の分析にかかる工程や従業員への負担、人件費を軽減してください。

組織エンゲージメントを高めた企業の導入事例3選

ここからは組織エンゲージメントの具体的な導入事例を紹介します。

スターバックスコーヒージャパン株式会社

出典:スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒージャパン株式会社は、1971年にアメリカ・シアトルで誕生したカフェです。

「従業員の一体感を醸成していくための核は、マニュアルではなくエンゲージメントである」との考え方を採用しており、スターバックスにはマニュアルがほとんどないといわれています。

スターバックスの施策例は次の通りです。

・マニュアルを導入しない

・リモートワークの導入

・時短勤務の導入

特に女性活躍には力を入れており、全国1,656店舗の約6割で女性がストアマネージャーに就任しています。さらにForbes JAPANが主催する真の女性活躍を目指すアワード「JAPAN WOMEN AWARD 2019」において、企業部門(1,000名以上の部)で7位を受賞しました。従業員がジェンダーレスに活躍できるよう、働きやすい職場環境が構築されています。

参考:スターバックスコーヒージャパン株式会社 パートナーが築く未来

参考:スターバックスコーヒージャパン株式会社 合言葉は「ワーク・ライフ・ブレンド」。人生を豊かにする働き方

株式会社LIXIL

出典:株式会社LIXIL

建材・設備機器や住関連サービスを提供する株式会社LIXILでは、従業員のエンゲージメントを高めることを目的に、「従業員エクスペリエンス」(従業員が組織の中で体験するあらゆる価値経験)に注力した取り組みを開始しています。

導入施策の例は次の通りです。

・CEOの現地訪問を通じた現状把握や管理監督者への教育訓練

・各事業所の就労環境整備

・ラウンドテーブルミーティング

・1on1ミーティング

・日々の取り組みに対して同僚に感謝を伝えるツールの運用

取り組みの結果、従業員意識調査エンゲージメント肯定的回答の割合は73%に到達し、2020年の35.0%と比較すると倍以上の伸びが見られました。

参考:株式会社LIXIL 働きがいのある職場

株式会社エイチームブライズ

出典:株式会社エイチームブライズ

株式会社エイチームブライズは比較サイトやスマートフォン向けコンテンツを開発・運営する、国内大手のIT企業です。組織エンゲージメント向上に関しては、次の施策を導入しています。

・社内外におけるコミュニケーション活動の強化

・社員面談を通したキャリア形成をサポート

・社内LT大会「2020夏LTフェスティバル」の開催

「2020夏LTフェスティバル」では、「ハナユメ」の運営に関わるすべての職種のメンバーが参加し、従業員間のコミュニケーションを向上させることに成功しています。

また日本における「働きがいのある会社2020」ランキングのベストカンパニー155社のうち、大企業部門の5位にランクインしました。

同社が運営するブライダルサービス「ハナユメ」も、2018年オリコン顧客満足度調査「結婚式場相談カウンター」において、国内最大評価となる「1位」を2年連続で獲得しています。

参考:株式会社エイチームブライズ 「モチベーションチームアワード2021」でグループ会社2社が受賞

参考:GreatPlaceToWork 2020年版働きがいのある会社女性ランキング

参考:日刊工業新聞 ハナユメがオリコン顧客満足度『結婚式場相談カウンター』の第1位を2年連続で獲得

まとめ:エンゲージメント向上には課題に適したツールの活用が有効

組織エンゲージメントは健康的な企業作りに必要不可欠です。従業員のエンゲージメントを向上させることで心身が健康になり、働く意欲も高まります。

しかし、日本における組織エンゲージメントの現状は望ましいものではありません。組織エンゲージメントを向上させるためには、「労働環境の見直し」「従業員への投資制度の構築」などが必要です。ツールやサービスを活用しながら、自社課題に合った施策を導入してください。

従業員同士のコミュニケーション機会を創出したいときや健康意識を向上させたいときに最適なのが、「KIWI GO」アプリです。「KIWI GO」アプリをスマートフォンやスマートバンドに連結させて運動すると、運動量に応じてコインを受け取れます。貯まったポイントは「ごほうび」に交換できるため、運動が苦手な従業員も楽しく体を動かせます。

またイベントの立ち上げも簡単にできるため、同じ趣味を持つ仲間や近くの従業員と気軽に交流できます。

従業員同士のコミュニケーションを活性化させ、働きやすい職場環境を構築したいと考えている企業は、ぜひ導入を検討してみてください。