2020年に改正労働施策総合推進法が制定され、ハラスメント対策は全ての企業において必須の項目となりました。また健康経営を推進したいと考える中で、ハラスメント対策を実施したいと考える企業は多いでしょう。

そこで本記事では、健康経営とハラスメントとの関係性やハラスメント対策法を紹介します。ハラスメントの種類や日本の現状、ハラスメント被害が起きたときの対処法なども解説するため、ハラスメント対策の導入を検討している企業はぜひ参考にしてください。

職場で起こり得るハラスメントの種類

  

ここでは、職場で問題となりやすい主なハラスメントの種類を解説します。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントは、以下の3つの項目を全て満たす状態を指します。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • 従業員の就業環境が害されるもの

パワーハラスメント被害の対象は、非正規従業員、派遣従業員を含む全ての従業員です。またパワハラの代表的なケースには、6類型があります。

  • 身体的な攻撃:暴行や傷害
  • 精神的な攻撃:脅迫や名誉棄損、侮辱など
  • 人間関係からの切り離し: 隔離や仲間外し、無視
  • 過大な要求:遂行不可能なことの強制、業務妨害
  • 過小な要求:仕事を与えないこと、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること
  • 個の侵害:私的なことに過度に立ち入る行為

上記のパターンに当てはまらなくても、パワハラと見なされるケースもあります。一方、客観的に見た際に業務上必要かつ正当性のある指示・指導については、パワーハラスメントに該当しません。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について

セクシャルハラスメント(セクハラ)

セクシャルハラスメントとは、意に反する性的な言動への対応により不利益を被ったり就業環境が害されたりすることです。セクシャルハラスメントの対象者は事業主が雇用する全ての従業員であり、同性に対するものも含まれます。具体的なセクシャルハラスメントの内容は次の通りです。

  • 性的な事実関係を尋ねる
  • 性的な内容の情報(噂を含む)を流布する
  • 食事やデートへの執拗な誘い
  • 性的な冗談やからかい
  • 必要なく身体へ接触する

セクシャルハラスメントは「対価型」と「環境型」の2パターンに分けられます。対価型は、セクシャルハラスメントを拒否したことで解雇や 降格、減給といった不利益が発生するものです。

一方、環境型はセクシャルハラスメントを拒否したことで、就業環境が不快なものとなり能力を十分に発揮できなくなるなどの悪影響が生じるものを指します。

参考:厚生労働省 職場のセクシュアルハラスメント対策は あなたの義務です!!(資料)

妊娠・出産・ 育児休業等ハラスメント

妊娠・出産・ 育児休業等ハラスメントとは、妊娠・出産・介護などの理由により休業等を申出・ 取得したことを理由として就業環境が害されることです。

妊娠・出産・ 育児休業等ハラスメントは、「制度等の利⽤への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類に分類されます。

制度等の利⽤への嫌がらせ型に当てはまるのは、解雇や減給など不利益な扱いを受けることや制度等の利⽤を阻害されるなどの行為です。

一方、状態への嫌がらせ型は継続的な嫌がらせや、不利益な扱いを示唆される行為などが該当します。

参考:厚生労働省 職場のハラスメント対策セミナー

モラルハラスメント(モラハラ)

モラルハラスメントは「モラル(道徳や倫理)」と「ハラスメント(嫌がらせ)」を組み合わせた言葉となっており、一般的には言動や行動などで行う「見えない暴力」を意味します。具体的な内容は次の通りです。

  • 従業員の人格、能力、または努力に対する度重なる否定的な評価や侮辱。例えば、「君は何をやってもダメだ」「お前はこの仕事に向いていない」などの発言をする
  • 従業員の私生活に関する不適切な関心や干渉。例えば、家族関係や健康状態について不適切な質問を繰り返す
  • 過度に皮肉や嫌味を含む言動。例えば、皮肉を交えた評価や、他の従業員の前での侮辱的なコメントをする

ただし、モラルハラスメントにおける「モラル」には幅広い意味があり、モラルハラスメントの定義については明確化されていないのが現状です。

ジェンダーハラスメント

ジェンダーハラスメントとは、性別を理由とした嫌がらせや差別的な扱いです。セクシャルハラスメントとは異なり、相手への好意や関心から来るものではなく性別に対する固定概念が起因するものです。具体的な行為の例は次の通りです。

  • 「女なのに」「男のくせに」といった言葉をかける
  • 性別によって仕事内容に差をつける
  • 性別によってキャリア形成の方法や速度を変える

ジェンダーハラスメントは、性別によって社会的役割が異なるという考え方が浸透している職場では発生しやすいとされています。なお、男女雇用機会均等法では、「性別を理由に差別的扱いをしてはならない」といった規定があります。

参考:厚生労働省 男女雇用機会均等法の概要

日本のハラスメントに関する実態

ここからは日本におけるハラスメントの現状、ハラスメント対策における課題について解説します。

カスタマーハラスメントの増加

カスタマーハラスメントとは「顧客」「取引先」からの嫌がらせ、迷惑行為です。日本では現在、カスタマーハラスメントが増加傾向にあり問題となっています。

厚生労働省の調査では過去3年間に受けた各ハラスメントに関する相談のうち、パワハラ、妊娠・出産・ 育児休業等ハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為については「件数は変わらない」の割合が最も高いことが明らかになりました。また顧客等からの著しい迷惑行為について「件数が増加している」の割合が高くなっており、「件数が変わらない」と合計すると約45%に到達しています。

カスタマーハラスメントが原因でパワーハラスメントやモラルハラスメントなど別のハラスメントが起こる恐れもあり、注意が必要です。

参考:厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査

日本のジェンダー意識

2022年7月に発表された世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」において、日本は116位となりました。ジェンダーギャップ指数とは、「経済参画」「政治参画」「教育」「健康」の4つの分野に点数をつけて各国における男女格差を数値化したものです。

ランクが低いほど男女格差が広がっていることを意味しています。先進国や近隣諸国のランキングは次の通りです。

ランキング 国名
1位 0.908 アイスランド
2位 0.860 フィンランド
3位 0.845 ノルウェー
10位 0.801 ドイツ
22位 0.780 イギリス
27位 0.769 アメリカ
99位 0.689 韓国
102 0.682 中国
116 0.650 日本

日本においては前年度のスコアとほとんど変化がなく、ジェンダーに対する意識改革の成果が現れていないことが分かります。

参考:男女共同参画局 世界経済フォーラムが「ジェンダー・ギャップ指数2022」を公表

参考:世界経済フォーラム The Global Gender Gap Report 2022

改正労働施策総合推進法の適用

大企業ではパワハラ防止対策を義務化するため、2020年6月1日に改正労働施策総合推進法が施行されました。なお、中小企業でも2022年4月1日より同法律が適用されています。

ただし令和2年度の厚生労働省の調査において未だに31.4%の労働者が「過去3年にパワハラ被害に遭っている」と回答しており、「過去3年間にパワハラ相談があった」と回答した企業は48.2%にのぼります。

パワハラ防止に対する対策を強化した今でも、パワーハラスメントを大きく減らすには至っていません。今後も各企業において、継続的な対策を実施する必要があります。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について

ハラスメントが発生しやすい職場の特徴

ハラスメントが起こりやすい企業の特徴は、次のとおりです。

  • 従業員同士のコミュニケーションが少ない
  • 人事評価制度が整っていない
  • 従業員間の競争が激しい
  • 福利厚生を利用しにくい

また厚生労働省のパワハラに関する調査では、以下の項目でハラスメント被害経験者の回答率が未経験者の回答率を大きく上回ることが明らかになりました。

  • 上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない
  • ハラスメント防止規定が制定されていない
  • 失敗が許されない/失敗への許容度が低い
  • 従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる

ハラスメント被害経験者と未経験者、立場や役職などによって対策が必要となるハラスメントも異なります。自社の状況を分析しながら、適切なハラスメント対策を立てましょう。

参考:厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査報告書

健康経営とハラスメントの関係性

健康経営とは、従業員が生き生きと働ける環境を整備することを目的とする経営戦略です。健康経営とハラスメントは密接に関連しており、ハラスメントを受けると、被害を受けた従業員の心身に悪影響が出る恐れがあります。さらに職場内でハラスメントを目撃すると、「自分が次の被害者になるかもしれない」という恐怖に繋がり、ストレスや職場に対する不信感を引き起こします。

厚生労働省の調査でもハラスメントを受けたことによる心身への影響として、「怒りや不満、不安などを感じた」と回答した者の割合が最も高く、次いで「仕事に対する意欲が減退した」という回答の割合が高いという結果が出ています。

従業員の健康を守りつつ安定的に経営を行うため、企業規模を問わずハラスメント対策の導入は必須です。健康経営によるハラスメント対策を実施し、企業の健全性を維持してください。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について 

ハラスメント予防に効果的な対策

ハラスメント対策は主に、発生する前に実行する「予防」と発生した後の対策となる「アフターケア」の2種類に分類されます。まずはここから紹介する予防策を取り入れ、ハラスメントの発生を抑止してください。

ハラスメントに関する理解を深める

まずは、ハラスメントが発生する原因をなくす予防策を実施してください。ハラスメントが起こるきっかけを削減できれば、被害も小さくできます。具体的な対策は次の通りです。

  • ハラスメントに関する研修や教育の機会を設ける
  • ハラスメント発生の原因や背景を従業員に周知・啓発する
  • 就業規則や職場における服務規律等を定めた文書を作成し広報する

ハラスメントに対する従業員の意識を高めることが、効果的な予防に繋がります。また研修や講習を通して、「どのような行為がハラスメントに該当するのか」といった具体例を示すことも大切です。従業員の意識が変化することで、無自覚による加害は減少します。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について

ハラスメント対策の明確化と周知を進める

企業全体としては事前にハラスメントが発生した場合の対処、対象となるハラスメントの定義や具体例を規定する必要があります。規定を設けることで、従業員が「もしハラスメントが起こった場合どうなるか」をイメージしやすくなります。

また対策をルール化することで個人の価値観に寄与する曖昧な部分がなくなり、第三者にとっても善悪の判断をつけやすくなるでしょう。

なお、規定は全従業員に漏れなく周知してください。派遣従業員やパート従業員など、労働条件にかかわらず通知を済ませましょう。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について 

ハラスメント被害が起きたときの対策

2つめのハラスメント対策として、実際に被害が発生した場合の「アフターケア」があります。厚生労働省で推奨されているアフターケアの方法は主に3パターンです。

相談窓口で対応を行う

ハラスメントが発生した場合、上司や同僚に相談しにくいと感じる方は少なくありません。企業は相談窓口を設置して従業員が気軽に相談できる環境を設ける必要があります。

なお、窓口の担当者がハラスメント加害者であった場合に備え、相談窓口の担当者は2人以上にしてください。また窓口を設置する際には、次の点にも心がけましょう。

  • 必ず相談者本人のプライバシーが守られること
  • 相談に来たことを尊重すること
  • 二次被害が生じないように対応すること

上記の原則はマニュアル化し、全ての担当者で平等な対応ができるようにしてください。

また、電話、メールなど複数の方法で受けられるようにするのも有効な方法です。さまざまな方法で相談できるようになれば、リモートワークや海外出張中、現場作業中の問題にもスムーズに対応できます。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について

参考:厚生労働省 職場のセクシュアルハラスメント対策は あなたの義務です!!(資料)

職場環境改善のため取り組みを強化する

業務体制を見直し労働環境を整備することで、ハラスメントを削減できる可能性があります。例えば従業員間の競争が激しい場合、他者を蹴落とそうとする意識から「業務の妨害」「嫌がらせ」といったハラスメントが発生しやすくなります。ハラスメントを削減するためには、労働環境や会社風土の見直しが必要です。

また人事評価制度を整え、より客観的な人事評価を意識することも重要です。360度フィードバック、ピアレビューといった評価方法を取り入れることで、上司からの「印象」や「相性」だけで不当な評価を受けるリスクを軽減できます。

参考:厚生労働省 職場におけるパワーハラスメント対策について

従業員間のコミュニケーションを増やす

厚生労働省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」では、「勤務先が今後実施した方がよい取り組み」の項目に対して、30.4%の従業員が「コミュニケーションの活性化や円滑化のための取り組み」を挙げています。

従業員間のコミュニケーションを増やせばお互いの理解に繋がり、働きやすい環境が構築されます。自社の状況に適した対策を導入するためにも、アンケート調査や意見交換等を実施し、従業員の現状を把握してください。

参考:厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査報告書

まとめ:健康経営においてハラスメント対策は必要不可欠

健康経営においてハラスメント対策は密接に関連しており、無視できるものではありません。ハラスメント対策には、「相談窓口での対応」や「ハラスメント対策の明確化」「従業員間コミュニケーションの活性化」などが有効です。自社の状況に合わせて、適切な対策を導入してください。

なお、コミュニケーションの活性化には「KIWI GO」アプリがおすすめです。「KIWI GO」は福利厚生ヘルスケアサービスで、アプリをダウンロードすると運動の記録として歩数を自動的に計算・保存してくれます。アプリを使用したイベントの立ち上げにより気軽に交流の機会を創設できるため、従業員同士のコミュニケーションも深まります。ハラスメント対策、運動不足解消のきっかけとして、ぜひ「KIWI GO」をご活用ください。