サステナブルの概念が浸透し、企業経営においてESGを重視する動きが活発化しています。

ESGへの取り組みは企業利益だけでなく社会的な価値も生み出すため、社会からの期待は企業規模を問わず高まっています。

しかし、中小企業にとって健康経営を推進しつつ新たな戦略を立てるのは容易ではありません。

「健康経営をESGやSDGsも絡めて進めたいと思うが、どうすればいいかわからない」

「長期的な企業利益について考える余裕がない」

上記のように悩んでいる企業担当者は多いでしょう。

そこで本記事では健康経営とESGの関係、ESGを意識して健康経営を促進し成果を上げている取り組み事例を解説します。

 

健康経営が推進される背景

健康経営とは、従業員の健康管理を経営面で戦略的に実践することです。

従業員への健康投資は組織の活性化をもたらし、業績の向上につながると期待されています。ここからは近年、健康経営が推進される背景を解説します。

 

生産年齢の上昇

日本では総人口が減少するなか、65歳以上の人口は増加しており高齢化が進んでいます。

内閣府の推計によると、2036年において国民の3人に1人が65歳以上となるとされています。

出典:内閣府 令和4年版高齢社会白書

 

生産年齢は今後も上がり続けると予想されることから、医療費増加に歯止めをかけるためにも青年期から早期に健康づくりを行うことが重要です。

しかし従業員の健康づくりを個人に任せるのには、限界があります。そのため企業全体として健康経営を推進し、健康意識を高めなければいけません。

 

人手不足の深刻化

株式会社帝国データバンクの調査によると、人手不足を感じている企業の割合は正社員で51.7%でした。

5割を超えるのは5か月連続であり、深刻な人手不足が続いている状況です。

出典:株式会社帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 1 月)

 

少子化の進行などで人材確保が困難になるなか、従業員一人ひとりへの負担はますます重くなります。

そのため人材難の時代には、従業員が健康で能力を最大限に発揮できる環境を整えることが重要です。

業務効率化により負担を減らしつつ、従業員が前向きに働ける環境を構築してください。

 

ウェルビーイング志向の高まり

ウェルビーイングとは、心身の健康だけでなく社会的にも満たされた状態のことです。

SDGsや働き方改革に深く関連していることから、多くの企業で従業員のウェルビーイングに注目する動きが加速しています。

ウェルビーイングには精神的、社会的な健康が含まれますが、ウェルビーイング実現の基礎となるのは健康の保持・増進です健康経営を促進し、ウェルビーイング実現につなげてください。

あわせて読みたい:ウェルビーイングとは?経営における重要キーワードの意味と対策を解説

 

ESGとは

ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」を考慮した投資活動や企業経営のことです。ESGを構成する要素と詳しい意味は、次のとおりです。

 

要素の詳しい意味

E(環境)

気候変動や生物多様性への配慮

S(社会)

人権やダイバーシティに関する対策

G(ガバナンス)

情報開示や法令遵守の推進

従来、企業価値はおもに業績や財務状況の分析をもとに測定されていました。

しかし、経済発展とともに環境や社会問題への懸念が高まり、利益追求型の企業経営だけでは持続的な成長は見込めないとする考え方が広がりました。

現在、ESGへの取り組みは長期的な企業価値につながるとされ、より良い経営を行う企業を表す新たな指標として重視されています。

ESGは持続可能な開発目標(SDGs)と似ていますが、SDGsが目標であることに対し、ESGは目標達成のための手段ややり方としての側面が強く出ています。

ESGを意識した取り組みを行うことは、最終的にSDGsの達成にもつながります。

あわせて読みたい:健康経営とSDGsの関係とは?企業が取り組むメリットと事例紹介

 

ESGが注目されるようになった背景

ESGは、もともとは投資活動において生まれた言葉です。

ここからはESGが企業経営で注目されるようになった世界的な背景、および日本における動向について整理します。

 

ESG投資の普及

ESG投資とは、ESG要素を考慮する投資手法のことです。

そもそも社会が企業に寄せる期待を投資行動に反映させる考え方は、宗教的な価値観を起源とする社会的責任投資(SRI)を主流としていました。

しかし、時代が進み環境や社会問題への関心が高まったことで、2006年国連による責任投資原則(PRI)の提唱を機にESG投資が普及しました。

SRIは特定の投資家に限った投資手法とされがちですが、ESGは社会全体を取り巻く課題でありすべての人に関わります。

参考:ピクテ・ジャパン ESG投資編(4) ESG投資とSRI、SDGsの違いと関係

 

コーポレート・ガバナンス改革の推進

ESGのG(ガバナンス)にあたる取り組みとして、コーポレート・ガバナンス改革が挙げられます。

コーポレート・ガバナンスとは社外取締役の設置や規則の明確化などを通じて、企業経営を監視する仕組みのことです。

ガバナンス機能について企業の責任が問われる一方、機関投資家の投資行動における責務を示したものが2014年策定の「スチュワードシップ・コード」です。

コードには、投資行動においてESG要素を含む中長期的な持続可能性を考慮するべきであると明記されています。

さらに、企業と機関投資家のそれぞれの責務が適切に相まってこそ、上質なコーポレート・ガバナンスが実現されるとされています。

こうした動きの結果、多くの機関投資家が企業のコーポレート・ガバナンスを重視するようになりました

参考:金融庁 「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫

 

企業の社会的責任(CSR)の重要性

CSRとは環境や人権、労働などに配慮する視点から企業が社会に果たすべき責任のことです。

日本では1990年代以降、企業の不祥事の急増などによりコンプライアンスの概念が注目され始めました。

企業と社会との関係があらためて問われる時代において、CSRの重要性はますます高まっています。

参考:労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書 No.32「CSR経営と雇用」

企業が取り組むCSRと、ESG要素は強く関連しています。

例えば、CSR経営の考え方の一つである「トリプル・ボトムライン」は、経済面・環境面・社会面の3つに配慮しサステナビリティ向上を図るものです。

CSRの観点からも、ESGへの意識は重要です。

参考:中小企業基盤整備機構 企業の社会的責任(CSR)について教えてください。

 

健康経営とESGの関連性

国連による責任投資原則(PRI)ではESGのS(社会)について、人権・労働条件・従業員関係(エンプロイー・リレーションズ)などを例示しています。

参考:PRI PRIパンフレット2021(日本語)

 

健康経営も従業員の心身の健康を尊重する取り組みであることから、ESGのS(社会)とは方向性が一致するといえます。

したがって健康経営は、ESG経営におけるS(社会)に関する戦略の一つとして実施されるべき位置づけです。

 

健康経営でESG課題に取り組むメリット

ESG課題の解決に向け、企業の取り組みは必須です。

ここではS(社会)に関する健康経営での取り組みが、企業や社会にもたらすメリットを解説します。

社会的評価の向上

持続的かつ長期的な視野で成長が期待される企業について、社会的評価は今後ますます高まります。

評価の高まりは、企業ブランドの確立につながります。社会からの注目度が向上すれば、ライバル企業との差別化を図ることが可能です。

さらに、労働市場での存在感が強固になり、就職希望者の増加も期待できます。

 

SDGs達成への貢献

2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)について、目標の達成に向けた世界の取り組みが加速化しています。

そのため、企業がESG課題に取り組むことは、SDGs達成のための手段として重要な意義があります。

「SDGsアクションプラン2023」において「健康・長寿の達成」は重点事項に掲げられており、具体的な施策として健康経営の推進が明記されています。

広義での健康を実現するため、企業として幅広い対策が必要です。

参考:外務省 SDGsアクションプラン2023

 

人手不足への対策の推進

ESGのS(社会)は、人権問題や労働条件に関する課題を含んでいます。ESGを重視する企業として、改善に向けた取り組みを行いましょう。

人手不足が慢性化するなか、従業員が心身ともに健康で働き続けられるための対策は必須です。

従業員が毎日健康で過ごせるようになれば、離職防止につながり人手不足への対策として効果的です。

また、健康経営には従業員のプレゼンティーズム(何らかの疾患や症状により仕事の生産効率が低下した状態)を解消する効果もあります。

従業員のストレスを把握し、適切なサポート体制を整備してください。

あわせて読みたい:プレゼンティーズム対策は万全?健康に働ける環境を整えるための具体的な方法

 

企業価値の創出

環境省の報告書によると、企業価値には「企業自身に対して創造される価値」と「他者に対して創造される価値」の2つの側面があります。

企業が他者に対して創造される価値に注力すれば、経済の持続的成長と国民の福利向上につながります。

企業価値分析においては、ESGなどの非財務的な情報も考慮することで正確な収益が予想できるとされます。ESG情報を積極的に開示し、企業価値をさらに高めてください。

なお、ESG情報など非財務的な情報を効果的に開示したい上場企業には、経済産業省が発表している「価値協創ガイダンス」がおすすめです。

「価値協創ガイダンス」を活用し、企業の価値観や戦略を詳しく伝えてください。

 

参考:環境省 環境情報を企業価値評価に活用するための考え方に関する報告書

  :首相官邸 内閣府知的財産戦略推進事務局 構想委員会第3回資料

  :経済産業省 企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」 

 

ESG経営を推進する企業の取り組み事例

ESG経営を理念に掲げる企業では、戦略の一つとして健康経営を実施しています。ここでは企業理念や健康経営に関する取り組み事例を紹介します。

 

アフラック生命保険株式会社

出典:アフラック生命保険株式会社

アフラック生命保険株式会社は社会課題の解決を通して、経済的な価値と持続的な成長の両立を目指しています。ESG戦略としてはガバナンス態勢の維持・強化をベースに、環境経営やダイバーシティの推進などに取り組んでいます。

実際に導入されている「セルフヘルスチェック」では、従業員が運動や食事、飲酒など5つのテーマから生活習慣を振り返ることができます。

また、チェックの結果から個人目標を設定し、100日間の継続にチャレンジする「まいにち健康チャレンジ」も実施しています。

2022年は従業員の約5割が「まいにち健康チャレンジ」に参加しました。

実施後のアンケートでは約8割が「仕事や生活に好影響があった」と回答し効果を発揮しています。

参考:アフラック生命保険株式会社 共有価値の創造に向けたESGの取り組み

  :アフラック生命保険株式会社 健康経営の推進/がん・傷病就労支援について 

  :アフラック生命保険株式会社 健康経営の主な取り組み 

 

株式会社奥村組

出典:株式会社奥村組

株式会社奥村組は「2030年に向けたビジョン」のもと、社会の持続的な発展に貢献するためESGやSDGsへの取り組みを強化しています。

また、そのビジョンのなかで従業員の健康づくりを積極的に支援し、いきいきと活躍してもらうためのさまざまな取り組みを実施してきました。

具体的な施策としては、企業が費用の全額を負担する禁煙プログラムや、健康ポイントアプリの導入などがあります。

ポイント制度では健康の保持・増進に関する自発的な行動にポイントを付与することで、健康意識が自然と向上する仕組みを作っています。

さらにメンタルヘルスケアについては企業内に加え、外部機関による相談窓口も設置することで365日・24時間のサポート体制が整備されています。

参考:株式会社奥村組 ビジョン

  :株式会社奥村組 ESG/SDGsに関わるマテリアリティ(重要課題)

  :株式会社奥村組 健康経営 

 

三井不動産株式会社

出典:三井不動産株式会社

三井不動産株式会社は「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」を理念に掲げ、社会・経済の発展と地球環境の保全に貢献しています。

長期経営方針「VISION 2025」ではESG課題への重点的な取り組みを示し、その一環として従業員の安全・健康意識の向上を目指してきました。

主な取り組みとして挙げられるのはストレスチェックの強化です。

すべての従業員に対し個別面談を毎年実施し、就業実態や心身の健康状態の把握に努めています。

さらに疲労回復や心身のバランス保持のため、専門マッサージ師が常駐する体制を整え、リフレッシュ施設を設置しました。

参考:三井不動産株式会社 ESG/サステナビリティ

  :三井不動産株式会社 三井不動産グループのESGの考え方

  :三井不動産株式会社 健康と安全

 

まとめ:健康経営はESG課題への取り組みとして必要

ESGは企業規模を問わず積極的に取り組むことが求められる課題であり、健康経営はESGのS(社会)に関する重要な戦略です。

自社のESG課題において、健康経営がどのように紐付けられるかを考慮しながら取り組んでください。

経営理念や取り組みを社内外に公表することで、協力者が増加します。

健康経営を推進するチームの活発な行動も促進され、長期的な企業利益にもつながるでしょう。従業員の健康増進のため、まずは負担の少ない取り組みから始めてください。

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