近年、職場におけるハラスメントが問題です。職場でハラスメントが起きないようにするために、どのような対応をすればよいのでしょうか。
この記事では、ハラスメントの概要や種類といった基本情報と具体的な対策を紹介します。ハラスメントに関する理解を深め、予防をしましょう。
また、ハラスメント対策をしない場合のデメリットや、企業の対策事例も紹介します。
「職場環境を整えたい」「従業員が働きやすい職場にしたい」と考えている経営者・経営陣の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ハラスメントとは
ハラスメントとは、他者の尊厳を傷つけたり、不快な思いにさせたりすることです。
ハラスメントにおいて、行為者が意図を持って行っているか否かといった部分は関係ありません。
被害者が「職場に居づらい」「能力の発揮を妨げられている」「精神や身体に不調を感じる」などと感じれば、その原因となる行為がハラスメントに該当する恐れがあります。
ただし、受け取り手が不快に感じたからといって、全ての行為がハラスメントに認定されるとは限りません。
業務上必要なやり取りであった場合や受け取り手の感じ方次第では、問題のない行為とされる可能性もあります。
ハラスメントの種類
一言に「ハラスメント」と言っても、その種類はさまざまです。ここでは、ハラスメントの種類と概要を紹介します。
パワーハラスメント
パワーハラスメントとは、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を利用し、精神や身体に苦痛を与える行為です。
パワーハラスメントの例は以下の通りです。
- 体を殴ったり蹴ったりする
- 第三者を巻き込んで、陰口や悪口を言う
- 人格を否定するような言葉を言ったり過度に𠮟責したりする
パワーハラスメントは上司から部下に行われるものといったイメージがありますが、関係性は上司と部下に限定されません。
先輩・後輩間、同僚間、部下から上司に対してなど、様々な優位性を背景に行われます。
また、パワーハラスメントは職場で発生する確率の高いハラスメントです。令和4年4月1日からは、中小企業においてもパワーハラスメント対策が義務化されています。
【労働施策総合推進法 第三十条の二より(一部抜粋)】
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために 必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
厚生労働省が提示している「講ずべき対策」の項目は以下の通りです。
- 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき措置
ハラスメント対策の内容は細かく分けると全部で10種類あります。厚生労働省のホームページから、取り組み内容に関するパンフレットが確認可能です。
パンフレットの内容を参考にしながら、職場でパワーハラスメントによる問題が起きないよう予防を進めましょう。
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントとは、性的な事柄に関する身体的・精神的苦痛を与える行為です。
労働者の意に反する性的な言動によって、就業環境が害されたり、業務上の不利益を被ったりすることを指します。セクシュアルハラスメントとされる行動の一例は以下の通りです。
- 性的関係を強要する
- 身体を必要以上に触る
- 交際関係や性的事実について尋ねる
- 「男らしい」「女らしい」などの性別役割分担意識を押し付ける
男性から女性に対して行われるイメージが強いものの、女性から男性、あるいは同性間であってもセクシュアルハラスメントの対象です。
なお、セクシュアルハラスメントも、令和2年6月1日に防止対策の義務化が施行されています。
事業主は、以下のような対策を行わなければなりません。
- 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 相談があった場合において、事実関係の把握と適正な対処
- 対象者のプライバシーの保護と、不利益な取扱いをしないことの周知・啓発
- 業務体制の整備など、職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置を講ずること
業種や事業規模などに関わらず、どの企業においてもセクシュアルハラスメントの対策が求められています。
また、令和4年4月1日より、パワーハラスメントの防止対策義務化に合わせてセクシュアルハラスメント対策の内容が強化されました。詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
モラルハラスメント
モラルハラスメントとは、精神的な苦痛を与える行為のことです。「モラル」とは「道徳」や「倫理」を意味します。モラルハラスメントに該当する行為の一例は以下の通りです。
- 相手を無視する
- 理不尽に不機嫌な態度をとる
- プライベートな事柄に執拗に介入する
モラルハラスメントでは、身体的な攻撃はありません。しかし、態度や言動により、相手に精神的苦痛を与えると、モラルハラスメントに該当する恐れがあります。
その他のハラスメント
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、モラルハラスメント以外にも、複数のハラスメントが存在します。
- マタニティハラスメント:妊娠や出産、育児などをきっかけとした不当な取り扱いのこと
- アルコールハラスメント:飲酒の強要や飲めない人への嫌がらせといった迷惑行為のこと
- 時短ハラスメント:仕事量を削減しないまま労働時間の短縮だけを強要すること
- ケアハラスメント:介護をしながら働く人に対して、制度利用の妨害行為や嫌がらせをすること
ハラスメントが起こる要因は、職場のパワーバランスの乱れや性的な問題だけに留まりません。原因をできるだけ早く見つけ出し、対策を施しましょう。
ハラスメントが起こる2つの要因
ここからは、ハラスメントが発生する原因を解説します。
個人の性格や考え方の相違
個人の性格や考え方の違いにより、何気ない言動がハラスメントになり得ます。
特に、年齢が大きく異なる場合は価値観や考え方にズレを感じることも多いです。
また、「今まで自分もされてきたことだから」「教育の一環だから」と悪意なく他者にハラスメント行為をするケースも考えられます。
ハラスメントに関する正しい情報を提供し、ひとり一人の意識を高めることが大切です。
コミュニケーションの不足
従業員間のコミュニケーションが不足していると相互理解が進まず、ハラスメントが見過ごされる可能性があります。
一般社団法人日本経済団体連合会が行った職場のハラスメント防止に関するアンケート結果では、次の結果が明らかとなりました。
質問:ハラスメント防止・対応の課題に関して、特にあてはまる上位3つを選択してください
【解答率の高かった上位3つの項目】
コミュニケーション不足 |
63.8% |
世代間ギャップ、価値観の違い |
55.8% |
ハラスメントへの理解不足 |
45.3% |
ハラスメント対策に悩む企業のうち半数以上が、コミュニケーション不足を自覚しています。
ハラスメントが起きにくい環境を作るため、従業員間のコミュニケーション不足を解消しましょう。
出典:一般社団法人日本経済団体連合会 職場のハラスメント防止に関するアンケート結果
ハラスメント対策をしない場合の影響
企業がハラスメント対策を施さない場合、悪い影響が起きる恐れがあります。
仕事に対するモチベーションが低下する
ハラスメントを受ける、あるいはハラスメントの現場を目撃すると、従業員のモチベーションは低下します。
ハラスメントが起こる職場では仕事を続けたいと感じられず、生き生きとした働き方が阻害されてしまいます。
仕事を辞めたい、出社したくないといった気持ちになると、従業員は仕事に集中できません。
早めに対策を施し、従業員の仕事に対するモチベーションを高めることが大切です。
働きやすい職場環境を作れば、従業員の帰属意識が高まり、やる気を持って仕事に取り組めます。生産性の向上や利益還元も期待できます。
離職や休職につながる可能性がある
ハラスメントにより被害を受けた従業員が離職する可能性は高いです。
どのような理由で離職をする人が多いのか把握するため、厚生労働省は離職者の同僚にアンケートを実施しました。結果は以下の通りです。
【離職理由上位5つ】
賃金が不満 |
44.3% |
仕事上のストレスが大きい |
37.4% |
会社の経営理念・社風が合わない |
25.3% |
職場の人間関係がつらい(職場でのいじめ、 セクハラ・パワハラを含む) |
24.4% |
自身のキャリアアップのため |
22.2% |
仕事がおもしろくない |
21.6% |
ハラスメントに関する離職理由は、24.4%を占めています。ハラスメントをきっかけにして別の会社に転職する人は少なくありません。
離職率を下げるためには、ハラスメントに関する情報を共有し行為者の意識を改善させる必要があります。
出典:厚生労働省 働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書
法的責任が問われる恐れがある
企業は、労働者に対して職場環境配慮義務を負っています。
職場環境配慮義務とは、労働者の働きやすい環境を整える義務です。ハラスメントを予防するための対策を施すことも義務に含まれます。
ハラスメントがあった場合、行為者だけでなく企業も「使用者責任」や「不法行為責任」に問われる可能性があります。
過去の裁判例は以下の通りです。
【名古屋高裁平成20年1月29日判決、原審・名古屋地裁平成18年9月29日判決 ファーストリテイリング事件】
ある衣料販売店の店長が、店長代理であった労働者の体に暴行を加えました。さらに、当該労働者の休業中に、管理部長が労働者に対して暴言を発しました。
この一連の行為により労働者が妄想性障害になり、業務に支障をきたす状態に発展したことから、店長や管理部長の損害賠償責任、企業の使用者責任が問われることとなりました。
この件では、ハラスメントをした店長や管理部長だけでなく企業の使用者責任も問われています。企業イメージの悪化を防ぐためにも、ハラスメント対策は重要です。
出典:厚生労働省 【第52回】 「他の従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事案」―ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)事件
導入しておきたい5つのハラスメント対策
ハラスメントによる問題を防ぐためには、早いうちにハラスメント対策を施し、トラブルの発生を未然に防ぐことが大切です。ここからは企業が導入すべきハラスメント対策を5つ紹介します。
ハラスメントに関する情報を共有する
従業員がハラスメントに対する正しい知識を持てるよう、研修やセミナーの機会を設けるなどの対策が必要です。
正しい情報を得ることで行為者側は自身の言動を客観的に把握でき、ハラスメントが起きにくくなります。
また、被害者側が行為者への対処法を理解すれば、相談などのアクションを起こしやすいです。
企業側が問題を早期に発見できるため、被害が大きくなる前に解決できます。
社内の情報収集と実態調査を実施する
ハラスメント予防では、実際に社内でハラスメントが起こっているか明確にし、問題解決に向けて迅速な行動を起こすことが大切です。
まずは匿名のアンケートやストレスチェックを実施し、実態把握に努めましょう。ハラスメントになり得る行為を事前に発見できれば、被害を予防できます。
相談窓口を設置する
ハラスメントや社内トラブルなどに関して相談できる専用の窓口を設置しましょう。ハラスメントを受けている従業員には、メンタルケアが欠かせません。
どのように対応すればよいのか、上司に相談すべきなのかといった点に関して、的確なアドバイスを行うことで問題解決が近付きます。
相談窓口は、ストレスを抱える従業員にとって重要です。定期的に他者に相談すれば、ストレスが削減できメンタルが安定します。
窓口を開設する際は個人情報の取り扱いに注意しましょう。知識や経験を持つ産業保健師などに相談を委託するのがおすすめです。
就業規則を整備する
就業規則の整備を進めることで、ハラスメントの予防効果が期待できます。
就業時間が長く業務の負担が増えると精神的な余裕がなくなり、他者に対してストレスをぶつける従業員が増えがちです。
時間外労働を削減したり休暇制度を充実させたりと最低限のルールを設けることで、組織風土が変化し、ハラスメントが起きにくくなります。
従業員同士のコミュニケーションを促す
働きやすい職場を作るためには、従業員同士が信頼関係を構築し、コミュニケーションを取りやすい環境にする必要があります。
お互いのことを理解できていない場合、誤解や価値観のズレは起こりやすいです。
従業員同士がしっかりとコミュニケーションを取ることで、お互いの事情や性格を把握できるため、休みの相談や業務の引継ぎなどもしやすくなります。
「チャットやアプリなどのツールを利用して連絡が取れる状態にする」「イベントを企画して親交を深める」など工夫しながら、従業員間の交流を促しましょう。
企業におけるハラスメントの対策事例3選
ハラスメントに関する、具体的な対策事例を3つ紹介します。
株式会社ジャパウイン
出典:株式会社ジャパウイン
株式会社ジャパウインは、神奈川を中心に介護関連事業を展開する企業です。株式会社ジャパウインでは、就業規則にてパワーハラスメントの禁止を制定しています。
「1.従業員はいかなる場合でもパワーハラスメントに該当するか、該当すると疑われるような言動を行ってはならない。(株式会社ジャパウイン就業規則より一部抜粋)」
また、他にも以下のような対策を実施しています。
- パワーハラスメントの禁止を明記した就業規則の個別配布
- 各事業所掲示板への掲載
- 介護プロフェッショナルマナー研修にてパワハラに該当する言動を具体的に例示した資料の配付
- 被害を受けた人の健康状態や職場改善の要望に関する聞き取り
就業規則にハラスメント禁止を明記し、従業員の目の届く場所に就業規則を掲げることで、ハラスメントを許さない雰囲気を作っています。
株式会社ココカラファインヘルスケア
ドラッグストア・調剤薬局を全国展開する株式会社ココカラファインヘルスケアは、パワーハラスメントに関する複数の取り組みを実施しています。
具体的な対策内容の一例は以下の通りです。
- 電話とメール で相談が可能な窓口を3つ設置
- 外部保健師によるメンタルケア
- 各窓口での対応フローをマニュアル化し、 人事担当者が迅速に対応
- パワーハラスメ ントに関する動画の配信
- 店舗責任者を対象に年1回の研修を実施
- 全社員に対してオンラインによる教育を実施
- クレームに関する各部署への相談の徹底
相談窓口を3つ開設している点が、株式会社ココカラファインヘルスケアのハラスメント対策の特徴です。
「社内相談窓口」「外部相談窓口」「外部EAP窓口」の3つの窓口を設置し、適切な相手に相談できるよう、体制を整えています。
東京都情報通信業
厚生労働省が発表している、「中小企業における職場のパワーハラスメント対策の好事例」も参考にしたい資料のひとつです。
東京都で情報通信業を行う某企業では、以下のような取り組みを実施しています。
- あらゆるハラスメントを排除するよう、トップからのメッセージにて明言
- 「ありがとう」が飛び交う職場の実現をモットーに設定
- コミュニケーション改善に関する研修の実施
特に、従業員間のコミュニケーションを大切にしているのがポイントです。働きやすい環境を作るためには、信頼関係の構築が欠かせません。
対象の企業では、リーダー層に対し「相手の気持ちを活かす良いコミュニケーションとは」といった研修を行うことで、風通しの良い職場環境の構築を目指しています。
出典:厚生労働省 中小企業における職場のパワーハラスメント対策の好事例
まとめ:ハラスメント対策を行い働きやすい環境を作ろう
ハラスメントにはパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント、モラルハラスメントなど、複数の種類があります。
ハラスメントを放置すると、従業員のモチベーションが低下したり、離職率や休職率が上昇したりするといった問題が発生する恐れがあるため注意が必要です。
ハラスメントに関する正しい情報を共有する、従業員間のコミュニケーションを促すなどして、ハラスメント対策を実施しましょう。
従業員のコミュニケーション促進には、KIWI GOがおすすめです。
KIWI GOは、従業員のための福利厚生アプリです。
アプリ内でイベントを企画したり、同じ趣味の仲間を集めて交流したりできるため、従業員間のコミュニケーション促進につながります。ハラスメント対策の方法を検討中の企業は、ぜひご活用ください。