労働力人口の減少や人材の流動化が進む中、従業員エンゲージメントが注目されています。

従業員エンゲージメントは仕事のパフォーマンスに影響するため、離職率低下や生産性向上に欠かせません。しかし「従業員エンゲージメントを高める方法がわからない」「具体的な取り組み事例が知りたい」と悩む担当者は多いでしょう。そこで本記事では、従業員エンゲージメント向上の企業事例とともに具体的な方法を紹介します。施策による効果も合わせて解説するので、ぜひ参考にしてください。

従業員エンゲージメントとは

まずは従業員エンゲージメントの基本情報を解説します。

従業員エンゲージメントの概要

従業員エンゲージメントとは、企業理念の達成に向けて自発的に行動しようという従業員の貢献意欲です。現在では企業の業績や生産性に関連するものとして、調査・研究が進んでいます。

ウイリス・タワーズワトソン社では、従業員エンゲージメントの3要素として「理解度」「共感度」「行動意欲」を挙げています。

  • 理解度:会社の進む方向性を具体的に理解し支持している状態
  • 共感度:組織に対する帰属意識や誇り・愛着心を持っている状態
  • 行動意欲:組織の成功のために求められる以上のことを進んでやろうとする意欲がある状態

参考:ウイリス・タワーズワトソン エンゲージメント:back to basics!~この10年間、従業員意識調査の焦点はなぜ「エンゲージメント」なのか?~ 

上記3つの要素を満たすことで、従業員エンゲージメントは高まります。

あわせて読みたい:従業員エンゲージメントとは?企業のメリットと向上させるメソッド

従業員満足度との違い

これまで職場における従業員の意識を測る指標は、従業員満足度が主流でした。

従業員満足度とは、従業員が仕事内容や労働環境にどのくらい満足しているかを測る指標です。

ウイリス・タワーズワトソン社は、従業員満足度と従業員エンゲージメントの違いを次のように定義しています。

「所属する組織、職場の状況、上司、自身の仕事などについて、「従業員が自身の物差し」で評価をするのが満足であるのに対して、「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについての自分自身の理解度、共感度、そして行動意欲を評価するのがエンゲージメントである。」

出典:ウイリス・タワーズワトソン エンゲージメント:back to basics!~この10年間、従業員意識調査の焦点はなぜ「エンゲージメント」なのか?~ 

つまり従業員エンゲージメントは給与面や労働条件における満足度だけでなく、企業が目指すゴールに向かって自ら行動する姿勢をも含むといえます。

ワーク・エンゲイジメントとの違い

従業員エンゲージメントと類似する用語にはワーク・エンゲイジメントがあります。ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対する持続的でポジティブな心理状態を表す概念であり、活力・熱意・没頭の3要素がそろった状態と定義されます。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 

ワーク・エンゲイジメントは職場の活性化や従業員の人生の豊かさと関連するため重要です。しかし従業員エンゲージメントは、ワーク・エンゲイジメントの考え方に加えて企業と従業員の繋がりまでも重視します。

あわせて読みたい:ワーク・エンゲイジメントとは?定義と計測指標、向上の方法まで解説

従業員エンゲージメントが注目される背景

時代が変化するにつれ、従業員エンゲージメントの必要性が高まっています。ここでは従業員エンゲージメントが注目されるようになった背景をデータで解説します。

労働力人口の減少

少子化などによる労働力人口の減少問題は深刻です。中小企業庁の調査によると、従業員数が不足していると答えた企業の割合は増加しています。

出典:経済産業省 2023年版 中小企業白書・小規模企業白書 概要 

従業員一人ひとりがエンゲージメントの高い環境で働ければ、定着率が向上し労働力不足の軽減に繋がります。

人材獲得において採用や教育に要するコストは大きいため、従業員に長く働いてもらう視点からもエンゲージメント向上は重要です。

人材の流動化

日本では長く終身雇用制度を主流としてきましたが、時代の変化とともに多様な価値観が生まれ、人材の流動化が進んでいます。総務省統計局の労働力調査によると2019年の転職者数は過去最多となり「より良い条件の仕事を探すため」に前職を離職した転職者が増加しました。

出典:総務省統計局 増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~ 

スキルや経験の豊富な人材を採用し、即戦力として働いてもらうには従業員エンゲージメント重視の人事施策が欠かせません。

企業や顧客のために従業員が自ら考え行動できるようサポートすれば、競争社会での生き残りに繋がります。

従業員エンゲージメントの現状

国際比較においては、日本の従業員エンゲージメントの低さが明らかになっています。アメリカの調査会社ギャラップが行った2022年の調査によると、日本におけるエンゲージメントの高い従業員の割合は5%でした。

世界平均では調査を開始して以来最高の23%となったのに対し、日本は4年連続で低い水準が続いています。

参考:GALLUP State of the Global Workplace: 2023 Report

参考:日本経済新聞社 日本の「熱意ある社員」5% 世界は最高、広がる差

従業員エンゲージメントを向上させるメリット

従業員エンゲージメント向上のための取り組みは、企業の持続的な成長に必須です。ここでは、従業員エンゲージメントの向上が企業に与えるメリットを解説します。

生産性の向上

ギャラップ社2022年調査では、エンゲージメントスコア上位25%の企業は、下位25%の企業よりも生産性や売り上げが高いことが明らかになりました。さらに同調査では、離職率や欠勤率といった負の項目もエンゲージメントスコア上位25%の企業では少ない数値でした。

参考:GALLUP The World’s $7.8 Trillion Workplace Problem

参考:GALLUP What Is Employee Engagement and How Do You Improve It?

エンゲージメントの高い従業員は、仕事に対する責任感やチームへの協調性が強いとされています。業務効率が上がれば同じ労働力でもより多くの成果を生むため、生産性の向上に繋がるといえます。

あわせて読みたい:エンゲージメントで生産性は向上する?注目の理由や事例を解説

定着率の上昇

エンゲージメントの高い従業員は、仕事に満足し、自身の成長機会を見出せるため、高い定着率を誇ります。定着率が上昇すれば、採用コストや教育コストを削減できます。

仕事パフォーマンスの改善

従業員エンゲージメントが向上すれば高いモチベーションを保ち、目標に向かって積極的に取り組むようになります。生産性や品質が向上することで、組織全体の業績改善に繋がります。

職場の活性化

従業員エンゲージメント向上により従業員の協力体制が構築されると、コミュニケーションが円滑に行われるようになります。

協力的なチームでは問題解決能力が高まり職場改善が促進されるため、新しいアイディアの創造に効果的です。

企業イメージの向上

従業員エンゲージメントの向上で期待できるのは、企業イメージの向上です。エンゲージメントの高い従業員は、企業理念に共感し誇りを持って働きます。

従業員の意欲的な姿勢が外部にも伝われば、企業は魅力的な雇用主としての評判を築けます。

従業員エンゲージメント向上の取り組み事例

ここからは従業員エンゲージメントを重視する企業の取り組み事例を紹介します。自社に取り入れる際の参考にしてください。

スターバックスコーヒージャパン株式会社

出典:スターバックスコーヒージャパン株式会社

スターバックスコーヒージャパン株式会社ではサービスに関するマニュアルがほとんどなく、カップにメッセージを書くなどの顧客サービスは従業員の自発的な行動によるものです。

多様な価値観を持つ従業員集団の一体感は、企業と従業員の共感から芽生える「つながり」により醸成されます。

従業員には企業のミッションや行動指針に共感してもらえるよう働きかけ、コーチングとフィードバックを繰り返して自発性を育てます。

価値ある行動をした従業員にメッセージカードを手渡す取り組みは、従業員同士のフィードバックや企業への帰属意識向上を意識した仕組みづくりの一環です。

「つながり」の実感から生まれるエンゲージメント重視の経営により、企業とともに成長しようという従業員の意欲を引き出しています。

参考:日本の人事部 マニュアルのないスターバックスは、 なぜエンゲージメントを高められるのか(前編)

参考:日本の人事部 マニュアルのないスターバックスは、 なぜエンゲージメントを高められるのか(後編)

株式会社LIXIL

出典:株式会社LIXIL

株式会社LIXILが2019年から実行する人事プログラム名は『変わらないと、LIXIL』です。

企業変革の背景には、少子化の影響による新築からリフォームへの需要の移行があります。

リフォームのエンドユーザーである施主のニーズ把握が必須となり、ショールーム改革として従業員エンゲージメント施策を開始しました。

そこで従業員が組織の中で体験するあらゆる価値経験「従業員エクスペリエンス」に注力し、取り組みの一環として年1回の意識調査「LIXIL Voice」を実施しています。

エンゲージメントスコアが低かった工場では、CEOの現地訪問を通じた現状把握などを行いスコア改善を実現しました。高いエンゲージメントスコアを維持する部門では、1on1の実施や同僚に感謝を伝えるツールの運用など、効果的な取り組みを行っています。

参考:SAPジャパン LIXILが実践する従業員エンゲージメント向上と顧客志向の徹底

参考:株式会社LIXIL 働きがいのある職場

ロート製薬株式会社

出典:ロート製薬株式会社

ロート製薬株式会社が理念に掲げるのは「個人と企業の共成長を実現するWell-being経営」です。社内外を問わずさまざまな経験をしてもらうことを重視し、社内でのダブルジョブや副業・兼業を推進しています。

従業員は年に2回「キャリアビジョンシート」を記載し自己申告を行います。役員は従業員の希望をもとに、個人を「どう育てたいのか」と「どのようなポテンシャルがあるのか」という2つの視点から異動案を考えます

企業経営の根底にあるのは、従業員一人ひとりがプロの仕事人であるというコンセプトです。自発的に仕事の価値を高めるのがプロであり、会長も従業員も全員が対等であるというマインドが組織を活性化させています。

参考:日本の人事部 組織と従業員をつなぐ新たな価値観 これからの人事の軸になるEmployee Experience

従業員エンゲージメント向上の具体的施策

最後に企業事例から学べる従業員エンゲージメントの具体的施策を解説します。従業員エンゲージメント向上の参考にしてください。

企業理念を共有する

従業員それぞれが自らの仕事の目的を共有して意識できれば、モチベーションが上がります。企業理念が浸透しないことに悩む企業は、わかりやすく共感できるような企業理念を検討してみるのもおすすめです。

従業員が企業の目指すゴールに向かって積極的に行動できるような企業風土を育ててください。

定期的にエンゲージメントを測定する

従業員エンゲージメントの向上には定期的な調査で従業員の意見やニーズを把握することが不可欠です。アンケートやワークショップを通じて従業員の声を収集し、改善すべき課題を明確にしてください。

また従業員の声を聞いて終わりにせず、フィードバックもセットで行いましょう。改善策の実行と効果検証のサイクルを回し続け、従業員エンゲージメントの変化を観察することが大切です。

あわせて読みたい:エンゲージメントサーベイとは?意味と重要性、意欲向上のポイント

適切なフィードバックを行う

従業員は自分の仕事に対する評価やフィードバックを受けることで成長します。1on1などの定期的な実施により従業員の優れた活動成果や挑戦を評価し、より成果を伸ばすための目標設定についてアドバイスを行いましょう。

ただし上からの押しつけにならないよう注意し、自発的行動を促す従業員サポートを心がけてください。具体的かつ継続的なフィードバックにより従業員に成長への意欲が生まれ、エンゲージメント向上に繋がります。

効果的な人材配置を行う

従業員のスキルや強みに応じた適切な人材配置は、エンゲージメント向上に欠かせません。

意識調査やフィードバックを参考に、従業員の適性や興味などを考慮した人材配置を実践してください。強みを活かした仕事をすることで従業員は部署における自らの役割を認識でき、やりがいや企業への貢献意識に繋がります。

管理監督者を教育する

管理監督者は従業員の指導やサポートを通じてエンゲージメントを高める重要な役割を担うため、管理監督者の役割は重大です。

リーダーシップスキルやコミュニケーションスキル向上のためのトレーニングを提供し、管理監督者の教育に注力してください。

従業員の自発性を育成する

自発性を奨励し、新しいアイディアやプロジェクトへの参加を促進することも従業員エンゲージメント向上において重要です。

マニュアルやルールは必要ですが、適切な範囲で余裕をもたせることで自ら考え行動できるようになります。自発的な従業員はエンゲージメントが高く、企業にとって重要な戦力になります。

スキルアップの機会を充実させる

従業員にスキルアップの機会を提供する取り組みも必須です。継続的なトレーニングやキャリア開発プログラムを整備し、従業員が成長する手助けをしてください。

スキルアップの機会が豊富にあり、積極的に新しい挑戦ができる企業では従業員の帰属意識も高まります。

コミュニケーションを活発化させる

効果的で風通しの良いコミュニケーションがあれば、従業員の帰属意識が高まります。部活動などの社内コミュニティ活動も、従業員同士のコミュニケーションを活性化させます。

イベントや座談会など従業員同士が忌憚なく話せる場を作り、従業員同士の繋がりを強化してください。

多様な働き方を容認する

リモートワークやフレックスタイム、副業容認などの柔軟な労働条件を導入すれば、従業員が仕事と生活のバランスを取りやすくなります。従業員の多様な価値観を認めれば、より満足度の高い働き方を実現できます。

まとめ:職場の活性化には従業員エンゲージメント向上が重要

従業員エンゲージメント向上には定着率上昇や生産性向上などのメリットがあり、企業経営において優先されるべき取り組みです。

紹介した事例からも、従業員エンゲージメントが職場の活性化に効果を発揮していることは明らかです。自社の現状に合わせ、無理のない取り組みから実施してください。

運動習慣化アプリKIWI GOはゲーム感覚で楽しく運動を続けられるほか、コミュニケーションの活発化にも繋がります。従業員エンゲージメント向上ツールとして、ぜひ検討してみてください。