ワークライフバランスは「生活と仕事の調和」を意味する言葉であり、働きやすい環境が重視されるいま、多くの企業から注目されています。

しかし、ワークライフバランスの実態や取り組むべき施策の内容が分からない企業は多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ワークライフバランスの意味やメリット、取り組み内容について紹介します。

ワークライフバランスの現状や施策事例も併せて解説するので、ぜひ参考にしてください。

 

ワークライフバランスとは

初めに、ワークライフバランスに関する基本情報について解説します。

 

ワークライフバランスの歴史

ワークライフバランスは、1980年代に女性の社会進出が進んだことで、プライベートと仕事の両立に関する問題が発生したことをきっかけに生まれました。

子育てを優先したいが仕事を続けられない、労働時間が長くなり家事がこなせないなど、仕事とプライベートのバランスが取れていない状態の人が増えたのです。

1990年代になると問題がさらに広がり、女性だけでなく男性も対象とした内容に変化しました。

そして日本をはじめとする世界各国に広まったのが、「ワークライフバランス」の概念です。

日本では2019年に始まった「働き方改革」や新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ワークライフバランスの重要性がより高まっています。

 

ワークライフバランスの目標

ワークライフバランスの目標は、「仕事と生活の調和」です。2007年に厚生労働省が発表した「ワーク・ライフ・バランス関連資料」では、以下のように記載されています。

“連合がめざすワーク・ライフ・バランスとは、「全ての働く人々がやりがいのある仕事と充実した生活との両立について、自分の意志で多様な選択が可能となる社会、それを支える政策やシステム、慣行が構築されている社会」のことである”

労働時間を削減したり仕事内容を簡略化したりすることは、手段であり目的ではありません。

従業員ひとり一人が働き方を自分で選択できるようになることが、ワークライフバランスの目標です。

引用:厚生労働省 ワーク・ライフ・バランス関連資料

 

データで見る日本のワークライフバランスの現状

ワークライフバランスの考え方は、日本でも浸透しつつあります。しかし、全ての企業でワークライフバランスに関する施策を実施できているとは言い切れません。

 

有給休暇取得率

厚生労働省の統計によると、年次有給休暇の取得率は以下のように推移しています。

 

年度(一部抜粋)

取得率

平成1年

50.0%

平成5年

56.1%

平成10年

53.8%

平成15年

48.1%

平成20年

46.7%

平成25年度

47.1%

平成30年

51.1%

令和1年

52.4%

令和2年

56.3%

令和3年

56.6%

出典:厚生労働省 労働条件総合調査

 

有給休暇取得率は令和になってから増えていますが、基本的に40%台後半~50%台前半の間に留まっています。なお、海外の有給取得率は以下の通りです。

 

国(一部抜粋)

有給取得率

ドイツ

93%

フランス

83%

イギリス

84%

カナダ

93%

アメリカ

80%

台湾

107%

日本

60%

出典:エクスペディア 有給休暇の国際比較調査

 

日本においては、働き方改革やワークライフバランスの考え方が普及していてもなお、海外と比べ有給休暇取得率が少ないのが現状です。

 

出産後の就業継続率

内閣府男女共同参画局の統計により、出産後の就業継続率は以下のように推移していることが分かっています。

 

【出産前有職者に係る第一子出産前後での就業状況】

 

就業継続(育休利用)

就業継続(育休なし)

出産退職

妊娠前から無職

1985~1989年

5.7%

18.4%

37.3%

35.5%

1990~1994年

8.1%

16.3%

37.7%

34.6%

1995~1999年

11.2%

13.0%

39.3%

32.8%

2000~2004年

15.3%

12.2%

40.3%

28.4%

2005~2009年

19.4%

9.5%

42.9%

24.0%

2010~2014年

28.3%

10.0%

33.9%

23.6%

出典:内閣府男女共同参画局 第一子出産前後の女性の継続就業率および出産・育児と女性の就業状況について

 

データからは、1900年代に比べ育児休暇を取得し仕事を継続する人が増えているとが伺えます。

しかし、同統計によると就業継続率が増加しているのは正社員のみです。

「パート・派遣社員」と「自営業・家族従業者・内職」については、現在も就業継続率が改善していないのが現状です。

 

離職・転職数

内閣府が発表した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2012」によると、家族の介護や看護を理由とした離職転職数は以下のように推移しています。

 

年度

男性

女性

平成14年10月 ~15年9月

14,700人

77,800人

平成15年10月 ~16年9月

16,000人

82,900人

平成16年10月 ~17年9月

20,400人

83,200人

平成17年10月 ~18年9月

19,100人

85,100人

平成18年10月 ~19年9月

25,600人

119,200人

出典:内閣府 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2012

 

どの年においても女性の割合が多く、80%を超えているため、各家庭において介護や育児を女性が中心となって担うケースが多いと言えます。

 

総労働時間

厚生労働省の発表したデータによると、労働者1人当たりの年間総実労働時間は年々緩やかに減少していることが伺えます。

 

年度

年間総実労働時間

平成5年

1,920時間

平成10年

1,871時間

平成15年

1,828時間

平成20年

1,792時間

平成25年

1,746時間

平成30年

1,706時間

出典:内閣府 平成30年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況

しかし、年間総実労働時間が減少しているのはパートタイム労働者が増えているためではないかという指摘もあります。

労働時間の実態を把握するには、雇用形態別の詳しい調査が必要です。

 

企業がワークライフバランスを向上させるメリット

企業がワークライフバランスを取り入れることで、従業員にも企業にもメリットが発生します。

 

従業員の離職率や休職率が下がる

厚生労働省が調査した「平成 30 年若年者雇用実態調査の概要」によると、初めて勤務した会社をやめた理由について「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」と答えた人が 30.3%を占めていることが分かりました。

従業員にとって、労働環境が整っているかは重要なポイントです。従業員のワークライフバランスが整えば、意欲的に業務に取り組むことができるようになり、離職率の改善にもつながります。

出典:厚生労働省 平成 30 年若年者雇用実態調査の概要

 

優秀な人材の確保に繋がる

日本の大手人材紹介・広告企業である株式会社マイナビが行った「2022年卒大学生就職意識調査」では、どのような企業を選択するかという問いに対し、大学生が次のような回答を行っています。

出典:株式会社マイナビ 2022年卒大学生就職意識調査

 

本データから、「個人の生活と仕事を両立させたい」と回答する学生の割合は一定数存在していることがわかります。

中小企業でもワークライフバランスを整えれば「働きやすそう」「長く働けそう」といった印象につながり、魅力が高まります。

若い人材を確保するうえで、ワークライフバランスを整えることは非常に重要です。

 

企業イメージが向上する

ワークライフバランスを向上させることで、企業に対するイメージも上がります。

従業員や就職希望者は、各企業の労働条件や労働環境について慎重に判断しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが新入社員を対象に行った調査結果は以下の通りです。

 

【就職活動の際、労働環境を気にしたか】

 

2018年度

2019年度

気にした

50.6%

53.7%

少しは気にした

32.7%

30.8%

あまり気にしなかった

11.0%

11.0%

気にしなかった

5.6%

4.5%

 

労働環境を意識して就職活動を行う求職者は、50%を超えています。従業員のために適切な労働環境を整備すれば、「この会社で働きたい」と考える求職者が増える可能性が高くなると言えます。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 2019(平成 31/令和元)年度 新入社員意識調査アンケート結果 

 

ワークライフバランス実現における問題点と対策

ワークライフバランスを実現するためには、事前に問題点を確認し対策を取ることが大切です。

ここからは、ワークライフバランス向上に向けた取り組みを行う上で発生する問題点と対策について解説します。

 

従業員によっては利用しづらい制度もある

従業員の性別・状況によっては、使いやすい制度と使いにくい制度が出てきてしまうという問題点があります。例えば、「男性社員が育児休業を取りにくい」といったケースです。

女性の育児休業については理解を示す企業が増えており、休みを取れるケースが増えています。

しかし、社会的なイメージもあり育児休業が取りにくいと感じる男性社員は少なくありません。

多くの従業員に制度を利用してもらうには、会社からのサポートが必要不可欠です。

「休む間の仕事はどうすれば良いのか」「今後の昇進で不利になることはないのか」など制度を利用する際の不安を解消し、バックアップ体制を整えることで制度の使いにくさは解消できます。

制度を利用する際の不安についてアンケート調査を行うなどして、問題点を洗い出すことが大切です。

 

利益の追及が難しい

「労働時間を短くする」「有給休暇取得率を上げる」といった施策を取り入れた場合、従業員の労働時間が減ることで企業が得られる利益が減る可能性もあります。

しかし、ワークライフバランスを整えれば、従業員の仕事に対するモチベーションが向上し、生産性向上にも繋がります。

生産性が向上すれば、企業の利益にも反映されるため、福利厚生を充実させる、従業員同士の交流を活性化させ働きやすい環境を作るなど、積極的な取り組みが必要です。

 

経営陣の意識改革が必要である

ワークライフバランス向上を目指す取り組みを始めただけでは、制度が周知されず使われないままの状態になります。

従業員のワークライフバランスに対する意識を変化させるためには、経営陣が積極的に施策を導入し、熱心に活動する姿を見せることが大切です

必要に応じて専門部署を設ける、知識が豊富な人材を担当者に指名するなどして、会社全体でワークライフバランスの向上に取り組んでください。

また、経営陣が率先して制度を利用するのも効果的です。社内報などを通じ、経営陣がどのような制度を利用しているか従業員に伝えてください。

 

ワークライフバランスを向上させる具体的な方法

ここからは、ワークライフバランスを向上させる具体的な方法を解説します。

 

労働時間・環境の見直し

労働基準法改正により、2019年4月より「時間外労働の条件規制」が適用され、「原則として月45時間・年360時間」までしか勤務できなくなりました。

厚生労働省の「労働時間等見直しガイドライン」にも、「時間外労働や休日労働の削減に取り組むこと」と明記されています。

労働時間削減のために有効なのは、次のような取り組みです。

・毎月どの社員がどれくらい働いているのかを確認する

・どのような業務にどれくらいの時間がかかっているのかを把握する

・時間外労働の多い部署や役職の仕事を特定する

現状を把握し、時間がかかる仕事はできるだけ社内で分担したり、業務の効率化を図るなどして対策を行ってください。

出典:厚生労働省 労働時間等見直しガイドライン

 

休業・休暇制度利用の促進

働き方改革関連法案により、10日以上の有給休暇が与えられる従業員に対し、5日以上の休みを与えなければならないという決まりが制定されました。

休業や休暇制度を充実させ、従業員が気軽に休める環境を整えてください。厚生労働省が推奨している休暇制度には、次のようなものがあります。

・病気休暇

・ボランティア休暇

・リフレッシュ休暇

・裁判員休暇

・犯罪被害者等の被害回復のための休暇

上記のような休暇制度を適宜採用しながら、従業員のニーズに応えられるよう環境を整えることが大切です。

出典:厚生労働省 年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説

 

サポート体制の向上

働きやすい環境を整えるために新たな制度を導入することも、ワークライフバランス向上に有効な方法のひとつです。企業が実施できるサポートには、次のようなものがあります。

・テレワークの導入

・フレックスタイム制の導入

・多様な正社員制度の実現

・福利厚生サービスの導入

企業側のサポートにより従業員それぞれが自分に合った働き方を選択できるようになれば、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。

 

ワークライフバランスを向上させた企業の事例

ここからは、ワークライフバランスに関する他の企業の取り組み事例を紹介します。

 

カルビー株式会社

出典:カルビー株式会社

 

カルビー株式会社では、テレワークの導入が難しいとされる製造業において、率先してテレワークを活用しています。カルビー株式会社の施策内容は以下の通りです。

  • 2014年より全社に在宅勤務を導入
  • 週2日までとされていた在宅勤務の日数を2015年には週3日以上に拡大
  • IT機器を貸与することでオフィス勤務にこだわらない働き方を推進
  • ルールを簡素化することで在宅勤務の申請率を向上
  • 上司が積極的に在宅勤務を行うことで、部下も在宅勤務をしやすい環境に

テレワークを促すことで、在宅勤務申請者の時間外労働は、在宅勤務を申請していない者の時間外労働に比べて1ヵ月平均で約1.9時間短縮されました。

また、在宅勤務導入時において、本社勤務者の所定外労働時間は前年比93%削減されています。

出典:厚生労働省テレワーク総合ポータルサイト 導入事例 カルビー株式会社

 

株式会社インターエデュ・ドットコム

出典元:株式会社インターエデュ・ドットコム

教育関係デジタルコンテンツ作成事業や広告代理店事業を行う株式会社インターエデュ・ドットコムは、「従業員がストレスなく仕事できる環境づくり」をモットーに次のような施策を実施しました。

  • 勤務時間選択制(シフト制)を導入し、働き方を多様化
  • 有給休暇のWeb申請制度を導入
  • 社内コミュニケーションツールを用いて当日の勤務時間を全体共有
  • テレワークを導入し、パソコンやモニターなどの必要な機器を貸与
  • 社内体制を見直し、勤怠管理システム・Webによる申請対応システムを導入

こういった働きかけにより、残業は月10時間程度に減少し、有給休暇の取得率は60%から75%に増加しました。

出典:東京都TOKYOはたらくネット ワークライフバランスEXPO東京2022

 

広栄化学工業株式会社

出典元:広栄化学工業株式会社

広栄化学工業株式会社は、化学工業製品の製造や販売を行う会社です。

ワークライフバランスが提唱される前から、「楽しい職場と業績向上を両立できる社内環境をつくること」を経営理念として掲げており、多様な施策を導入しています。

  • 社員満足度調査の実施
  • ファミリーデー休暇の創設
  • 半日休暇の増日
  • 福利厚生ガイドブック配布
  • 再雇用制度の創設
  • 家族と夕食を食べる日(ノー残業デー)の導入

こうした取り組みの結果、従業員からは、「子育てに理解を示してくれる方が多く育児休業を取得しやすかった」「仕事と育児の両立支援が充実している」といった声が上がっています。

出典:千葉県 ワークライフバランス取り組み事例

 

株式会社フューチャーフロンティアーズ

出典元:株式会社フューチャーフロンティアーズ

株式会社フューチャーフロンティアーズは、保育所の運営や学童クラブの運営を行う会社です。

「sustainableな子育て支援を通して笑顔あふれる社会を創造する」ということを最大の目的として、ワークライフバランスに取り組んでいます。

具体的な施策内容は、次の通りです。

  • 男性の育児休業取得推奨のメッセージを発信
  • 復職のハードルを下げるため、休業中も職場の情報を共有
  • 短時間勤務の制度を導入し、仕事と育児の両立をサポート
  • 一人ひとりの状況に合わせて復帰支援プランを作成
  • 休暇制度に関する管理職の意識を高めるための研修を実施

こうした取り組みにより、育児休業取得者は、2018年度は男性1名、女性2名、2019年度は男性4名、女性6名、2020年度は男性1名、女性2名になりました。

出典:東京都TOKYOはたらくネット ワークライフバランスEXPO東京2022

 

株式会社お仏壇のやまき

出典元:株式会社お仏壇のやまき

株式会社お仏壇のやまきは、仏壇仏具などの商品を販売する会社です。

株式会社お仏壇のやまきは家族の絆を大切にする事業に取り組んでいることから、お客様と同様、従業員の家族も大切にしています。

ワークライフバランスに関する具体的な施策内容は以下の通りです。

  • 土日メインの勤務体系である中で、週休2日はできるだけ連休になるよう配慮
  • 家族の行事などがあれば、土日でも休みやすいようサポート
  • 休暇を取らない場合、給与査定に反映させる仕組みを構築
  • 特定の社員でなければできないことを減らすため、業務内容を見直し
  • 5~6日の連続休暇を取得した場合、、家族イベント手当(3~5万円)を支給
  • 有給休暇を100%取得した場合、ボーナスポイントとして20%(4日分の有給休暇)を付与

休みの従業員がいても店舗運営に支障が出ないよう業務体制を整えたため、有給休暇の取得率が向上しました。

また、テレビ番組で施策内容が取り上げられたことでパート応募者が急増し、優秀な人材の確保にも繋がっています。

出典:お仏壇のやまき 静岡市ワーク・ライフ・バランス推進事業所表彰 受賞事業所の取組

出典:お仏壇のやまき 会社情報

 

まとめ:ワークライフバランスを整え従業員の健康をサポートしよう

ワークライフバランスが整うことで従業員がいきいきと働けるようになり、仕事に対するモチベーション、企業イメージが向上します。

ワークライフバランスに関する取り組みを実施していない企業は、導入を検討しましょう。

ワークライフバランスの向上には、従業員のための福利厚生アプリ「KIWI GO」がおすすめです。KIWI GOは、運動促進と従業員同士の交流を促すことを目的として作られたアプリです。

KIWI GOをダウンロードすると、歩数に応じてコインが貯まります。貯まったコインは、AmazonギフトカードやUber Eatsの金券、ムービーチケットなどに交換可能です。

また、イベント機能を利用すれば同じ趣味の仲間と気軽にマッチングできます。

運動の習慣化、従業員同士の交流につながるアプリとなっているため、働きやすい職場環境作りに役立ちます。ぜひ、ご活用ください。