現在の日本が抱える少子高齢化と働き手のニーズの多様化は、企業にとって大きな課題です。そうした中、従業員がいきいきと働ける環境を作るためにワーク・エンゲイジメントに注目が集まっています。しかし現在の職場におけるワーク・エンゲイジメントの実態が分からず、悩む企業は少なくないでしょう。

そこで本記事では、ワーク・エンゲイジメントの概念と共に測定方法や、ワーク・エンゲイジメントを高める方法を実例と一緒に解説します。ワーク・エンゲイジメントに興味を持っている企業は、ぜひ参考にしてください。

目次

ワーク・エンゲイジメントの概念と3つの要素

まずはワーク・エンゲイジメントの概念について、基本的な内容と重要な要素を解説します。

ワーク・エンゲイジメントとは

ワーク・エンゲイジメントは仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素が満たされ、ポジティブで充実した心理状態のことです。

具体的には、従業員が自分の仕事にどれだけ没頭し、エネルギーを感じ、仕事に対する意欲があるかを示します。ワーク・エンゲイジメントが高い従業員は、一般的に仕事の生産性が高く、創造性が豊かで、職場での満足度も高いといえます。

またワーク・エンゲイジメントが高い職場では従業員の幸福感や職場への忠誠心が高まり、離職率が低下します。

ワーク・エンゲイジメント3つの要素

ワーク・エンゲイジメントは以下の3つの要素で構成されています。

  • 活力:仕事から活力を得ていきいきしている
  • 熱意:仕事に誇りとやりがいを感じている
  • 没頭:仕事に熱心に取り組んでいる

ワーク・エンゲイジメントの高い人は、仕事に誇りを持ち、やりがいを感じ、熱心に取り組むことで活力を得られます。そのためワーク・エンゲイジメントは個人と仕事全般との関係性を示し、全体的な職場のパフォーマンスと幸福感を高める重要な役割を担っているといえるでしょう。

参考:厚生労働省 ワーク・エンゲージメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について

あわせて読みたい:ワーク・エンゲイジメントを高める方法を解説!成功事例3つを紹介

ワーク・エンゲイジメントに関連する用語について

ワーク・エンゲイジメントは、他の類似した概念とは異なる独特の特徴を持つ概念です。

ここでは、ワーク・エンゲイジメントの概念を理解するために、関連する概念を整理して紹介します。

バーンアウト(燃え尽き症候群)

バーンアウトは島津(2016)で提示された概念で、ワーク・エンゲイジメントの対極の概念として位置づけられます。バーンアウトは仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊し抑うつ状態に陥り、仕事への興味や関心、自信が低下した状態を指します。

これは「仕事への態度・認知」において否定的であり、「活動水準」が低い状態です。

「活動水準」とは、個人が仕事に対してどれだけエネルギーを投入し、積極的に活動しているかを指す言葉です。つまり「活動水準」が低い状態とは、仕事への意欲や積極性が減少していることを意味します。

ワーカホリズム

ワーカホリズムはSchaufeli, Shimazu, & Taris(2009)で提示された概念で、「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」と定義されています。ワーカホリズムは「活動水準」が高い点でワーク・エンゲイジメントと共通していますが、「仕事への態度・認知」が否定的な状態です。

つまりワーカホリズムの状態にある人は活動的に働くものの、仕事に対して否定的な見方や感じ方をしている状態といえます。

職務満足感

職務満足感はLocke(1976)で提示された概念で、「自分の仕事を評価してみた結果として生じる、ポジティブな情動状態」です。ワーク・エンゲイジメントが仕事を「している時」の感情や認知に焦点を当てるのに対し、職務満足感は仕事そのものに対する感情や認知を示します。どちらも「仕事への態度・認知」について肯定的な状態ですが、職務満足感は仕事に没頭している訳ではないため、「活動水準」が低い状態です。

つまり職務満足感は仕事に対する満足度や幸福度を示すものの、それが必ずしも仕事への熱意や活動性が高いことを意味する訳ではないといえます

参考:厚生労働省 ワーク・エンゲージメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について

ワーク・エンゲイジメントを測定する尺度

ここからはワーク・エンゲイジメントの測定に用いられる3種類の尺度について解説します。

UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度)

UWES(Utrecht Work Engagement Scales)は、ワーク・エンゲイジメントの測定に最も広く用いられている尺度です。「活力」「熱意」「没頭」の3つの因子について17項目の質問で測定します。

その他、UWESでは3つの因子を3項目ずつ、合計9項目の質問で測定できる短縮版、合計3項目の質問で測定できる超短縮版も開発されています。

参考:慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人研究室 ワーク・エンゲイジメント(UWES)

参考:厚生労働省 ワーク・エンゲージメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について

あわせて読みたい:ワーク・エンゲイジメントとは?定義と計測指標、向上の方法まで解説 

MBI-GS(マスラック・バーンアウト・インベントリー)

MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)は、バーンアウトを測定するために開発された尺度です。バーンアウト概念の拡大を受けて作られ、「疲弊感(Exhaustion)」「シニシズム:仕事そのものからの距離感や無関心な態度(Cynicism)」「職務効力感(Professional Efficacy)」からなる尺度として使用されています。

MBI-GSは合計16の質問項目から構成されており、それぞれ「疲弊感」が5項目、「シニシズム」が5項目、「職務効力感」が6項目で構成されています。

参考:日本版MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)の妥当性の検討

OLBI(オルデンバーグ・バーンアウト・インベントリー)

OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)は、バーンアウトを「疲弊感(exhaustion)」と「離脱(disengagement)」を用いて測定する新しい尺度です。

「疲弊感」は心身の疲れを、「離脱」は仕事への関心の低下を示しており、それぞれ肯定的質問と否定的質問が4項目ずつ、合計16項目から成り立ちます。

参考:大阪市立大学看護学雑誌. Vol.17 the Oldenburg Burnout Inventory−German version邦訳の信頼性と妥当性の検討

UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)とは

ここでは、UWESの評価内容と方法について詳しく解説します。

調査項目の内容

UWESの各質問は、仕事に関する特定の感情や経験に焦点を当てています。

例えば、「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる(活力)」「仕事に熱心である(熱意)」「仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる(没頭)」といった17項目の質問で構成されています。

回答方法と分析

回答者は、自分がそのように感じる頻度に応じて、0(全くない)、1(ほとんど感じない)、2(めったに感じない)、3(時々感じる)、4(良く感じる)、5(とてもよく感じる)、6(いつも感じる)のうち、どれに当てはまるかで回答し、スコアをつけます。

「活力」「熱意」「没頭」のそれぞれの項目に関するスコアの平均値を算出したものが、ワーク・エンゲイジメント・スコアです。

参考:厚生労働省 ワーク・エンゲージメントに着目した「働きがい」をめぐる現状について

参考:慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人研究室 ワーク・エンゲイジメント(UWES)

参考:職場のメンタルヘルスとワーク・エンゲイジメント 島津明人

MBI-GS(マスラック・バーンアウト・インベントリー)とは

ここでは、MBI-GSの評価内容と方法について解説します。

調査項目の内容

調査は質問に回答する形式で行われます。質問内容の例は次のとおりです。

  • 「一日の仕事が終わると疲れ果ててぐったりすることがある(疲弊感)」
  • 「自分は職場で役に立っていると思うことがある(職務効力感)」
  • 「自分がしている仕事の意味や大切さが分からなくなる時がある(シニシズム)」

質問は「疲弊感」が5項目、「職務効力感」が6項目、「シニシズム」が5項目で構成され、合計16項目の質問から構成されています。

回答方法と分析

回答者は、自分がそのように感じる頻度に応じて、「全くない」「年に2~3回」「月に1回」「月に2~3回」「週に1回」「週に2~3回」「毎日」のうち、どれに当てはまるかで回答しスコアをつけます。MBI-GSを使用した際、得られるスコアが高い場合はバーンアウトの程度が高いことを意味します。反対に、MBI-GSのスコアが低い場合はワーク・エンゲイジメントが高まっている状態です。

参考:日本版MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)の妥当性の検討

OLBI(オルデンバーグ・バーンアウト・インベントリー)とは

ここでは、OLBIの評価内容と方法について解説します。

調査項目の内容

OLBIでは、次のような質問に回答することでバーンアウトの程度を調査します。

  • 「新たな面白さの発見がある(離脱)」
  • 「否定的な語りが多い(離脱)」
  • 「仕事の前に既に疲労感がある(疲弊感)」
  • 「長い休息が必要である(疲弊感)」

質問は「離脱」と「疲弊」という2つの要素によって構成され、それぞれ肯定的質問4項目と否定的質問の4項目ずつ、合計16項目から構成されています。

回答方法と分析

回答者は、各質問に対し「とてもそう思う=4点」から「全くそう思わない=1」の選択肢を設け、分析には要素ごとに単純加算した値を用います。OLBIはバーンアウトの程度を測定する尺度であり、スコアが高いほど心の健康や主観的健康感が低い状態といえます。

参考:大阪市立大学看護学雑誌. Vol.17 the Oldenburg Burnout Inventory−German version邦訳の信頼性と妥当性の検討

ワーク・エンゲイジメントの尺度を活用するメリット

ここでは、ワーク・エンゲイジメントの尺度を活用することによって得られるメリットについて解説します。

1.従業員のエンゲージメントを客観的に評価できる

ワーク・エンゲイジメントの尺度を使用することで、従業員の仕事への集中度や情熱レベルを定量的に評価できます。これにより従業員のモチベーションや仕事への満足度が明確になり、個々のニーズに応じたサポートの提供が可能です。

参考:職場のメンタルヘルスとワーク・エンゲイジメント 島津明人

2.生産性と効率が向上する

ワーク・エンゲイジメントが高い状態は、生産性の向上に直結します。尺度を用いて従業員のエンゲージメントレベルを把握し、それに基づく改善策を施すことで、組織全体におけるパフォーマンスの向上が可能です。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済分析ー人手不足の下での「働き方」をめぐる課題についてー

3.従業員の満足度とウェルビーイングが向上する

従業員のエンゲージメントが高まると、仕事のストレスが減少し、職場満足度が高まります。従業員のウェルビーイングを高める要因を特定すれば、的確な改善もできるでしょう。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済分析ー人手不足の下での「働き方」をめぐる課題についてー

4.離職率が低下と人材の維持ができる

従業員が高いエンゲージメントを感じる職場は、離職率が低くなる傾向にあります。優秀な人材の維持と育成ができれば、さらなる生産性の向上に繋がります。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済分析ー人手不足の下での「働き方」をめぐる課題についてー

5.戦略的な人事管理と意思決定に繋がる

ワーク・エンゲイジメントの尺度を用いることで、組織はデータに基づく戦略的な意思決定が可能です。効果的な人材管理や業務プロセスの最適化が実現すれば、組織の成長と発展に役立ちます。

参考:職場のメンタルヘルスとワーク・エンゲイジメント 島津明人

あわせて読みたい:ワーク・エンゲイジメントを高める方法を解説!成功事例3つを紹介

ワーク・エンゲイジメント尺度を活用した事例

ここからはワーク・エンゲイジメントの尺度を活用した実際の事例を通して、取り組み方や成果を解説します。

株式会社福井

出典:株式会社福井

株式会社福井は、金物製造卸商業の老舗企業です。売上の減少から組織的な問題を認識し、2018年からワーク・エンゲイジメントの測定システムを導入しました。株式会社福井が実際にワーク・エンゲイジメント尺度を活用して行った取り組みは、以下の通りです。

  • 月に1度、全従業員を対象にワーク・エンゲイジメント・スコアを計測
  • 本社、産業課、物流担当課ごとに組織の状態を数値化
  • スコアを管理職や経営陣で共有
  • 定期的に課題と改善策について話し合い
  • スコアをExcelで「見える化」(70点以上を青、50点未満を赤で表示)
  • 問題がある個所に対して迅速な対策を実施

株式会社福井では、ワーク・エンゲイジメントの取り組みを通じて、物流センター従業員の増員や社内コミュニケーションの強化を実施し、離職率が大幅に低下しました。 またリーダー育成の注力により、意思決定の能力向上と組織力の強化が進み、2018年には数年ぶりに離職者がゼロとなりました。これらの取り組みは、従業員の「働きがい」に焦点を当て、老舗企業である同社の「新たな組織改革」の原動力となっています。

参考:厚生労働省 「働きがい」を持って働くことのできる環境の実現に向けて

株式会社 FICC

出典:株式会社 FICC

株式会社 FICCは、データに基づくブランドマーケティングを提供するデジタルエージェンシーです。現場社員の提案をきっかけにワーク・エンゲイジメントに着目し、離職率の低下と生産性向上を目指して2017年8月に測定システムを導入しました。 株式会社FICCではワーク・エンゲイジメント・スコアを隔週で把握し、取り組みの効果を評価しています。

そして効果のない取り組みを明確化し、人材マネジメントを効率化して来ました。

また株式会社FICCでは全社員が参加できるワークショップを実施し、優秀なプロジェクトには資金を提供して実業化しています。 これにより「楽しさ」を重視した取り組みとして、離職率の改善やチームの向上が見られるようになっています。

参考:厚生労働省 「働きがい」を持って働くことのできる環境の実現に向けて

Sansan株式会社

出典:Sansan 株式会社

Sansan株式会社は、法人向けクラウド名刺管理サービス、個人向け名刺アプリ「Eight」のサービスを展開している企業です。Sansan株式会社は組織としてのパフォーマンス向上に寄与するため、2017年4月にワーク・エンゲイジメントの測定システムを導入し、チーム単位での測定を開始しました。

Sansan株式会社では月に1回、全従業員を対象にワーク・エンゲイジメント・スコアの計測を行っています。チーム単位(平均7名程度)でスコアを把握し、適宜経営への応用を試みてきました。

調査により組織状態の変化をデータで明確に把握できたことで部署ごとの仕事の質がスコアに影響を及ぼすと分かり、日常の小さな工夫がチームの雰囲気とスコア向上に繋がっています。

実際に7~9月の間で連続3日間の休暇を取得できる「チャージ休暇」を導入した後、休暇取得による健康と組織風土の改善が見られ、従業員の満足度と組織のパフォーマンスが向上しました。

参考:厚生労働省 「働きがい」を持って働くことのできる環境の実現に向けて

まとめ:満足度向上に向けたワーク・エンゲイジメント尺度の活用

ワーク・エンゲイジメントは仕事への意欲や満足度だけではなく、企業との相互理解や自発的な貢献行動を含む重要な指標です。ワーク・エンゲイジメントを高めることで、従業員と企業の良好な関係が形成され、生産性の向上に繋がります。

特にコミュニケーションの改善と従業員の健康促進を目指す企業には、サポートアプリ「 KIWI GO」がおすすめです。

KIWI GOは運動を通じて従業員間の交流を促し、健康とコミュニケーションの向上を支援するアプリです。運動が苦手な従業員も交流を充実させながら楽しく体を動かすことで、全体的なワーク・エンゲイジメントの向上に役立ちます。従業員がいきいきと前向きに働ける環境づくりのため、ぜひKIWI GOの導入をご検討ください。