人事部や健康経営に関わる方であれば、「プレゼンティーズム」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。プレゼンティーズムは従業員が出勤しているにもかかわらず、健康的な問題を抱えているために業務効率が落ちている状態です。いままでプレゼンティーズムは、具体的な数値で計測しづらいと考えられていました。

しかし現在では複数の計測指標が生み出され、プレゼンティーズムの損失額がどれだけ大きいか可視化できます。そこで今回はプレゼンティーズムの定義や損失額の計測方法、具体的な対策から企業事例をご紹介します。

従業員の体調やメンタルの不調が問題視されるいま、重要な課題として必ず確認してください。

プレゼンティーズムの定義と注目される理由

プレゼンティーズムを理解するため、まずは言葉の定義を確認します。近年プレゼンティーズムが注目されている理由もあわせて確認し、課題の重要性を把握してください。

 

日本におけるプレゼンティーズムの定義

2003年の米国産業環境医学会の専門家パネルでは、プレゼンティーズムを仕事中の健康に関連した生産性損失である」と定義しました。

また日本では経済産業省の『企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1班)』に、プレゼンティーズムの定義が記されています。

このガイドブックによると、プレゼンティーズムとは、「何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態」です。ここでは経産省のガイドブックに則り、「出社しているにもかかわらず、何らかの健康的な要因により、パフォーマンスが低下している状態」を、プレゼンティーズムと定義します。

出典:経済産業省 商務情政策局 ヘルスケア産業課『企業の「健康経営」ガイドブック~~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1班)』

 

プレゼンティーズムとアブセンティーズム

プレゼンティーズムへの理解を深めるため、類似の言葉として知られる「アブセンティーズム」について確認します。

経済産業省のガイドブックによると、アブセンティーズムは「病欠、病気休業の状態」です

アブセンティーズム

健康上の問題により勤務不能となり、何らかの形で会社を休んでいる状態

プレゼンティーズム

勤務してはいるものの、万全の状態ではなく、業務効率が落ちている状態

欠席・出席の違いはあるものの、いずれも企業の生産性の低下を引き起こしている状態です。

 

プレゼンティーズムとアブセンティーズムの概要については以下の記事でも詳しく紹介しています。

プレゼンティーズム・アブセンティーズムとは? 健康経営における基礎知識を解説

 

プレゼンティーズムが注目される理由

日本企業ではこれまで、従業員の欠勤や休職を減らすための取り組みが積極的に実施されてきました。

不在による損失は誰の目にも明らかで、課題として認識されやすいからです。

つまりプレゼンティーズムより、アブセンティーズムへの対策が重視されていたと言えます。

しかし2017年に厚生労働省保険局が実施した調査において、健康関連コストの主要因はプレゼンティーズムにあり、アブセンティーズムによる損失よりはるかに大きいと判明しました。

出典:厚生労働省保健局『データヘルス・健康経営を促進するためのコラボヘルスガイドライン』

この調査をきっかけとして、アブセンティーズムを重視していた日本でもプレゼンティーズム対策に注目が集まっています。

 

プレゼンティーズムの測定指標と損失額

体調が万全でない中で仕事をしてもパフォーマンスが上がらないのは、誰しも実感しているところです。しかし企業が具体的に取り組みを行う際には、定量的な指標が必要です。

そこでここからは日本企業でよく使われているプレゼンティーズム損失額の測定指標や、想定する損失額を解説します

 

プレゼンティーズムの測定指標

令和3年度 健康経営度調査(第8回)にて最も多くの企業に使用されているのが、「SPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大 1 項目版)」です

東大1項目版の特徴は、以下の通りです。

  1. 回答者にとってわかりやすい表現の設問1つに応えるだけで、手軽にプレゼンティーズムを測定できる
  2. 月1回測定すればより正確に従業員のコンディションを把握できる
  3. 性別や年齢階級、職務内容、雇用形態による違いが比較的小さく、回答者属性よる影響を受けにくい
  4. ライセンスフリーで、研究や商用目的でも無料で利用できる

設問内容やプレゼンティーズムの細かな算出方法は、「自社の損失額を詳しく計算する方法」をチェックしてください。

また東大1項目版を以外にもプレゼンティーズムの測定方法はあります。

出典:経済産業省 商務情政策局 ヘルスケア産業課『企業の「健康経営」ガイドブック~~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1班)』

企業はそれぞれの特徴を理解し、自社でどの指標を取り入れるか検討してください。

出典:東京大学未来ビジョン研究センター『SPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)』

 

プレゼンティーズムの損失額

ユナイテッド・コミュニケーション株式会社は2018年の調査により、従業員が抱えるストレスによる企業の潜在的損失額を発表しました。

調査の結果、年収400万円で想定した場合のプレゼンティーズムによる推定損失額は年間で次の通りです。

分類

推定損失額

企業内の構成比率

健康な人

60万円

90%

高ストレス者

109万円

8%

超高ストレス者

139万円

2%

上記の計算方法で考えると、従業員数1,000名の場合の年間損失額は最大で6,700万円です。

この調査結果から、プレゼンティーズムが企業にもたらす損失は莫大なものだと言えます。

出典:ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株 式会社『本邦初:ストレスによる企業のコスト損失額は、高ストレス者一人当たり 150 万円に達する可能性があることが判明 』

 

自社の損失額を詳しく計算する方法

自社の推定損失額を具体的に計算したい場合、次の2つの方法がおすすめです。

1.東大1項目版を用いた計算

 労働生産性損失額(円)= プレゼンティーズム損失割合(%)× 賃金(円)

 ※プレゼンティーズム損失割合(%)= 100% – プレゼンティーズム(%)

出典:東京大学未来ビジョン研究センター『SPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)』

 

2.株式会社emphealが提供する「健康経営のための生産性損失額シミュレーション」

下記URLにて業種、従業員規模、平均年収を入力するだけでシミュレーションが可能

出典:株式会社empheal『健康経営のための生産性損失額シミュレーション』

どちらの方法でも簡単に推定損失額を算出できるため、自社の現状把握に役立ててください。

 

コロナ禍におけるプレゼンティーズムの要因

昨今はプレゼンティーズムについて、新型コロナウイルス感染拡大の影響も懸念されています

株式会社バックテックは、コロナ禍における日本人勤労者1.7万人のプレゼンティーズムを調査しました。

調査の結果、生産性低下の要因TOP10は以下の通りです。

出典:株式会社バックテック『「プレゼンティーズム」とは?その可視化方法と運用上の留意点』

ここからは本調査で明らかになったTOP3の要因を深堀りします。

 

①肩こり・首の痛み

平成28年国民生活基礎調査の概況では病気やけがなどの自覚症状がある方のうち、自覚している症状について、男性の2位、女性の1位が肩こりでした。

出典:厚生労働省『Ⅲ 世帯員の健康状況』

肩こりに悩んでいる方は非常に多く、日本の国民病と言えます。しかし命に関わる重病ではないため、放置されることも多いです。

現在はテレワークの急速な普及により、在宅勤務を始める人が増えています。

オフィス家具と異なり長時間の事務作業に向かないイスやテーブルを使用している方も多く、肩こりに悩む方はさらに増えると言えます。

 

②疲れ・疲労

日本には勤労こそ美徳という風潮があり、「疲れているから休みます」と言いにくい人は多いです。

しかし疲れている状態で仕事をしても生産性が上がらないため、プレゼンティーズムの要因となります。

また在宅勤務では長時間労働が放置されがちなことから、さらに疲労が溜まりやすい環境が生まれています。

生産性低下により業務負荷が増えればさらなる長時間労働が必要となり、従業員の負担は増加します。

 

③腰痛

ニチバン株式会社の調査ではコロナ禍で増えた不調として、目の疲れや肩こり、疲れやだるさに次いで、腰痛を挙げる人が多い結果となりました。

出典:ニチバン株式会社『<コロナ禍の健康状況の調査>コロナ禍の“自粛痛” 慢性化している人は、6割いることが判明 そのうち不調の原因は「在宅勤務・生活」が4割と回答』

 

腰痛は肩こりと同様、在宅勤務による影響が大きいです。

痛みを放置し椎間板ヘルニアなどを発症すれば、欠勤や休職につながります。在宅での仕事環境を向上させ腰痛を防ぐため、企業が費用補助をする事例も増えています。

 

プレゼンティーズムによる損失を減らすために

職場環境を従業員個人が改善させるのは難しいため、プレゼンティーズムによる損失を減らすには企業の積極的な対策が重要です。

ここからは厚生労働省「健康経営オフィスレポート」に記載されている7つの視点から、すぐに始められる具体策を紹介します。

①快適性を感じる

快適な職場環境は業務による身体への負荷を減らし、ストレスを軽減させます。

現在のオフィスが抱える課題を洗い出し、費用対効果の高い取り組みから始めてください

【具体的な対策例】

  • オフィスにあるデスクや椅子の見直し
  • デスクや椅子の購入費用補助
  • 照明の明るさの調整

従業員が長時間過ごすオフィスの環境を改善することで、仕事への満足度も上がります。

 

②コミュニケーションする

テレワークの普及により、コミュニケーション不足や孤独を感じる従業員が増えています。

企業として、社内コミュニケーションを活性化させる取り組みを実施することが大切です。

【具体的な対策例】

  • 社内イベントの開催
  • 手軽なコミュニケーションツールの導入
  • 1on1面談などの密なコミュニケーション機会の創設

コミュニケーションの機会が増えれば帰属意識が高まり、離職率低下に期待できます

 

③休憩・気分転換する

就業時間中に心身ともにリラックスできる時間や機会を創出すると、ストレス解消に効果的です。

【具体的な対策例】

  • こまめな休憩の推奨
  • リラクゼーションルームの開設
  • 1人になれる時間・空間の整備

就業中の緊張状態から開放され、自分のコンディションに向き合う機会を意図的に作ってください

 

④体を動かす

コロナ禍の影響で通勤が減り、運動不足になっている従業員は多いです。体を動かせる時間・空間を作り従業員の健康をサポートしてください。

【具体的な対策例】

  • 体を動かすイベントの実施
  • スタンディングデスク(立ったまま作業できる机)の導入
  • 歩数に合わせたインセンティブ制度の導入

適度な運動は、心身の健康において非常に重要です。運動不足を解消し、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病やメンタル不調を予防しましょう。

 

⑤適切な食行動をとる

昼食の欠食や不健康な飲食は体調不良の原因となるため、食事面でのサポートも必要です。

【具体的な対策例】

  • 健康的な食事の費用補助
  • 食に関する健康セミナーの実施
  • 社食の提供

食に関する福利厚生は、従業員満足度にも好影響をもたらします。

従業員の食行動は個人の責任と決めつけず、企業としてできるサポートを検討してください

 

⑥清潔にする

花粉症などのアレルギー疾患対策として、企業でできる取り組みがあります。

【具体的な対策例】

  • 快適な室温・湿度の保持・管理
  • 定期的な空気の入れ替え
  • うがい・手洗いの推奨

安全衛生委員会などと協力し、清潔で過ごしやすい職場形成を心がけてください

 

⑦健康意識を高める

企業が積極的なプレゼンティーズム対策を実施しても、従業員の健康意識が低いままだと十分な効果は期待できません。

従業員一人ひとりの健康意識を高め、生活習慣の見直しを促すことが大切です

【具体的な対策例】

  • 体重や血圧などを自由に計測できる環境の整備
  • セルフケアに関するセミナーの実施
  • 定期健康後の個別フォローアップ

ヘルスリテラシーが向上すれば、従業員が自発的に健康維持に取り組むようになります。

 

プレゼンティーズム解消につながる健康経営の取り組み事例 

ここまで紹介してきたプレゼンティーズム対策について、積極的に取り組んでいる企業の実例を紹介します。成功事例を学び、自社でプレゼンティーズム対策を考える際の参考としてください

 

コロナ禍に運動機会を創出|株式会社ベネッセホールディングス

出典:株式会社ベネッセホールディングス

株式会社ベネッセホールディングスは在宅勤務などの新しい働き方に対応するため、オンラインの運動習慣定着セミナーを実施しました。

運動習慣定着セミナーではオンラインで参加者が集ってストレッチなどを実施し、運動機会の創出・習慣化に取り組んでいます。

2020年度は約900名、2021年は約1,600名が参加し、約6割が健康を意識した行動変化を実感しています。

出典:株式会社ベネッセホールディングス『働きやすく活気ある職場づくり(労働慣行)』

 

食堂から宅食へ|株式会社タニタ

出典:株式会社タニタ

コロナ禍で社員食堂による食事提供が中止に追い込まれる中、株式会社タニタは健康的な日替わり定食をランチボックスにして毎日届ける制度を作りました

その他「タニタ健康プロジェクト」として以下のような取り組みを実施し、定量的なデータを元に従業員の健康増進を進めています。

  • 健康ポイント付与によるインセンティブ制度の導入
  • 体組成計や血圧計などを配置した計測ルームの設置
  • メタボリックシンドロームの従業員に対する宿泊型のグループ支援

また株式会社タニタは、ホームページで健康経営の取り組みに関するデータを経年で公開しています。

出典:株式会社タニタ『健康経営への取り組み』

毎年継続してデータを取ることで、外部の方に取り組みを効率的にアピールしていると言えます。

出典:株式会社タニタ『健康経営への取り組み』

 

健康指導の実施|味の素株式会社

出典:味の素株式会社

企業スローガンとして「味の素グループで働いていると、自然に健康になる」を掲げる味の素株式会社は、従業員の健康意識向上に注力しています。

2003年に発足した健康推進センターでは予防の観点から従業員のセルフケアを促進。

健康診断の結果から1人30分の面談を実施し、価値観や生活スタイルに合わせた指導を実施しています。

地道な取り組みの結果、健康診断の有所見率はBMI・血圧・尿酸・肝機能・脂質・血糖の6項目すべてにおいて改善傾向にあります

出典:健康経営 日本の人事部『味の素社のセルフ・ケアを起点とした健康経営 全従業員が「自然に健康になる」仕掛けとは』

 

まとめ:プレゼンティーズムによる損失額を最小化する取り組みを!

プレゼンティーズムがもたらす損失額は大きく、企業にとって無視できない重大な課題です。

まずは自社でどれくらいのプレゼンティーズム損失額が発生しているのか、把握することから始めてください損失の大きさを知れば、対策の必要性が明らかになります。実態を把握したうえで、今回紹介した対策や他社事例を参考にして必要な施策を検討してください。

なお、専用のツールを活用すると、従業員の健康保持・向上における効果が高まります。

運動習慣化につながる福利厚生アプリKIWI GOには歩数に応じてコインが貯まる仕組みがあり、楽しく前向きにウォーキングを継続できます。

またウォーキングイベントの実施支援、チャット機能もありコミュニケーション機会の創出にも効果的です。

従業員の健康を維持、増進するためにぜひKIWI GOを活用してください。