新型コロナウイルスの拡大や働き方改革によって健康の重要度が高まっている現在、健康増進手当の導入を検討する企業は多いです。
生活習慣改善に向け効率的に従業員のやる気を高める手段として、健康増進手当は有効です。
しかし実際に健康増進手当を導入する際には、導入のメリットやデメリット、支給の対象について疑問を抱く方が多いでしょう。
そこで今回は、健康増進手当の概要や導入するメリットやデメリット、導入した企業の事例を紹介します。
健康増進手当の導入を検討している場合には、ぜひ参考にしてください。
目次
健康増進手当とは
健康増進手当とは企業が設定した健康に関する条件を達成した場合、従業員に支給する手当です。
健康増進手当の支給額は、月に1,000円から3,000円程度が一般的です。
企業によっては、年間を通して健康への取り組みを達成した従業員に、年3万円程度をまとめて支給するケースもあります。
従業員が不健康な状態では生産性やエンゲージメントの低下など、さまざまなマイナスの影響が起こります。
体調不良が悪化すれば、会社を長期間休む従業員や退職を選ぶ従業員も出てきます。
企業や従業員が抱えるリスクを考えると、健康増進手当を導入する価値は十分にあるといえます。
健康増進手当の導入で得られるメリット
健康増進手当を導入する目的は、企業によってさまざまです。
ここからは健康増進手当を導入すべきか迷っている企業に向け、健康増進手当導入のメリットを2つ紹介します。
健康意識が高まる
健康増進手当をもらうには、健康に関する取り組みを達成しなければいけません。
そのため「取り組みに参加すれば健康増進手当がもらえる」と、健康に向け動き始める従業員が増えます。
健康増進手当をきっかけにして健康の重要さに気づく従業員が増えれば、長期的に健康意識が向上します。
健康的な習慣を身につけるには、実際の取り組みで効果を実感してもらうことが大切です。
健康への意識を対外的にアピールできる
外部関係者や株主が企業評価のため、健康への取り組みを見る可能性は少なくありません。
従業員が不健康であれば、欠勤者の増加やエンゲージメントの低下など業績低下につながります。
従業員が健康に働けているかどうかは企業の今後を左右する大きな要因だといえるため、重要視する方が増えているのです。
また健康への取り組みが評価されると、働きやすい環境が整っている会社として求職者から選ばれる可能性が上がります。
人材が不足している現在、求職者へのアピールとして健康増進手当の導入は効果的です。
健康増進手当のデメリットとは
健康増進手当のデメリットを知ることで、導入後のトラブル防止につながります。ここからは健康増進手当導入で注意すべき点と解決法を紹介します。
コストがかかる
健康増進手当の相場は1人あたり月1,000円〜3,000円程度であり、年間では1人当たり36,000円ほどになるためコスト面で負担がかかります。
費用負担の増加が、企業や団体の経済状況に影響を与える可能性は少なくありません。
また健康への意識が高まるほど健康増進手当を受け取れる従業員が増え、費用面の負担は増加します。
しかし従業員が健康になることで仕事を効率的に進められるようになるため、生産性アップに期待できます。
どうしても費用負担が重い場合は段階的に基準を見直す、他の取り組みに切り替えるなどして調整してください。
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不公平感が生まれることもある
特定の従業員しか手当を受け取れない状態だと、他の従業員から不満が出ることもあります。
例えば禁煙に成功した従業員にのみ手当を支給する場合、もともと煙草を吸わない人は手当を受け取れません。
そのため非喫煙者にとって、健康増進手当制度は不公平なものです。
しかし手当の支給基準を変えれば、不平等感を減らせます。
先ほどの例においては喫煙していない期間に応じて手当を支給すれば、喫煙しない方も手当を受け取れます。
また健康診断の受診やウォーキングなど全従業員が共通して取り組める項目を追加すれば、不満は出にくくなります。
不正が起こる可能性がある
従業員の行動をすべてチェックするのは現実的ではなく、不正に手当を受け取る従業員も出てきます。
例えば禁煙に成功した人に手当を支給する場合、禁煙をしたと申告している従業員が影で喫煙している可能性もあります。
健康増進手当導入の際にはルールを明確化したうえで、不正受給者に対して厳しい対応を行うことが重要です。
不正受給が発覚した場合に備え、支給対象から外す、返金してもらうなど厳しい対応も検討してください。導入時にルールを明確化することで、不正受給を予防できます。
支給対象とすべき従業員と導入のポイント
健康増進手当を導入する際は、従業員が納得するような支給条件の設定が重要です。
解決したい健康課題に対し、支給条件や細かな内容を決めてください。
ここからは代表的な支給対象と導入のポイントについて詳しく解説します。
禁煙者に対して支給
喫煙は肺がんによる死亡率の増加、慢性気管支炎や呼吸困難などさまざまな症状につながります。
喫煙による健康リスクを減らしたい場合、健康増進手当の対象を禁煙者にしてください。
健康増進手当によって禁煙のきっかけが生まれ、健康への意識が変わります。
ただしすでに禁煙者であっても対象に含めるのか、影で喫煙している人に対してはどう対処するかといった問題があります。
支給対象者の条件を明確にする、非喫煙者でも達成できる条件を設定するなどして、不公平感のない制度を作ることが大切です。
健康診断の結果に対して支給
労働安全衛生法第66条に基づき、従業員の健康診断が義務化されています。
身体的な健康問題を予防したい場合は、健康診断の結果を利用し健康増進手当を支給するのがおすすめです。
健康診断に関連した支給条件には、次のものがあります。
- 健康診断の結果に異常がなかった従業員に支給
- 肥満度の数値(BMI)が基準値に達した場合に支給
ただし年齢と共に健康へのリスクは高まるため、年齢を問わない基準では年を重ねるにつれ達成が難しくなります。
支給の際には、年齢を考慮して異なる条件を設けるなどの対策が必要です。
また健康状態が昨年の診断より改善された場合に支給するなど、相対評価による条件設定だと不公平感が生まれにくく効果的です。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう(P1)
健康への取り組みに対して支給
健康セミナーやイベントに参加した従業員に対し、手当を支給するのも効果的です。
健康増進手当以外にも健康に関する取り組みを実施している場合は、検討してください。
例えば会社としてウォーキングを推進している場合、1日の平均歩数が8,000歩以上の従業員に対して健康増進手当を支給する、といった条件が考えられます。
手当金が貰えるのであれば取り組んでみようと考える従業員は多いため、取り組みへの参加者を増やすなら健康増進手当がおすすめです。
残業時間削減に対して支給
長時間の残業は脳や心臓、胃の疾患や精神障害につながります。
呼びかけをしているものの残業時間が減らない場合、残業時間削減を支給の対象条件にすると健康効果が見込めます。
社内一丸となって残業時間削減に取り組めれば、従業員の私生活も充実し会社への満足度が向上します。
しかし仕事が忙しく苦労して残業したのに手当をもらえない状態では、不平等感につながります。
部署ごとに残業時間と仕事量の現状を調査し、不公平さが生じない支給条件について議論してください。
参考:一般社団法人 新潟県労働衛生医学協会 長時間労働による健康障害「長時間労働の健康影響」より
有給取得率向上に対して支給
有給取得率が低い環境では、日常生活やプライベートの用事より仕事を優先してしまいがちです。
十分に休めない状況だと心身に負担がかかり、寝不足や気分の落ち込み、うつ病などの不調につながる可能性があります。
充実した生活を実現してもらうため有給取得率を上げたい場合は、有給取得率に対し、健康増進手当を支給してください。
健康増進手当を導入すると、社内で有給取得率向上への意識が高まります。
また休暇の取得をしやすい雰囲気が生まれ、精神的な安心感にもつながります。
複数の条件を満たした人に支給
禁煙や運動への取り組み、健康診断の結果など、健康増進手当の支給条件は多数あります。
意欲的にさまざまな取り組みに挑戦してもらうなら、複数の取り組み条件を設定するのがよいでしょう。
しかし達成するための支給条件が厳しすぎる場合、取り組む人がいなくなる可能性もあります。
複数の条件を設定する場合には支給金額をアップし、従業員のモチベーションを高めることが大切です。
健康増進手当の導入事例
ここからは、健康増進手当を導入した目的、運用条件を中心として健康増進手当を実際に導入した企業の例を紹介します。
株式会社クレスト
出典:株式会社クレスト
株式会社クレストでは2020年4月よりテレワークを導入したものの、運動不足の従業員が増えている状況でした。
そこで従業員の健康への行動や意識を向上させ運動不足を解消するため、健康増進手当を導入しています。
以下が健康増進手当の内容です。
- 支給条件:必修条件4項目に加え、任意条件のうちいずれか2項目を達成した者
- 必修条件:定期健康診断の受診、ストレスチェックの受検、1年間で10か月以上の勤務、1年間を通じて非喫煙者
- 任意条件:当年度付与の有給休暇を60%以上消化、1年間の平均残業時間が月当たり20時間以内、健康診断のBMI値が標準値、8,000歩以上歩いた日が100日以上
導入の結果支給条件を満たした642名の従業員のうち、581名が「健康管理に関する意識が強くなった」と回答しました。
また219名の従業員が「健康管理のための行動を起こした」と答えており、健康行動に変化が見られました。
参考:共同通信PRWire 社員642名に『健康増進手当』を初支給
大建工業株式会社
出典:大健工業株式会社
大健工業株式会社では「喫煙社員ゼロ」を目標に、健康増進手当を導入しています。
健康増進手当の支給基準は、次のとおりです。
- 対象者:正社員・契約社員・嘱託社員
- 支給条件:卒煙チャレンジを達成した者、健康診断を受診した者
※卒煙:将来を含め喫煙しないこと
※卒煙チャレンジ:1か月間禁煙に挑戦してもらうこと
- 支給金額:月1,000円/人
取り組みの結果、70名が卒煙チャレンジに成功しました。
また未達成者でも喫煙本数が減少しており、「喫煙社員ゼロ」に向けて効果を出せたといえます。
参考:大建工業株式会社 健康経営の推進に向け「健康増進手当」の支給開始
株式会社エムステージホールディングス
株式会社エムステージホールディングスでは、健康増進手当の目標項目に有給休暇消化率50%以上を掲げて取り組みを行っています。
健康増進手当の取り組み内容は、次のとおりです。
- 支給条件:有給休暇消化率50%以上、残業時間が月平均45時間未満、非喫煙、無遅刻・無欠勤、BMI標準値(18.5 以上25.0 未満)を年間で達成した者
- 支給金額:年額30,000円
導入の結果、応募者48名中17名が条件を達成しており、持続的な組織づくりにつながっています。
参考:株式会社エムステージホールディングス INSTITUTION 社内制度
参考:PR TIMES ~健康的な働き方への社員の“自主的な”意識を高める~ 有給休暇の消化率50%以上+4つの指標達成で年額5万円の健康増進達成手当を支給
株式会社アクアリーフ
出典:株式会社アクアリーフ
株式会社アクアリーフでは従業員の意識を高めて心身の健康を維持してもらうため、2021年より健康増進手当を導入しています。
健康増進手当の取り組み内容は、次のとおりです。
- 支給条件:非喫煙の者、健康診断を受診し一定以上の判定が出た者、階段利用とウォーキングへの取り組みが基準を満たしている者、毎月連続5日間の食事を記録・提出しているもの
- 支給金額:条件項目数×300円を毎月支給
導入のポイントは禁煙以外に、誰もが取り組める項目を追加した点です。
また食事やウォーキングの記録を条件に含むことで、幅広い視点から自身の健康に目を向けられる制度となりました。
参考:株式会社アクアリーフ アクアリーフが健康経営の取り組みとして「健康増進手当」の支給を開始
まとめ:健康増進手当の効果は絶大!手当で健康意識を変革させよう
「従業員の健康意識を向上させたい」「健康への取り組みに積極的に参加してもらいたい」
という企業には、健康増進手当が効果的です。
従業員が健康に対して前向きに取り組める施策として、健康増進手当を検討してください。
健康増進手当支給の条件はさまざまですが、デスクワークが中心となっている現在、運動不足解消のために歩数を条件とするのがおすすめです。
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従業員の健康のため、ぜひ導入を検討してください。