多様な働き方の実現につながる「フレックスタイム制」。働きやすい環境を作るため、導入を検討している企業は多いでしょう。

今回は、フレックスタイム制の制度概要やメリット・デメリット、実際に導入するまでの手順を詳しく解説します。フレックスタイム制の導入を検討されている企業は、ぜひ参考にしてください。

 

目次

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、従業員が自らの裁量で始業・終業時間を決定して働くことができる労働制度です。

厚生労働省が発表した「令和元年版 労働経済の分析」によると、フレックスタイム制を採用している企業の割合は5.6%と多くはありません。

 

参考:厚生労働省 令和元年版労働経済の分析

 

しかし、フレックスタイム制を採用している企業で働く従業員は、そうでない企業の従業員に比べ「現在の会社で働き続けたい」と回答した割合が多いです。

 

引用:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 ー人手不測の下での「働き方」についてー

 

現時点では多くないものの、今後従業員満足度に注目が集まるにつれフレックスタイム制を導入する企業は増えるでしょう。

フレックスタイム制を導入する企業は、1日の中で「コアタイム」と「フレキシブルタイム」と呼ばれる時間を設定します。


従業員は、フレキシブルタイムの範囲内で自ら始業・終業時間を設定します。

 

出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

 

従業員が勤務すべき時間の合計である「総労働時間」は、企業が定める「清算期間」の長さに応じて設定されます。

フレックスタイム制は、企業が定める一定のルールの中で、従業員が自由に始業・終業時間を決めることのできる、柔軟な制度です。

制度への理解を深めるため、フレックスタイム制に関する言葉の定義を確認しましょう。

 

コアタイム


「コアタイム」とは、従業員が必ず勤務しなければならない時間帯として、企業が定める時間です。

コアタイムは、企業の実態に応じて任意で設定できます。コアタイムを作る場合、「午前11時から午後3時まで」というように、始業・終業時刻を両方設定しなければいけません。

 

コアタイムの設定により、必要な時間帯に従業員を勤務させることが可能です。

 

コアタイムがあれば会議やミーティングなどの時間も作りやすいため、設定しておくと便利です。

 

一方、コアタイムを設定しないメリットもあります。


コアタイムがない場合、1日のうちに出社義務のある時間がありません。つまり、まったく勤務しない日を作ることも可能です。

より柔軟な働き方につながるため、特定の従業員にはコアタイムなしでの勤務を認めるといった対応を検討するのもよいでしょう。

 

フレキシブルタイム

「フレキシブルタイム」とは、従業員が働ける時間帯です。

コアタイム同様、「午前8時から午後8時まで」のように、始業と終業の時刻を定めます。

従業員は、フレキシブルタイムの中で自らの始業・終業時刻を決定できるため、上記の例では、「午前10時出社、午後6時退勤」などの勤務が可能です。

フレキシブルタイムにも、設定義務はありません。業務の実態や管理のしやすさなどから、フレキシブルタイム導入の可否を判断してください。

 

フレキシブルタイムを設定する際は、「深夜業」にあたる時間帯に注意が必要です。深夜業とは、午後10時から翌午前5時までの時間帯の労働を指します

 

深夜業の時間帯に従業員を労働させた場合、2割5分以上の割増賃金の支払いが必要です。

従業員の深夜就業を許容しない場合は、フレキシブルタイムから深夜業にあたる時間を除いて設定するようにしましょう。

 

清算期間

「清算期間」とは、フレックスタイム制の計算の単位となる期間です。従業員は、清算期間内で自らの労働時間を調整して勤務します。

清算期間は、給与計算の期間とあわせて1か月と定める企業が一般的です。

フレックスタイム制を導入する企業は、清算期間を設定しなければいけません。

2019年の法改正により、清算期間は最長3か月となりました。企業の実情に合わせて調整しましょう。

 

総労働時間

総労働時間とは、清算期間内で従業員が働くべき時間の合計です。

総労働時間は、以下いずれかの方法で定めます。

  1. 所定労働日に限らず「月150時間」といったように特定の時間を定める方法
  2. 清算期間内の所定労働日と、1日当たりの想定労働時間によって定める方法

 

2.については、例えば「所定労働日が月20日、1日当たりの想定労働時間が7時間」の場合、20日×7時間=140時間が、その月の総労働時間です。

 

実際に労働した時間の合計が総労働時間を超えた場合、超過した時間分の賃金を追加して支払います。

逆に、実際に労働した時間が総労働時間を下回る場合、不足した時間分を賃金から控除するか、翌月の労働時間に加算して労働させます。

出典:厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

 

フレックスタイム制の目的

フレックスタイム制がどのような目的で企業に導入されているのか、代表的な2つの例をご紹介します。

 

フレキシブルな働き方を実現するため

育児や介護などで働き方に制限のある従業員が、一律に決められた時間に出社・退勤するのは困難です。

例えば、小さな子どもを養育する親であれば、保育園への送迎があるため朝早くに出社できない、夕方早めに退勤しなければいけない、といった事態が考えられます。

家庭やプライベートを犠牲にせず、従業員が働き続けられるような環境を創出するのが、フレックスタイム制を導入する目的の1つです。

 

合理的な労働環境を実現するため

事業や担当業務の特性によっては、月の中でも繁閑があったり、人手が必要になる時期が決まっていたりします。

例えば給与計算を担う労務担当者の場合、計算時期は労働時間が膨らみますが、そうでない時期は比較的業務量が少なくなります。

業務実態にあった労働環境の実現が、フレックスタイム制導入の目的です。

 

フレックスタイム制導入のメリット

続いて、フレックスタイム制の導入によるメリットを解説します。

 

ワークライフバランスが整う

フレックスタイム制では、子の保育園の送迎や、自らの副業など、従業員が個々の事情に合わせて労働の時間帯を決定できます。

働く時間の柔軟性が上がることで、これまでの制度では離職せざるを得なかった従業員も継続して仕事を続けることが可能です。また、従業員のワークライフバランスが向上すれば、従業員満足度の向上も期待されます。

 

通勤ラッシュを避けられる

始業や終業時間を通勤ラッシュ時間からずらすことで、通勤によるストレスが軽減されます。

混雑していない電車内では、通勤時間を読書や資格勉強などに使うことも可能です。

また通勤中に接触する人の数が減ることで、新型コロナウイルス感染症予防の効果も期待できます。

 

仕事の繁閑に合わせ時間調整ができる

業務の忙しさが暦によってある程度定まっている仕事の場合、フレックスタイム制を導入すれば業務量に合わせた勤務時間の調整が可能です。

仕事がないのに勤務時間として過ごす、繁忙期に過剰な残業代が発生する、といった事態を防げるため合理的な働き方が実現できるでしょう。

必要な時間のみ働く体制を作ることができれば、残業代削減にも繋がり企業にとって大きなメリットです。

 

タイムマネジメントスキルが身に着く

フレックスタイム制を導入すれば、従業員は始業・終業時間を自ら決定し、総労働時間を意識した労働時間の管理ができます。

自らの業務量と労働時間を日々調整する必要が生じるため、タイムマネジメントスキルの向上も期待できます。

マネジメント職の従業員も部下や同僚の勤務時間に合わせて業務分担を行うようになり、これまでと異なるスキルを身に着けられます。

 

求職者へのアピールポイントになる

フレックスタイム制の導入は、求職者への大きなアピールポイントとなり得ます。

働き方改革が推進されている現在、自らの働き方に対してフレキシビリティを求める求職者が増えています。

フレックスタイム制を導入している企業は、従業員の働きやすさに配慮した企業として、求職者にプラスのイメージを与えます。

結果的に、優秀な人材の確保に繋がる可能性も高まります。

 

フレックスタイム制のデメリット

次に、フレックスタイム制のデメリットを3つご紹介します。

 

勤怠管理が煩雑になる

フレックスタイム制を導入することで、従業員ごとに労働時間が変わり管理が難しくなります。

合計労働時間の把握、総労働時間を超過する場合の対処、残業時間の計算など、フレックスタイム制では複雑な管理項目が必要です。

部下の勤怠管理を行うマネジメント職や労務担当者は、深くフレックスタイム制度を理解しなければいけません。

また勤怠システムや給与計算システムを使用している企業の場合、システム変更やカスタマイズが必要です。変更に際して、設定に時間や費用を要する場合もあります。

フレックスタイム制導入にあたっては、従業員やマネジメント職、労務担当者にしっかりと教育を行い、勤怠管理の環境を見直しましょう。

コミュニケーションに工夫が必要になる

フレックスタイム制を導入すると、全員が同じ時間に出社するわけではなくなり従業員同士が共に過ごす時間が減ります。

全員が集まる時間が確保できない可能性もあるため、会議時間の設定にも工夫が求められます。

出席が必須の会議はコアタイムに設定するなど、運用上のルール作りが必要です。

また、出社前後ですぐに顧客対応が必要になる可能性もあるため、チームでカバーできる体制の構築も大切です。

 

タイムマネジメントが苦手な従業員への対応が必要になる

タイムマネジメントが苦手な従業員にとって、フレックスタイム制は非常に大きな負担です。

従業員が自らの勤務時間を管理できていないと、清算期間の終了間近になって労働時間の超過・不足に企業側が対応しなければいけません。

場合によっては、多額の残業手当が発生する危険性もあります。

タイムマネジメントが苦手な従業員に対しては、うまく時間管理ができるよう運用上のコツなどをしっかり伝えてください。

 

指導に際しては、労務担当者のみならず、普段から業務指示を行うマネジメント職からのフォローも必須です。

 

フレックスタイム制を導入する手順

次に、実際にフレックスタイム制を導入する際の手順を詳しく解説します。

1.経営戦略と連動した運用方法を検討する

はじめに、経営戦略と直結したフレックスタイム制運用の検討が必須です。

大前提として、フレックスタイム制の導入が企業の目指す姿に近づく施策であることが大切です。

フレックスタイム制の導入によって企業が得たいものは何か、経営陣とよく協議するようにしましょう。

ワークライフバランスの向上や残業代削減など、フレックスタイム制導入の目的はさまざまです。

何のためにフレックスタイム制を導入するのか経営層や関係各所とよく協議したうえで、導入を決定してください。

2.対象従業員を決定する

フレックスタイム制導入の目的や意義を確認したところで、制度の対象者を決定しましょう。

フレックスタイム制を全従業員に一律に適用する必要はありません。業務の実態に合わせ、制度導入が有効に働く対象従業員を見極めましょう。

従業員にとってメリットが多いからといって、業務実態を考慮せずに全従業員を対象とすると、業務を遂行する上で重大な支障をきたす危険性があります。

例えば、顧客対応が重なる時間帯に従業員が不足する、チームで仕事をする際に必要なメンバーが揃わない、等の問題が考えらます。

業務の実態にあわせて、対象範囲を決定するようにしましょう。

なお、フレックスタイム制の対象を一部従業員に限定する場合は、他の従業員に対して納得できる説明を行うなど、配慮も必要です。

 

3.フレックスタイム・コアタイムの設定

次に、フレックスタイム・コアタイムを決めます。

対象となる部署の業務内容や実態にあわせて、コアタイム等の設置が有効かを判断しましょう。

重要なのは、コアタイムを長く設定しすぎないことです。

例えば、フレックスタイム午前8:00〜午後18:00に対し、コアタイムを午前9:00〜午後17:00に設定するとします。

 

上記の場合、従業員がフレキシブルに調整できる幅は、前後の1時間だけになってしまいます。

コアタイムが長すぎると、せっかくのフレックスタイム制の良さを十分に発揮できない可能性が高まります。

フレキシビリティを失わない範囲で、コアタイムを設定しましょう。

4.従業員にヒアリングを行う

次に、従業員へのヒアリングを実施します。

フレックスタイム制の導入は、従業員の働き方に関わる重要な事項です。

本当にフレックスタイム制を導入して大丈夫か、事前に従業員へのヒアリングを実施しましょう。

得られた意見を制度運用に生かし、満足度の高い制度に仕上げてください。

 

5.就業規則を変更する

次に、決定した制度内容に合わせて就業規則の変更手続きを行います。

フレックスタイム制導入により、就業規則の労働時間に関する項目などを変更しなければいけません。

就業規則を変更した場合、管轄の労働基準監督署への届け出が必要です。

変更届の提出は「遅滞なく」行うこととされています。明確な期限が定められているわけではありませんが、早期に提出するようにしましょう。

 

なお変更届を提出する際には、変更後の就業規則と、労働者代表の意見書をあわせて届け出る必要があります。


6.労使協定を締結する

就業規則の変更とあわせ、フレックスタイム制の労使協定を締結する必要があります。

フレックスタイム制の労使協定では、労働基準監督署への届出義務までは設けられていません。

ただし、清算期間を1か月超とする場合は届出が必要です。就業規則の変更届とあわせて、届け出ると良いでしょう。

参考:厚生労働省 フレックスタイム制ののわかりやすい解説&導入の手引き

 

7.勤怠システムを改訂する

次に、勤怠管理システムを確認します。

勤怠システムや給与計算システムによる管理を行っている場合、フレックスタイム制に対応した内容に変更する必要があります。

勤怠システムの中にはフレックスタイム制に対応していないものもあり、確認が必要です。

対応できない場合は、システムそのものを変更するため、導入に期間を要します。早めにシステム会社に確認しましょう。

変更後は、導入した制度内容とシステムの整合性を確認します。サンプルデータを用いて、ランダムチェックすると良いでしょう。

特に時間外労働のカウント方法や割増賃金の計算などが正確に反映されているか、確認してください。

 

8.従業員に周知徹底する

フレックスタイム制の導入について、従業員に周知することも重要です。

単に制度内容を説明するだけではなく、自社でフレックスタイム制を導入する目的や意義についても、従業員に理解してもらいましょう。

自社での運用方法について、従業員の立場に立った説明も大切です。

 

具体的には、残業が見込まれる場合の届出方法や、総労働時間の超過・不足に関する対応など、実務に応じた運用方法を丁寧に案内してください。

 

従業員への周知を怠ると、運用後に大量の問い合わせが来る、管理上のミスが発生するなどのトラブルにつながります。丁寧な説明を心がけてください。

 

9.実際に運用する

準備ができたら、実際に運用をスタートします。

人事制度は、実際に導入した後の運用が重要です。相談窓口を設置するなど、従業員の声を取り入れられる工夫をすると良いでしょう。

慣れない制度に戸惑う従業員も多いため、労務担当やマネジメント職による細やかなフォローも大切です。

運用を開始した結果、実態に合わない手順が見つかった場合には、運用方法を見直しましょう。

実際に運用しトライ&エラーを繰り返すことで、はじめて自社にとって最適な制度を作れます。

 

まとめ:フレックスタイム制を導入し従業員の多様な働き方を実現しよう

フレックスタイム制があれば、従業員個人が自身のライフスタイルに合った柔軟な働き方を実現できます。

さらに、残業代が減る、求職者に対するアピールポイントが作れるなど、企業側にもたくさんのメリットがあります。

企業の業務実態や従業員の意見を踏まえ、導入を検討してください。

導入に際しては注意点をしっかり把握し、スムーズに制度移行できるよう十分に準備しましょう。

 

フレックスタイム制の導入で特に意識したいデメリットは、従業員同士のコミュニケーションの希薄化です。

 

デメリットを解消する手段として、福利厚生アプリ「KIWI GO」の利用がおすすめです。

 

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