ウェルビーイング(well-being)は、従業員の心身および社会的な健康を重視する企業にとって欠かせない概念です。ウェルビーイングが高まると従業員がより生き生きと働くことが可能となり、企業の持続的な発展につながるでしょう。

しかしウェルビーイングという言葉を耳にすることはあっても、その具体的な意味や、向上させる方法についてよく分からないと悩む企業担当者は少なくありません。

そこで本記事では、ウェルビーイングの概念の説明から具体的な使い方、そして企業の実例について解説します。

ウェルビーイングの定義とは

ウェルビーイングとは単純に病気ではない、弱っていないという状態ではなく、身体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態です。

日本の厚生労働省は、ウェルビーイングを「個人の権利や自己実現が保証され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と提示しました。

また慶應義塾大学大学院のウェルビーイングリサーチセンター長の前野隆司教授によると、ウェルビーイングは一時的な幸せではなく、「持続的な幸せ」であると解説しています。

上記の定義より、持続的に心身の健康が保たれ、社会的にも満たされた状態がウェルビーイングであるといえます。

参考:公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp) 世界保健機関(WHO)憲章とは 

参考:厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要

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ウェルビーイングが注目されている社会的背景

ウェルビーイングの概念が注目される背景には、現代社会の様々な課題が関係しています。

ここでは、ウェルビーイングの概念が注目される理由を社会的背景に沿って解説します。

1.パンデミックや戦争の影響

近年、世界はパンデミックや戦争などの危機に直面しており、人々のウェルビーイングへの意識は高まっています。隔離やリモートワークの環境下では多くの人がストレス、不安、孤独感に直面し、精神的な健康のケアや予防策などの重要性が再評価されています

同様に、戦争や地域的な紛争も人々の生活や健康を脅かし、多くの人々がトラウマやストレス、経済的な困難を経験しました。

こうした流れから企業や組織は従業員のウェルビーイングをサポートする取り組みや制度を強化し、新しい働き方を模索するようになりました。

参考:厚生労働省 テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き

2.現代社会の課題とSDGsへの取り組み

現代社会では、環境問題や貧困問題など多くの課題に直面しています。現代社会が抱える課題の解決策として、全世界的に取り組まれているのがSDGs(持続可能な開発目標)です。

SDGsの中の「すべての人に健康と福祉を」という第3の目標はウェルビーイングの考えと深く関連しており、ウェルビーイングへの取り組みがSDGs達成への近道とされています

しかしSDGsの真の目的は単に目標を達成することではなく、「地球上の誰一人取り残さない」という基本理念に基づく持続可能な社会の構築です。

企業としては経済成長のみを重視するのではなく、人々の生活の質や地球環境、貧困といった課題にも真剣に取り組む必要があります。

参考:外務省 持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組

3.働き方改革の推進

ライフスタイルの多様化が進行する中で、従業員一人ひとりの自己実現をサポートすることは特に重要とされています。実際、日本では2019年の働き方改革関連法案の施行により、公正な労働条件とキャリアの安定を提供し、従業員が希望する働き方を選べるようになりました。より柔軟な働き方ができるようになったことで、就業面でのウェルビーイング向上について関心を持つ企業、求職者が増えています

今後も働き方改革による多様な働き方の推進は続くことから、ウェルビーイング向上の観点を持って社内制度を整えることは非常に重要といえます。

参考:厚生労働省 雇用政策研究会報告書(案) ~人口減少・社会構造の変化の中で、ウェルビーイングの向上と生産性の向上の好循環、多様な活躍に向けて~

ウェルビーイングをビジネスで使う5つのメリット

ここでは、ウェルビーイングの考え方をビジネスで使うことのメリットについて解説します。

1.従業員の生産性の向上

ウェルビーイングを重視することで労働環境が改善され、従業員の心身が健康になります。

従業員が健康になればより集中して仕事に取り組めるようになり、結果として生産性が向上するでしょう。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済分析

2.従業員の満足度が上昇

ウェルビーイングを取り入れることによって、心と体の健康が向上するだけではなく、従業員の自己実現や心の豊かさも高まります

従業員の職場に対する満足度が高まれば従業員が企業に長期的に勤め、より献身的に仕事をするための強力な動機づけとなります。

3.採用の競争力が向上

ウェルビーイングに注力する企業は、求職者にとって魅力的に映ります。企業が従業員の心身の健康を重視する環境を提供することで、自社のイメージが良くなり優秀な人材の確保につながるでしょう。

継続してウェルビーイング向上に取り組み安定して良い人材を確保すれば、企業の長期的な競争力が高まります。

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4.社会的評価の向上

ウェルビーイングを高める施策は、職場環境の改善や従業員満足度の向上、そして社会的責任を果たす姿勢を示すことにつながります。

継続した取り組みにより、顧客や消費者、投資家などから良いイメージを持たれれば、顧客などのステークホルダーから信頼を得ることが可能です。

5.従業員の継続的な成長

ウェルビーイング向上は、従業員の精神的な安定をもたらします。安定した環境下では従業員が新しいスキルを習得しやすく、イノベーションにつながる提案もしやすくなります

さらにウェルビーイングを高める施策には従業員間のつながりを深める効果もあり、従業員の定着率向上にも期待できます。

参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済分析

ウェルビーイングの使い方で重要なポイント

企業におけるウェルビーイングとは、働きやすい環境の中で、従業員が自身の能力を最大限に発揮しつつ心身ともに健康でいられることと考えられています。

ここでは、ウェルビーイングを企業で効果的に活用するためのポイントを解説します。

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参考:厚生労働省 魅力ある職場づくり

1.ウェルビーイングの理念を共有する

ウェルビーイングの概念を浸透させるには、まず企業のトップがウェルビーイングの重要性を理解し、その概念を従業員全体に明確に伝えることが重要です。リーダー層が積極的にウェルビーイングについてのメッセージを発信することで、ウェルビーイングの概念が広がります。社内のニュースレターや社内SNSを活用し、ウェルビーイングに関する情報や成功事例を定期的に共有してください。

そして最も大切なのは、従業員が日々の業務の中でウェルビーイングの概念を意識して行動に移す機会を作ることです。自己啓発やスキルアップの機会作り、運動や短い休息の導入などにより、自身の生き方や健康について関心を持てるきっかけを用意してください。

参考:厚生労働省 企業の「健康経営」ガイドブック

2.従業員のニーズを的確に把握する

従業員自身が何を求めているのか、どのような悩みや課題を持っているのかを正確に把握することでウェルビーイングが効率的に高まります。

アンケートやインタビューを定期的に実施して、従業員の満足度やニーズ、悩みを収集してください。ウェルビーイングへの理解度、現在の幸福感に関する質問を盛り込むことで、改善するべきポイントをより詳細に把握できます。

3.従業員のための柔軟な働き方を推進する

柔軟な働き方を推進すれば従業員の生産性や創造性が向上し、モチベーションも高まります。例えばリモートワークを導入することで通勤時間が減り、多くの時間とリソースをスキルアップなどに活用できます。

またフレックスタイム制度があれば、従業員は自分に合った時間に効率よく働くことが可能です。新しい働き方を導入する際は、就業規則の整備を通じて労使間の信頼関係を築くことが大切です。

4.環境やコミュニティを整備する

オフィス環境やコミュニティの整備は、従業員が生産的かつ幸福に働くために不可欠です。

共有スペースを配置することで従業員はリフレッシュしたり、情報を共有したりする場所を得られます。またオープンなディスカッションができる、ミーティングスペースの提供も有効です。

さらに社内イベントやチームビルディング活動を定期的に行うことで、従業員間の連帯感も高まります。自社の課題を明らかにしたら、環境整備で課題解決ができないか検討してください。

参考:厚生労働省 令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況

参考:厚生労働省 結果の概要

5.定期的なチェックと改善を行う

ウェルビーイングに関連する取り組みの効果は、定期的に確認してください。チェックと改善には外部の専門サービスを利用する方法が一般的ですが、特定の要件や項目に焦点を当てたい場合は、自社で取り組むのもおすすめです。ウェルビーイングの取り組みが一時的なものとならないよう、長期的に評価と改善を繰り返してください。

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ウェルビーイングアワードを受賞した企業の実例

出典:朝日新聞デジタル ウェルビーイングアワード2023 受賞作決定!  WELL-BEING ACTION!

ウェルビーイング・アワードはウェルビーイングにつながる取り組みの多様性を示すモデル企業を選出する制度です。

ここでは、ウェルビーイングアワード2023を実際に受賞した企業の事例を紹介します。

住友生命保険相互会社

引用:住友生命保険相互会社

住友生命保険相互会社ではオリジナルの健康プログラムを軸とし、健康寿命の延伸と健康長寿社会の実現を目的として住友生命「Vitality」を考案しました。

「Vitality」は健康リスクを減らす行動変容をサポートする健康プログラムであり、会員は専用アプリを通じて健康増進への取り組みを実践します。

そして目標の達成度合いに応じて獲得したポイントで翌年以降の保険料が見直され、会員に還元される仕組みです。

このプログラムでは、保険本来の役割である「万一に備える」ことにとどまらず、健康リスクそのものを積極的に減らすことを目的としました

アンケート調査によると、「Vitality」加入により健康を意識するようになった方が89%に増えたと報告されています。

大王製紙株式会社

引用:大王製紙株式会社

大王製紙株式会社は「もっといいパンツになる」というメッセージを基に、紙パンツ使用の恥ずかしさを払拭する取り組みを行いました。

具体的には、紙パンツには見えないシンプルなデザインの「かくさないパッケージ」を採用し、あらゆる年齢の人に紙パンツの使用を呼びかける「#わたしもはいてみました」プロジェクトなどを実施しています。

ウェルビーイング・アワードでは上記の取り組みに対して、新しく何かを生み出すだけではなく、付加価値を加えて新たな選択肢を増やすこともウェルビーイングにつながると評価されました。

株式会社丸井グループ

引用:株式会社丸井グループ

株式会社丸井グループでは、全従業員対象の「手挙げ方式」で参加者を募り、様々なウェルビーイング推進プロジェクトに取り組んでいます。

具体的なプロジェクトには女性のウェルビーイングをテーマにしたフェムテックイベントの実施や、有志社員によるワークショップなどの実施があります。

プロジェクト参加者の96%が自身の価値観と社会の方向性とのつながりを感じると答えており、「職場で自分が尊重されている」と感じる従業員の率も向上しています

まとめ:企業の活性化と従業員の幸福はウェルビーイングの使い方次第

ウェルビーイングが向上すれば、従業員の健康や幸福感が向上し、企業の競争力や生産性にも大きな影響を与えます。

しかしウェルビーイングを効果的に導入するには具体的な手段と実行が必要です。ウェルビーイングの概念をどう使うのか慎重に検討し、計画的に取り組みを進めてください。

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