労働者の健康増進が重要な経営課題として認識されている現在、THPは重要なキーワードです。

THPは労働者の心身の健康を良好にするための取り組みであり、現在は多くの企業で推進されています。従業員の働く環境を向上させ健康につなげるため、THPについて理解を深めることが大切です。

この記事ではTHPの基本情報、実際に自社で導入する際の注意点や手順を紹介します。

労働者の健康増進は労働生産性や企業のブランド価値を左右する重要な取り組みです。THPの要点を押さえ、自社の経営に生かしてください。

THP(Total Health promotion Plan)とは

THPとはTotal Health promotion Planの略で、厚生労働省が発表した「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づき、労働者の健康を推進するための取り組みのことです。

具体的には企業が健康保持増進計画に基づき健康診断や指導をおこなうことで、従業員が健康に働ける環境を作ることを指します。

令和3年2月8日にTHP指針は改正されており、労働者本人の同意がなくても企業と医療保険者が連携し定期健康診断の記録などを提供できるようになっています。

参考:厚生労働省 THP指針

THP指針では保険者と企業の連携による従業員の健康づくり(コラボヘルス)を、積極的に推奨する意向が強く反映されているといえます。

出典:厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」

 

THPの目的と背景

THPの目的は健康保持増進計画に基づき取り組みをおこない、労働者の心身の健康を保持・増進することです。

労働安全衛生法 第70条の2第1項には、事業者が労働者の健康の保持増進を図るために必要な措置を講ずること(健康保持増進措置)を努力義務としています。

出典:労働安全衛生法 第70条

健康は個人の責任とされることもありますが、職場環境や業務内容を従業員個人の努力で変えるのは非常に難しいです。そのため従業員が健康で働けるよう、企業側の努力が必要です。

近年THPが注目を集める背景には、労働者の健康に関する次の傾向が影響しています。

  • メタボリックシンドロームとその予備軍が、男性の約2人に1人、女性の約5人に1人の割合となっている
  • 仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者の割合が高い
  • 定年延長などの制度変更により、高齢の労働者が増加している

労働者を取り巻く健康問題などから、企業が健康に取り組む必要性は高まっています

出典:厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」

出典:厚生労働省 中央労働災害防止協会「はじめませんかTHP 働く人の心とからだの健康づくり」

 

THPに取り組むメリットや期待される効果

THPの推進は、従業員だけでなく企業にもプラスの効果をもたらします。人事担当者だけでなく経営層も、THP推進の目的やメリットを理解することが大切です。

 

従業員の作業効率がアップする

THPにより従業員の心身の健康が保たれれば、プレゼンティーズムとアブセンティーズムの両面で良い影響が期待できます。

プレゼンティーズム

心身の不調により、出勤しているもののパフォーマンスが低い状態

アブセンティーズム

心身の不調による欠勤や遅刻・早退、休職など

とくにTHPの推進は、プレゼンティーズムへの高い改善効果を発揮します。プレゼンティーズムは従業員が出勤を続けているため、一見問題がないように思われがちです。

心身の不調を抱えた状態であっても見過ごされやすく、効率や生産性の低下に気づくのは難しいでしょう。

しかしTHPを推進し出勤している多数の従業員が健康になれば、仕事のパフォーマンスが向上します。

プレゼンティーズムが改善されれば従業員の生産性が上がり、業績向上につながります。

出典:厚生労働省保険局「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」

 

帰属意識が高まり退職者が減る

THP推進を通じて従業員の健康に気を配ることで、従業員は「自分のことを大切に考えてくれている企業なんだ」と考え、愛社精神が高まります。

自分が勤めている企業に対してポジティブなイメージを持っている状態であれば帰属意識も上がり、離職率の低減につながります。

また健康増進のために長時間労働を改善したり業務負荷を見直したりすれば、過労やメンタル不調による退職も防ぐことも可能です。

優秀な従業員に長く勤めてもらう施策として、THPを積極的に推進することは非常に大切です。

 

企業価値の向上につながる

従業員の健康保持に努める企業として多くの方に認知されれば、ブランドイメージ向上にも効果的です。積極的に取り組みをPRし、企業のポジティブなイメージを伝えれば優秀な人材の確保に期待できます。

また人や社会に配慮した消費行動である「エシカル消費」が注目される中、労働者に配慮した企業としてブランドを構築すれば、消費者からの評価も上がります。

THPを積極的に推進することで、競合他社との差別化も可能です。

出典:消費者庁「エシカル消費」とは

 

THPを実践する上で重要なポイント

THPの推進をするうえで重要なのは、企業の実態に合わせたカスタマイズです

実際の取り組み内容を検討する前に、厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」で重要なポイントを把握してください。

ここからは厚生労働省の情報をもとに、THP実践のポイントを3つ紹介します。

出典:厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」

 

個別対応と全体対応の視点を持つ

THPの取り組みを検討する際には、以下2つの視点が重要です。

個別対応の視点

・労働者の個別の健康課題に対するアプローチ

・個人情報の保護 など

事業所全体の視点

・オフィスの環境改善

・労働制度の見直し など

具体的な健康に関する課題には、個別での対応が効果的です。しかし同時に、従業員全体の健康課題を広く解決するため、企業単位の取り組みも必要です。

個人・全体の双方の視点から、総合的にアプローチすることが重要です。

 

従業員が参加できる仕組みを作る

THPに限らず、組織改革を推進する際の失敗要因のひとつに「企業から従業員への一方的なアプローチ」があります。

継続して施策に取り組んでもらうには企業側から呼びかけるだけでなく、従業員一人ひとりの自主性を引き出すことが大切です。

従業員の意識を高める工夫の例は、次のとおりです。

  • 従業員に企画メンバーとして参画してもらう
  • 取り組みをシェアできる社内SNSを活用する

従業員が主体となって取り組めるよう、従業員側から健康に関する情報を発信してもらいましょう。

また健康を保持増進するためには健康に関する正しい知識を入手し、活用するヘルスリテラシーが重要です。

健康に関するセミナーをおこなったり、健康に関する情報を企業側から提供したりして、ヘルスリテラシーを高めてください。

 

高齢化を見据えた取り組みを行う

定年延長や再雇用の機会の増加で高齢の労働者が増えている現在、加齢に伴う筋力低下や疾病リスクへの対応が必要です。

筋力や視力の低下への対応が遅れると労働災害に発展するリスクがあるため、十分な配慮が必要です

具体的な対策として、中央労働災害防止協会の「エイジアクション100」では、以下のような取り組みを紹介しています。

  • 通路に十分な幅を確保し、足元の電気配線やケーブルをまとめて転倒事故を防止する
  • 同一の姿勢で長時間にわたり作業をさせない
  • 運転適性検査や睡眠時無呼吸症候群の検査を定期的に行う

出典:中央労働災害防止協会「エイジアクション100」

また高齢期における健康状態の悪化を防ぐため、ミドル層から健康習慣を形成する「予防」の視点も大切です。

 

THPの推進手順

実際にTHPに取り組む際には、THP指針(事業場における労働者の健康保持増進のための指針)を参考にしてください。

最初から完璧な取り組みを目指すのではなく、トライアンドエラーを繰り返す前提で始めることが大切です。

出典:厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」

 

①健康保持増進方針の表明

THPを全社で推進するために、まず企業として従業員の健康保持・増進を積極的に支援することを表明します。

会社が一方的に提供する取り組みと誤認されないよう、労働者の積極的な協力や参画のもとで実施することを明言してください。

プレスリリースで公に取り組みを発信することで、取り組みに対するモチベーションアップも期待できます。

 

②推進体制の確立

衛生管理者や衛生推進者から健康保持増進計画の総括的推進者を選任し、健康保持推進委員会を組織します。取り組みを実行する運営メンバーも決定してください。

経営層や人事部だけでなく一般の従業員からも公募することで、自律性や一体感が醸成できます

産業医などの産業保健職も巻き込み、事業場の現状に合った対応ができる体制を築きます。

メンバーの育成には、中央労働災害防止協会が実施している「心とからだの健康づくり指導者」研修を活用するのも有効です。

「心とからだの健康づくり指導者」では希望する従業員や経営陣が研修を受けることで、研修内容に合わせた名称を名乗れるようになります。

研修の種類

THPスタッフの名称

運動指導専門研修

ヘルスケア・トレーナー

心理相談専門研修

心理相談員

事業所の課題に合わせて必要な知識を身に着けられるほか、THPスタッフとしての名称をもつことで取り組みに対する意欲や責任感が高まると期待できます。

出典:中央労働災害防止協会「働く人の健康づくり THP」

 

③課題の把握

具体的な施策を講じる前に、従業員の心身の健康に関する現状の課題を客観的に把握します。

現場の肌感覚だけに頼らず、可能な限り現状を数値化することが大切です。現場の課題を把握するため、測定すべき数値の例は次のとおりです。

身体面

・健康診断結果(BMI、血圧、血糖値など)

・中央労働災害防止協会「運動機能検査値の新5段階評価」(握力、座位体前屈、最大酸素摂取量など)

メンタル面

・ストレスチェックの結果(仕事上でのストレス原因、ストレスによる心身の反応など)

データから健康増進の課題について仮説を立て、改善目標を検討します。

出典:中央労働災害防止協会『運動機能検査値の新5段階評価』

 

④健康保持増進目標の設定

定量的・定性的なデータから導き出された課題に対して、取り組み後の目標を設定します。

目標設定時のポイントは2つです。

  1. 目の前の課題解決だけでなく、中長期的な目指す姿を意識した目標設定にすること
  2. 過去に同様の取り組みをした実績がある場合は、その際の目標達成度や反省点を生かすこと

具体的な目標を立て実行後に効果測定をすることで、次回以降の取り組みに反映できます

 

⑤健康保持増進措置の決定

目標達成に向けて、必要な施策を具体的に検討します。

例えば、「従業員のメタボリックシンドローム有所見率を〇%減少させる」という目標を立てた場合を考えます。メタボリックシンドロームの原因は、「食生活」「運動習慣」「睡眠時間」「ストレス」などといわれています。原因に対して取り組む具体的なアクションを決定します。

【目標設定から実施内容検討する際の例】

目標

達成の構成要素

想定される取り組み

優先度

メタボリックシンドローム有所見率〇%減少

食生活の改善

食事補助

 

運動習慣の構築

運動イベント

十分な睡眠

残業時間の削減

ストレスの軽減

相談窓口の設置

 

すべてを一度に実施するのは現実的ではないため、優先課題から取り組んでください。

実施の際には、以下2つに留意することが大切です。

  1. 積極的に従業員の意見を反映させること
  2. 従業員が楽しみながら参加できる仕掛けを考えること

従業員の声を積極的に聞き、自発的な参加を促してください

 

⑥健康保持増進計画の作成

取り組みに関するスケジュールを作成し、従業員に公表します。仕事に支障が出ないよう業務との予定調整を促し、参加意欲を高めてください。

スケジュールを組む際には、以下3点への留意が必要です。

  1. 具体的な実施日や期間を明確にすること
  2. 各事業所ごとの労働安全衛生に関する計画と照合すること
  3. 従業員が参加しやすい日程にすること

スケジュールが決定すれば、あとは実行するのみです。

 

⑦健康保持増進計画の実施

健康保持計画の実施にあたっては、次の項目をチェックしてください。

  1. 個人情報の取り扱い方法は正しいか
  2. 従業員が楽しく参画できる仕掛けが作れているか

実施の様子を社内でシェアし、THPに対するモチベーションを上げると効果的です。

 

⑧実施結果の評価

取り組みを実施するだけでは、なかなか次につながりません。実践した取り組みに対し、客観的な評価をおこないましょう。

特に以下の観点は、取り組みへの効果を判断するうえで非常に大切です。

  1. 目標がどれだけ達成できているか
  2. 健康にポジティブな影響は出ているか
  3. 従業員の参加率や満足度は高いか

取り組みの評価・反省をもとに、次回以降の実施内容を検討します。

PDCA(Plan→ Do→ Check→ Act)のサイクルを回し、着実に従業員の健康保持・増進を推進しましょう

 

THP推進で活用できる事業場外資源

THP推進においては、社内リソースだけでなく国の公的機関など外部の専門家や便利なツールを活用する視点が大切です。

ここからは従業員の健康増進についての活動を支援する団体や、利用できるツールを具体的に紹介します。

 

中央労働災害防止協会

中央労働災害防止協会とは労働災害防止団体法に基づき、労働災害の絶滅を目的に活動する公益目的の法人です

労働者の健康に関する情報提供、健康づくりやメンタルヘルスケアの講師派遣などを行っています。

また中央労働災害防止協会ではセルフケア、健康づくり、ハラスメント等をテーマにしたオンライン研修も実施しています。

自社単独で研修を実施することが困難な企業や、産業保健のプロフェッショナルから助言をもらいたい企業は、ぜひ活用してください。

出典:中央労働災害防止協会「健康づくり・メンタルヘルスケア・快適職場づくり」

 

産業保健総合支援センター

産業保健総合支援センターは、厚生労働省が所管する独立行政法人です。通称は「さんぽセンター」であり、全国の都道府県に設置されています

産業保健総合支援センターがおこなっている支援は、次のとおりです。

  • 産業医や産業看護職、衛生管理者などの支援
  • メールマガジンなどによる情報提供
  • 図書や教材の閲覧も可能
  • 産業保健の専門家による窓口相談・研修

産業保健に関する最新の知識を得たい企業、専門家に取り組み内容の相談をしたい企業は、積極的に活用してください。

出典:労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」

 

各種健康ツール・アプリ

労働者の健康増進を目的とした便利なツールは多数あるため、自社の状況に適したものを導入しましょう。

「従業員の運動不足が気になる」「健康のため従業員には運動習慣をつけてほしい」と考えている企業におすすめなのは、KIWI GOです。

運動継続と従業員同士の交流を目的としたKIWI GOは、従業員が楽しみながら自発的に健康行動を起こし運動継続をサポートします。

KIWI GOのメリットを一部ご紹介します。

  • アプリインストールだけで簡単に始められる
  • 歩数でコインが貯まり「ごほうび」に交換できるため、ゲーム感覚で楽しみながら運動できる
  • チーム対抗のウォーキングイベントを開催できる
  • 同じ趣味を持った仲間同士で交流できる

KIWI GOは運動習慣を「やる気」「簡単さ」「きっかけ」の3点から支援する、効果的なツールです。ツール活用で、THPを加速させましょう。

 

まとめ:THP推進は生産性と企業価値を高める重要な取り組み

従業員の健康は、企業の発展に直結します。従業員の健康に対する配慮が欠ければ、生産性低下や離職率増賀につながるリスクもあります。

THPは単なる従業員向けの福利厚生ではなく、事業価値を最大化させる戦略のひとつです。

自社のリソースだけでなく公的機関や便利なツールなどを活用し、小さな取り組みから始めてください

THPの推進で大切なのは、社内一丸となった取り組みです。経営陣を含めた幅広い方が健康に向けた取り組みに参加し、お互いに意識を高め合いましょう。