2019年4月以降、政府は働き方改革を推進してきました。健康管理の取り組みもその一環であり、従業員の健康を管理することは今や企業が果たすべき義務といえます。

企業が自発的に健康管理を行うことで、従業員の安心・安全が確保されモチベーション向上、業績アップにも期待できます。

この記事では健康管理対策を正しく実施するための流れや、国などから受けられる補助金等の制度やサービスを解説します。

他の企業がすでに実施している成功事例10選も紹介するので、具体的にどのような健康管理対策をすべきかわからない方は、ぜひ参考にしてください。

 

健康管理対策は義務化されている

健康管理は企業が取り組むべきこととして、労働契約法第5条において法的に義務化されています。

しかし健康管理は法律的な側面だけでなく、近年よく聞かれる健康経営の一環としても優先的に取り組むべき重要な施策です。

従業員に満足して働いてもらうには、法令で最低限定められている健康管理だけでは不十分です。法令への対応はあくまでも健康管理対策のきっかけとし、企業それぞれが自発的に健康管理について考え取り組むことが、本来の目的としては重要なポイントだといえます。

 

企業でできる健康管理対策の流れ

企業でできる健康管理について、ここからは流れに沿って代表的な取り組みを紹介します。

 

1.対策の準備をする

十分な健康管理対策を実施するため、まずは担当委員を設置しましょう。

さまざまなバックグラウンドをもつ担当委員から意見を抽出することで、多くのニーズを反映した質の高い対策案が生まれます。意見を出し合う際には、ブレインストーミングの手法がおすすめです。

ブレインストーミングとは資金面などの実現可能性をいったん排除し、手当たり次第に意見を出し合う手法のことです。意見を出し切ったらそれぞれの案の必要性を判断し、取り組む価値のある施策に対しては予算を付けます。

 

2.優先度を付け基本的な対策を行う

次に、抽出した健康管理対策に対して優先度をつけます。次のとおり法的に定められている取り組みについては、早急に実施しましょう。

  • 定期健康診断
  • 特殊健康診断
  • ストレスチェック
  • 産業医の設置
  • 相談窓口の設置

たとえば、年に1回の定期健康診断は企業が法律的に定めている健康管理の一つです。

出典:労働安全衛生法

定期健康診断を行っていない場合は法律で定められた基準を満たしていないこととなり、罰則が科される可能性があります。

また人命や傷病に関わる作業があれば、安全対策の観点からの健康管理も最優先です。

怪我や事故を起こしやすい労働環境では、従業員が健康的に働けるとはいえません。

扱う機械装置や通路の安全性確保といった視点での、徹底した安全対策が必要です。

  • 転倒・転落災害防止対策
  • 回転機械装置へのはさまれ・巻き込まれ防止対策
  • 現場の整理・整頓の徹底
  • 騒音対策
  • 腰痛防止対策
  • 指差呼称の徹底

転倒災害に対する安全対策の事例としては、階段で手すりを持つようアナウンスを流す、階段の踏み面に滑り止め用の塗装を施すなどの対策が挙げられます。

厚生労働省より「製造業における労働災害防止対策好事例集」が展開されているため、より詳細な事例が知りたい方は参考にしてください。

 

3.一般的な疾病の予防をする

法律で定められている健康管理対策を実施した後は、従業員の疾病予防にフォーカスした追加の取り組みが必要です。

疾病による休業のリスクを減らせば、従業員と企業の双方にプラスの効果がもたらされます。長期的な視点で積極的に健康管理対策を推進しましょう。

以下では、疾病予防につながる方法を紹介します。

 

健康リスクの高い従業員を抽出する

定期健康診断は健康管理の基本的な対策ですが、「法令遵守のためとりあえず健康診断を実施すればよい」という意識では、制度が形骸化してしまいます。

健康診断で高リスクと判定された従業員に対して産業保健スタッフによるカウンセリングを行うなど、徹底的な健康指導を行いましょう。

ほかにも、次のような施策が有効です。

  • 健康意識を高めるためのセミナー実施
  • 運動や健康的な食事に関するアドバイス

従業員の健康管理に対する心理的ハードルを下げる工夫としては、バランスボールやサプリメントの購入を補助するといった福利厚生の充実化も挙げられます。

また6か月間で時間外労働時間の平均時間が月80時間を超える従業員は、動脈硬化や脳・心臓疾患のリスクが高いと知られています。長時間労働が慢性化していないかチェックし、必要に応じて注意喚起を行いましょう。

出典:独立行政法人労働者健康福祉機構 三重産業保健推進センター 長時間労働が労働者の健診等データに与える影響に関する調査研究

 

健康的な食事を提供する

栄養バランスの取れた食事を提供することで、従業員の健康を維持することにつながります。

ブリガムヤング大学などの研究によると、健康的な食生活を送っている従業員は仕事のパフォーマンスが 25%アップするとわかりました。

また、週に4日以上、計5食分以上の頻度で野菜と果物を食事に取り入れた従業員は仕事の生産性が20%向上し、欠勤の頻度が少なくなる傾向も確認されました。

出典:Study of 20,000 Workers Shows Different Factors Drive Absenteeism and Job Performance

 

健康的な食事を提供できる食堂があれば、高カロリーな食事を取る従業員は減少します。

社員食堂の導入が難しい場合、栄養バランスを考慮したメニューを提供する弁当宅配サービスの利用がおすすめです。栄養バランスの整った食事を提供することで、午後の仕事のパフォーマンスも好調になります。食の観点から従業員の健康を支える取り組みは、非常に重要です。

 

健康管理のセミナーを開催する

健康管理を実現するため、従業員へのマインド教育も重要です。社内で健康に関する教育を行うのが難しい場合、外部から講師を招きましょう。

健康管理のセミナーや勉強会を開催することで、従業員の健康意識が高まります。

ただし従業員のマインドを変えるためには、経営者や管理職の意識変革が必要です。健康管理を当たり前の文化にするため、経営側から率先してメッセージを発信しましょう

 

体を動かすイベントを企画する

日常的に体をよく動かしている人は、身体面と精神面の両方においてよい健康効果を示すと知られています。

厚生労働省の発表によると、身体活動量が多い方の総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率は低いです。

また、運動をすることでメンタル面の不調が改善され、生活の質も向上するとされています。

出典:厚生労働省 身体活動・運動

糖尿病やがんなどの疾病リスクが低下すれば、従業員がより長く健康的に働けます。

企業でできる取り組みとして、運動会など体を動かせるイベントを開催するのがおすすめです。

 

健康管理対策に役立つ制度・サービス

健康管理対策を実施する際にはコストがかかります。魅力的なアイデアが抽出できても、健康管理のノウハウや実行のための資金が不足しており悩んでいる企業は少なくないでしょう。

以下では、資金面のサポートやノウハウ指導など、健康管理に役立つ制度・サービスを紹介するため、ぜひ参考にしてください。

 

受動喫煙防止対策助成金

受動喫煙対策は国からも推進されており、喫煙室の設置を行う中小企業に対しては国から助成金が与えられます。ただし、助成金を利用しても無料で喫煙室を設置することはできません。支援が受けられるのは、喫煙室設置にかかる費用の一部です。

喫煙室の設置などに係る経費のうち、工費、設備費、備品費、機械装置費などの3分の2(主たる業種の産業分類が飲食店以外は2分の1)

上限100万円

出典:厚生労働省 受動喫煙防止対策助成金

費用の一部を負担する必要があるとはいえ、喫煙室導入にかかる金銭的負担を減らせるのは大きなメリットです申請は年単位で受け付けているので、厚生労働省 受動喫煙防止対策助成金の案内を確認しましょう。

 

産業保健総合支援センター(さんぽセンター)

産業医や人事労務担当者などに対してメンタルヘルス対策等の相談や情報提供を無料で実施している機関が、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)です。

基本的なアドバイスだけでなく、直接事業場を訪問したうえで助言や指導を受けられます。

さんぽセンターは各都道府県に設置されているため、利用しやすいのもメリットです。優先して行うべき対策がわからない場合は、積極的に相談・活用しましょう。

出典:厚生労働省 産業保健総合支援センター

 

働き方改革推進支援助成金

残業時間の削減や年次有給休暇の取得は国が推進しているため、働き方改革に取り組む中小企業に対しては働き方改革推進支援助成金が支給されます。

以下の成果目標から1つを選択して達成に努めることで、その達成状況に応じた助成額を受け取れます。

  1. 全ての対象事業場において、対象年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
  2. 全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
  3. 全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
  4. 全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること

上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。

出典:厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)

成果目標の設定が達成に向けたモチベーション維持にもつながるので、ぜひ積極的に活用しましょう。

 

中小企業労働環境向上助成金

従業員の労働環境向上を目的とし評価・処遇制度、研修体系制度、健康づくり制度を導入する中小企業に対しては、中小企業労働環境向上助成金が支給されます。

また介護関連においては、身体的負担を軽減する介護福祉機器の導入もサポート対象です。支給される助成金は以下のとおりです。

  • 制度の導入:導入制度に応じて30万円または40万円
  • 介護福祉機器の導入:導入費用の1/2(上限300万円)

出典:厚生労働省 中小企業労働環境向上助成金

安全面や処遇面も含めた健康管理を行う上でも、中小企業労働環境向上助成金は非常に役立ちます。

 

働き方・休み方改善コンサルタント

働き方や休み方の改善に取り組むすべての企業は、コンサルタントによる相談サポートや情報提供を無料で受けられます。

出典:厚生労働省 働き方・休み方改善コンサルタント

長時間労働の削減や適切な休暇制度の充実化に関する内容を中心に、質の高いアドバイスがもらえるため施策の内容に悩んでいる企業は利用してください。

コンサルタントに相談した内容が、外部に漏れることはありません。

 

企業による健康管理の取り組み事例10選

ここからは実際に行われている健康管理の対策事例10選を紹介するので、自社に取り入れられそうな施策はぜひ役立ててください。

 

食生活の改善を徹底|ナガオ株式会社

ナガオ株式会社では従業員の健康寿命を伸ばしたいという想いのもと、血圧や体重から健康管理に関する個別アドバイスが取得できるセルフチェックシステムを導入しています。

従業員の9割以上がこのシステムを2か月に1度以上活用しており、社内に深く浸透しているといえます。

さらに運動面での健康管理施策として、リレーマラソンやソフトボール大会への出場にも積極的です。

従業員が参加しやすいように、大会の参加費やユニフォーム代は会社が全額負担しています。

これらの取り組みによって離職率が10年間でわずか0.5%となり、従業員から感謝の声も挙がっています。

出典:ナガオ株式会社

出典:経済産業省 健康経営優良法人取り組み事例集

 

歯科検診の費用を補助|株式会社弘

株式会社弘では飲食業を展開していることから、従業員の生活リズムが崩れやすく不健康になりがちという課題がありました。

そこで、健康管理の一環として歯科検診の費用を会社が補助し、後回しにしがちな歯のトラブル解消を促す制度を導入しました。

また、心拍の推移やストレスレベル、血管の健康状態を手軽に把握できるスマートパルスを導入しています。

スマートパルスの導入により健康リスクを未然に回避するだけでなく、従業員一人ひとりに主体的に健康に取り組む姿勢が生まれたといえます

出典:株式会社弘

出典:経済産業省 健康経営優良法人取り組み事例集

 

水曜日は禁煙デー|日本水産株式会社

日本水産株式会社は禁煙に力を入れており、経営トップが自ら禁煙宣言を行っているのが特徴です。

実際に毎週水曜に禁煙デーを設けることで、2016年度から2020年度までに喫煙率を5.2%低下させました。

また日本水産株式会社は水産関連の事業を経営していることから、検診前の時期には魚を食べて健康づくりにつなげる「おさかな推進」を実施しています。

さらに筋トレやストレッチ、感染予防を取り入れたキャンペーンを行うなど、多方面にわたって徹底した健康管理対策に取り組んでいます。

出典:日本水産株式会社

出典:経済産業省 日本取引所グループ 選定企業紹介レポート

 

健康管理アプリの開発|勤次郎株式会社

勤次郎株式会社における特徴的な施策は、健康管理アプリの開発です。

アプリでは健康の指標として、歩数、禁煙、減酒などのアクションに応じて健康ポイントがたまる仕組みを取り入れています。

また、健康ポイントが高かった従業員には表彰を行いモチベーション向上を図っています。

結果として従業員の健康意識が高まり、2016年度から2019年度で従業員一人あたりの医療費は約17%減少しました

出典:勤次郎株式会社

出典:経済産業省 日本取引所グループ 選定企業紹介レポート

 

有給休暇取得率100%|株式会社佐野テック

株式会社佐野テックでは健康管理の取り組みとして、有給休暇を取得しやすい環境を作っています。

まず管理職が率先して有給休暇を取得することで部下も休暇を取りやすくなり、良好な労働環境が築かれました。

そして従業員が有給休暇を取得する理由は不問とし、特別な事情がない限り有給休暇消化率は100%を達成するよう管理しています。

また個人の名札に健康目標を記載することで、健康管理への意識付けを図る取り組みも実施してきました。

終業後に事業所内の会議室でフィットネスに参加できる制度も用意したことで、従業員の健康意識は高まったといえます。

出典:株式会社佐野テック

出典:全国健康保険協会 三重支部 中小企業の健康経営事例集

 

選択式のチャレンジ企画で自発性アップ|辻木材株式会社

辻木材株式会社では、従業員自ら健康づくりのアクションを選択し、達成に向けて1年間継続に努める企画「健康宣言!! チャレンジ みんなdeスマイル」を実施しています。

選べるアクションの例は、次のとおりです。

  • 週2回以上は徒歩または自転車で通勤する「ノーCarデー」
  • 週2回以上は主食以外の間食を行わない「べつ腹封印」

従業員が主体的に健康宣言する仕組みを取り入れることで、「一度決めたことは最後までやり通さなければ」という心理が働きます。

このチャレンジ企画により、健康診断の数値に改善がみられ、朝から体を動かすことで日中の仕事効率アップにもつながりました。

出典:辻木材株式会社

出典:全国健康保険協会 三重支部 中小企業の健康経営事例集

 

従業員の家族も健康に|喜多機械産業株式会社

喜多機械産業株式会社では、従業員の家族にも健康な環境を提供するため、社内にトレーニングマシンを設置し、従業員とその家族に無料開放しています。

毎月1回、プロのトレーナーによる指導が受けられるのも従業員や家族から評価される理由の1つです。

また、健康に関するセミナーを実施する、栄養補助食品を安価で購入できる制度を用意するなど、食事と運動の両面から健康管理にアプローチしています。

そして従業員に関しては部門ごとに労働時間を見える化し、残業時間削減に対する意識向上を図っています。

結果として、従業員同士が率先して残業時間や仕事の進み具合などに気を配れる雰囲気が生まれました。

出典:喜多機械産業株式会社

出典:徳島県 職場で取り組む健康づくり取組事例集vol.8

 

人間ドックの受診を支援|大鵬薬品工業株式会社

大鵬薬品工業株式会社では、30歳以上の従業員に対し人間ドックを無料(上限6万円)で受けられる制度を導入しています。

また人間ドックの受診にかかる時間のうち半日までを就業時間とみなすことで、積極的に受けやすい工夫をしています。

そのほか、2023年までに喫煙率ゼロを目指す宣言をしたり、運動会イベントの実施や運動支援アプリの導入をしたりするなど、施策の幅も豊富です。

さらに管理職から健康に関する理解を深めるため、産業医によるメンタルヘルス講義を開催するだけでなく、ポスト管理職に対してメンタル関連資格試験を義務付けています。

出典:大鵬薬品工業株式会社

出典:徳島県 職場で取り組む健康づくり取組事例集vol.8

 

女性の健康に関するセミナー実施|株式会社NTTドコモ

株式会社NTTドコモでは、女性の健康管理に着目し「女性のライフステージと健康セミナー」を開催しました。

セミナーは女性従業員だけでなく、その上司(男性含む)も対象とすることで、男性上司にとって理解しにくい女性の健康課題について知る機会を提供してきました。

参加者からは「参考になる情報が数多くあった」というコメントが多数寄せられ、女性従業員が働きやすい環境づくりに役立てられています。

出典:株式会社NTTドコモ

出典:経済産業省 健康経営における女性の健康の取り組みについて

 

女性の健康に関する相談窓口を設置|花王株式会社

花王株式会社では、メールを通じて産業医に気軽に相談できる「女性の健康に関する相談窓口」を設置しています。

同僚や上司から女性の健康課題に対する理解が得られたとしても、デリケートな内容であれば直接相談するのは難しいです。

メールでも女性の健康問題について相談できる環境を作れば、健康診断やストレスチェックでは見つからない小さな不調の早期発見につながります。

出典:花王株式会社

出典:経済産業省 健康経営における女性の健康の取り組みについて

 

まとめ:健康的に働くには健康管理への対策が必須

法令遵守を目的とした健康管理だけでなく、従業員ファーストの精神を持ち、より質の高い健康管理対策に取り組むことは重要です。

とくに食事や運動に関する取り組みは、従業員が長期的に高いパフォーマンスを発揮するためには必須といえます。

運動習慣化アプリKIWI GOにはゲーム感覚で楽しく運動を継続できる機能が多数搭載されており、運動が面倒と感じる従業員も取り組みやすいです

KIWI GOで利用できる機能は、次のとおりです。

  • ウォーキングの実施状況を記録できる
  • コインを貯めることでごほうびと交換できる
  • 従業員同士でイベントを開催できる

従業員に楽しく運動を続けてもらうため、ぜひKIWI GOを取り入れてみてはいかがでしょうか。