近年、従業員の健康保持・増進を企業の経営課題として捉える、「健康経営」が注目されています。

従業員の健康は労働生産性の向上や業績アップに直結するため、投資として健康支援に取り組む企業が増えていいます

さらに現代では女性特有の健康課題について着目し、対策する事例も増加しています。

幅広い従業員に長く働いてもらうために、女性向けの健康支援は必須です。

本記事ではなぜ女性の健康経営が注目を集めているのか、女性特有の健康問題に取り組むメリットや具体的な対策を紹介します。

女性の健康に対するリテラシーを向上させ、自社の経営に反映させてください。

 

健康経営の主要テーマの1つは「女性の健康支援」

健康経営を推進する企業の認定として、経済産業省の「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」があります。上記制度への申請では、現在女性の健康課題への取り組みについて具体的に問われるようになっています。

これは健康経営の推進において、女性特有の健康課題への対策が重要視されていることを意味します。

健康経営を実践する企業にとって、女性の健康支援は主要テーマの1つといえます

参考:経済産業省 令和3年度 健康経営度調査

 

女性の健康支援に注目が集まる背景

女性の健康経営が注目されるようになった背景には、労働人口などの社会的な変化や、働く女性側の変化があります。

企業を取り巻く環境の変化や女性特有の健康課題などから、女性の健康支援に注目が集まる理由を解説します。

 

女性労働者が増えているため

令和元年における女性の労働力人口は、約 3,058万人です。

前年に比べ約44万人増え、増加の一途をたどっています。

女性労働者の占める割合は全体の 44.4%にのぼり、職場の約半数が女性になっている状況です

出典:厚生労働省 Ⅲ 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月)

少子高齢化によって労働力人口の減少が見込まれる中、女性労働者の活躍は企業における重要課題です。

今後も企業が持続的に成長するためには、女性労働者の健康保持・増進に関する支援が必須です。

 

月経に伴う不調による損失額が大きいため

経済産業省によると、月経に伴う症状や不調による経済的損失額は年間で4,911億円と試算されています。

参考:経済産業省ヘルスケア産業課 健康経営における女性の健康の取り組みについて

またPMS(月経前症候群)や月経に伴う心身の変化によって、仕事のパフォーマンスが半分以下になると回答した人は、約半数にのぼるとの調査もあります。

出典:日本医療政策機構 働く女性の健康増進調査 2018

調査から、月経やその前後の症状が、女性労働者の生産性を大きく低下させているといえます

参考:日本医療政策機構 働く女性の健康増進調査 2018

労働者の約半数を占める女性の健康課題を解消することは、企業の業績向上に直結します。

そのため女性従業員の総数が増えるにつれ、企業における女性支援の必要性が高まっているといえます。

 

不妊治療支援の必要性が高まっているため

厚生労働省の発表によると、2015年の段階で不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%にのぼり、年々増加しています。

出典:厚生労働省 不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック

このような背景を受け、令和4年4月からは、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」が保険適用となりました。

また夫婦の平均初婚年数は令和2年で夫31歳、妻29.4歳で、平成7年と比べるとそれぞれ2~3歳程度遅くなっていることから、今後も不妊治療を受ける方が増えると予想されます。

参考:厚生労働省 令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 

 

不妊治療と仕事を両立させるには、企業による理解と支援が必要です。

不妊治療では長期で頻繁な通院が必要であり、精神面でも大きな負担です。

治療を続けることで、仕事へ影響が出る可能性があります。

実際に不妊治療をした労働者に対する調査では、不妊治療と仕事の両立ができなかった(または両立できない)と回答した人は全体の35%、そのうち仕事を辞めた人が16%でした。

出典:厚生労働省 不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル

不妊治療により労働生産性が低下したり、離職せざるを得ない人が増えると、企業にとっても損失です。

今後も不妊治療を受ける女性従業員は増えると予想されることから、治療と仕事を両立できる環境整備が必要です。

 

企業が女性の健康を支援するメリット

健康経営を推進する際は従業員全体に対する画一的な健康施策だけでなく、女性固有の課題に配慮した取り組みが必要です。

積極的な女性の健康課題への取り組みが、企業にもたらす具体的なメリットを3つご紹介します

参考:一般社団法人 女性の健康とメノポーズ協会 女性の健康とメノポーズ協会が考える女性の健康経営®「女性の健康経営に取り組むメリット」より

 

女性従業員がより健康に働ける

生活習慣の見直しや女性特有の疾患に関する検診を推進することで、疾患予防や早期治療につながります。結果として、女性従業員の欠勤や休職による損失(=アブセンティーズム)を減らすことができます。

また、出勤しているものの体調不調によって生産性が低い状態(=プレゼンティーズム)への対策としても有効です。

同様に、女性自身が健康に関する情報を得て活用する力(=ヘルスリテラシー)を高めることも重要です。

日本医療政策機構の調査では、ヘルスリテラシーの高い女性ほど、仕事におけるパフォーマンスが高く、PMSなどによるパフォーマンスの低下率が低いと明らかになりました。

出典:日本医療政策機構 働く女性の健康増進調査 2018P10

 

女性の健康課題に対する対策や、ヘルスリテラシーを向上させる取り組みを推進すれば、女性従業員が生き生きと、労働生産性を高めて働くことにつながります。

参考:日本医療政策機構 働く女性の健康増進調査 2018

 

女性従業員に長く勤務してもらえる

大正製薬株式会社の調査によると、PMSが影響して仕事を辞めたことがある女性が17%、辞めようと思ったことがある人が41%にのぼることがわかりました。

また更年期の症状が影響して仕事を辞めたことがある人は全体の6%、辞めようと思ったことがある人は45%と約半数を占めます。

出典:一般財団法人 女性労働協会 女性の健康推進プロジェクト 女性自身と企業に知って欲しい 昇進辞退、そして退職も…「PMS・更年期症状」が仕事に及ぼす影響とは?

 

PMSや更年期障害などの症状は人それぞれですが、日常生活を送ることに困難を感じる女性は多いです。

また女性特有の課題であることから、男性の上司や同僚に相談しづらく、一人で抱え込んでしまう方もいます。結果的に勤務の継続は難しいと判断し、退職を考える女性が多いといえます。

本人の体調に合わせた柔軟な働き方が可能になれば、退職をせずとも、心身に負荷をかけすぎずに働き続けることができます。企業による適切なサポートによって、女性従業員の退職者を減らせる可能性が高まります。

 

女性の求職者から選ばれる企業になる

従業員の健康保持・増進は、ESG投資におけるSocial(社会)の要素にあたります。

参考:野村アセットマネジメント ESGとは|簡単解説

 

積極的に取り組むことで、投資先企業として高い評価を得られます。

また女性活躍を推進する優良企業認定(えるぼし・プラチナえるぼし)を受ければ、対外的なアピール効果も高まります。

参考:厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)

 

一般の消費者に対する企業イメージがアップし、業績向上への効果が期待できます。

そして女性が働きやすい企業として求職者にアピールできるため、優秀な人材確保にも有効です。

 

女性ならではの健康課題と必要な対策

女性と男性では、かかりやすい疾患の種類や発症しやすい時期が異なります。

例えば、女性特有の婦人科系基礎疾患として、子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がん、月経前症候群、更年期障害などがあります。

男性にない女性特有の疾患や不調について正しく理解し、適切な対応を講じることが大切です。

働く女性が抱えやすい具体的な健康課題を、5つご紹介します。

参考:一般財団法人 女性労働協会 働く女性の健康応援サイト なぜ女性の健康支援が必要なのか

「女性特有の健康課題」より

 

1.月経に関連する不調

PMS(月経前症候群)や月経に伴う心身の変化は、女性ならではの健康課題のひとつです。

具体的な症状は人により異なりますが、強い腹痛や頭痛によって仕事を休まざるを得ない場合もあります。

また睡眠障害によって寝不足になったり、集中力が低下したりして、業務効率が上がらないこともあります。PMS等の症状については、生理休暇を取得して療養し、回復後の万全な状態で勤務に臨める制度整備が必要です。

同時に、生理休暇を取得しやすい環境づくりにも注力してください。

厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」によると、生理休暇を申請した女性従業員の割合は、0.9%と1割未満です。

参考:厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~

制度を整えるだけではなく、実際に従業員が利用できる風土や仕組み作りも検討してください。

 

2.妊娠に関連する症状

妊娠期には、つわりや貧血など特有の体調不良があります。

また腹部が大きくなるにつれて、子宮が胃腸を圧迫して食欲不振を引き起こしたり、腰に負担がかかって腰痛を発症したりする方もいます。

企業としては、妊娠をきっかけに以前と同様の働き方ができなくなる女性労働者がいることを理解し、配慮することが必要です。母体を保護しつつ、本人の体調に合わせて無理なく働けるような仕組みを構築してください。

例えば妊娠した従業員や上司などに対して、「母性健康管理指導事項連絡カード」の知識を身に着けてもらうと有効です。

主治医より通勤緩和などの措置が必要と指示された場合「母性健康管理指導事項連絡カード」を活用することで、企業側に必要な措置を的確に伝えることができます。

参考:一般財団法人 女性労働協会 妊娠・出産をサポートする女性に優しい職場づくりナビ 母健連絡カード

 

母性健康管理指導事項連絡カードを提出された企業は、記載内容に沿って在宅勤務や時短勤務の許可など、対策を講じます。

主治医や産業医などと連携し、個人の状態を正確に把握したうえで柔軟に対応してください。

 

3.更年期障害

更年期とは、閉経前後の5年ずつを合計した10年間を指します。

この時期に女性ホルモンが減少することで、さまざまな体調不良を引き起こします。

更年期障害の症状は、頭痛やめまい、うつ、動悸や息切れ、吐き気、関節痛などさまざまです。

PMSやつわりなどと同様、更年期障害は人によって症状が異なるため、個別の対応が必要です。

まずは女性従業員や管理職等に、更年期障害への正しい知識を身に着けてもらえる施策を実施します。

同時に、通院時間の確保や症状に合わせた柔軟な勤務形態の実現、相談窓口の設置なども検討してください。

更年期障害に関する正しい知識を企業・従業員の双方が身に着け、快適に仕事を続けられる環境づくりが大切です。

参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 更年期障害

 

4.女性特有のがん

20代後半から50代前半までの働き盛り世代において、女性のがん罹患率は男性を上回っています。

出典:一般財団法人 女性労働協会 働く女性の健康応援サイト がんの早期発見とがん治療との両立

女性に最も多いがんは乳がんで、9人に1人は生涯で乳がんに罹患するといわれています。

乳がんのほかにも、子宮がんや卵巣がんなど、女性特有のがんは複数あり、男性とは異なるリスクを抱えているといえます。

参考:一般財団法人 女性労働協会 働く女性の健康応援サイト がんの早期発見とがん治療との両立

 

企業にできる対策として、がん検診の費用補助を検討してください。

会社の補助によって検診の受診者が増えれば、早期にがんを発見し、治療につなげることができます。

また、がんと診断された女性が働き続けられるようなサポートも大切です。

具体的には、時短勤務や在宅勤務、両立支援のための相談窓口の設置などを検討してください

 

5.メンタル不調

女性はすべての年代において男性よりもうつの患者数が多く、40代での患者数は男性の約1.3倍にのぼります。

出典:一般財団法人 女性労働協会 働く女性の健康応援サイト 女性は男性よりうつになりやすい?女性特有のうつ

また女性ホルモンの影響による月経前不快気分障害(PMDD)や、出産前後のマタニティブルー、産後うつなど、女性特有のうつ症状があるのも特徴です。

女性のうつ症状への対策としては、ストレスの少ない環境の整備が大切です

仕事と家庭の両立に悩む女性の相談窓口を作る、男性上司に対してマネジメントの研修を実施するなど、働く女性の精神面をサポートする取り組みを検討してください。

参考:一般財団法人 女性労働協会 働く女性の健康応援サイト 女性は男性よりうつになりやすい?女性特有のうつ

 

6.不妊治療

不妊治療には、通院の回数や頻度の多さ、精神的な負荷、多額な費用など、さまざまな課題があります。従業員が仕事と不妊治療を両立できるよう、企業側の理解と配慮が必要です。

具体的な対策として、通院で利用できる年次有給休暇の時間単位取得や、テレワークやフレックスタイム制度の導入が考えられます。

制度の導入に際しては、国の助成金制度の活用も検討してください。

厚生労働省では、不妊治療のために利用できる休暇制度や両立支援制度を導入する企業に対し、「両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)」を支給しています。

参考:厚生労働省 不妊治療と仕事との両立のために

 

最大で合計57万円が支給されるため、制度整備の費用に充当することができます。

多くの女性従業員が、希望するキャリアや人生プランを実現でき、企業で生き生きと働き続けられるよう、対策を検討してください。

 

まとめ:女性の健康支援は健康経営の重要テーマとして推進することが大切

労働者の約半数を女性が占めている現在、企業には女性の健康課題に対する積極的な取り組みが必要です。取り組みを推進することで、女性が健康に働けるようになり生き生きとした職場が生まれます

また従業員の愛社精神や帰属意識が高まり、企業価値も向上します。

一方で女性の健康課題に配慮しない場合、業務効率の低下や離職を生み、最終的には投資家や求職者からの支持を失う危険性もあります。

女性活躍が推進される今、企業を長期的に成長させるためには、女性特有の健康課題に対する積極的なサポートが必須です。なお女性のがんの危険因子のひとつに、運動不足があります。

また女性の更年期障害の予防や緩和には、適度な運動が大切といわれています。

女性の健康のため、福利厚生アプリ「KIWI GO」を活用し運動習慣の形成に役立てましょう。

KIWI GOは、インストールするだけで従業員が手軽に利用できる運動サポートアプリです。

従業員同士で交流を深めつつ、ゲーム感覚で運動を続けられる工夫が多く盛り込まれています。

女性従業員の運動習慣作りのサポートに、KIWI GOをぜひご活用ください。

参考:全国健康保険協会「【女性のがん】 近年、若い女性に急増している「乳がん」と「子宮がん」

参考:公益財団法人長寿科学振興財団 更年期の運動の効果