働き方改革の推進や新型コロナウイルスの影響により、企業の経営課題として従業員の健康保持、増進に取り組む「健康経営」が注目を集めています。

株式会社タニタや味の素株式会社など大手企業の取り組みが話題になりやすい健康経営ですが、中小企業にとっても健康経営は非常に重要です。

「規模の小さい会社では、健康経営で得られるメリットも小さいのでは?」
「そもそも使えるお金が少ないから、健康経営にかけられる十分な予算がない」

上記のように考えている中小企業の方は多いでしょう。

そこで本記事では中小企業における健康経営の重要性、取り組みが進まない原因と具体的な対策をご紹介します。中小企業で健康経営を推進するために必要な情報をまとめたので、ぜひ参考にしてください。

 

中小企業にこそ健康経営が必要な理由

従業員の健康維持促進を経営的な視点で考え、実践する健康経営は、中小企業にとっても重要です。ここからは中小企業こそが健康経営に取り組むべき理由について、3点解説します。

 

労働力人口の減少により人材確保が難しいため

日本商工会議所が発表した「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況」によると、「人手が不足している」と回答した企業の割合は64.9%であり、前年調査と比べて15.0ポイント上昇しています。

出典:日本・東京商工会議所「「人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況に関する調査」 調査結果」

調査より、過半数の中小企業が人材不足を実感しているとわかります。人手不足が顕著ないま、在籍している従業員に健康で長く働いてもらうためには健康経営が重要です。

また健康経営に取り組み、PRすれば新たな人材の獲得にもつながります。

既存の従業員の活躍と新規従業員の採用の両面で、健康経営は人手不足解消の手がかりといえます。

 

離職・休職などによるダメージが大きいため

従業員数の少ない中小企業では、一人が担う業務や役割の範囲が広くなりがちです。

そのため健康被害により従業員が離職・休職すれば、影響は非常に大きなものとなるでしょう。従業員の健康を促進し離職や休職を減らすのは、事業を継続するために必須の取り組みです。

また健康課題により生産性が落ちる「プレゼンティーズム」の状態を避けることも大切です。

東京大学の古井氏によると、100人の中小企業における体調不良などによる損失は1億円規模にのぼるとされます。

参考:東洋経済オンライン「なぜ中小企業にこそ「健康経営」が必要なのか」

従業員が心身ともに生き生きと働ける環境を作れば、労働生産性の低下を防げます。

 

投資や融資などの観点で優遇されるため

ESG投資の推進により、従業員の健康に関する取り組みを行う企業が高く評価されるようになりました。

ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)・Governance(企業統制)に配慮している企業に対して、積極的に投資をすることです。

健康経営は、Socialを構成する従業員の健康と安全、労働環境の改善や柔軟な働き方に直結するため、ESG投資と大きく関連しています。

優良な投資先として機関投資家に選ばれるためには、従業員などの人的資本に対する戦略的な投資が必須でしょう

また健康経営に取り組む企業は、融資や保険料において優遇される場合もあります。例えば、日本政策投資銀行では、「健康経営格付け」制度を設け、ランクに応じた金利の優遇措置を行っています。

参考:J-Net21「経営課題を解決する羅針盤」

さらに、三井住友海上あいおい生命保険株式会社では、健康経営優良法人認定を受けることで保険料が割引される制度を導入しています。

参考:三井住友海上あいおい生命保険株式会社「~無配当総合福祉団体定期保険をさらにパワーアップ~「健康経営保険料率」が新たに適用可能となります」

魅力ある企業として投資家や銀行などに選ばれるために、健康経営は必須の取り組みといえます。

 

あわせて読みたい:健康経営のメリット・デメリットは?取り組みの手順やポイントを解説

 

中小企業が抱える健康経営推進の課題

健康経営は中小企業にとって重要な経営課題であるにもかかわらず、実施に踏み切れない企業は多いです。そこでここからは、中小企業が抱える健康経営推進に対する課題を確認します。

 

経営課題として位置づけられていない

HR総研が人事責任者などに対して行ったアンケート調査では、従業員数1〜300名の企業のうち、健康経営について「名前だけは知っている」「これまで知らなかった」と答えた企業の合計は47%でした。

出典:HRpro「HR総研:「健康経営」に関するアンケート調査 結果報告」

アンケートからは、約半数の人事責任者が健康経営について正確に理解できていないとわかります。

また大同生命株式会社の調査では、健康経営の「意味や内容を知っている」「言葉だけは聞いたことがある」と回答した企業のうち、今後の健康経営について「取り組む予定はない」と答えた企業は32%にものぼりました。

出典:大同生命NEWS RELEASE「「健康経営」の認知度が向上、7割の企業で取組意向~中小企業経営者アンケート「大同生命サーベイ」2022年7月度調査レポートの公表~」

 

健康経営は中小企業にとっても重要なものですが、十分に経営課題として認識されているとはいえません。このような知識や認識の不足は、健康経営に積極的に取り組めない要因の1つです。

 

健康経営に関する指標やノウハウがない

東京商工会議所が従業員300名以下の企業に対して調査をしたところ、健康経営実施の課題として「どのようなことをしたらよい分からない」が45.5%、「ノウハウがない」が36.6%となりました。

出典:東京商工会議所 健康づくり・スポーツ振興委員会「健康経営に関する実態調査 調査結果」

健康経営に取り組みたい意向があっても、指標や実施手順などのノウハウが社内になく、課題に感じている中小企業は少なくありません

健康経営を実施している中小企業を参考として、外部のリソースを活用しつつ取り組むことが大切です。

 

健康経営を推進する人材が足りない

前出の東京商工会議所の調査によると、健康経営を実施するにあたっての課題として「社内の人員がいない」と答えた企業は26.0%でした。

参考:東京商工会議所 健康づくり・スポーツ振興委員会「健康経営に関する実態調査 調査結果」

規模の大きくない企業では、人事部が採用や労務、評価や育成など多くの業務を担います。そのため人事部に余裕がなく、健康経営の実行は難しい状況です。

また従業員が常時50人未満の企業では産業医の選任義務がないため、外部の専門家からのアドバイスを得られない場合もあります。

参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医について ~その役割を知ってもらうために~」

単純な人数不足だけでなく、専門家によるサポートの不足が中小企業における課題といえます。

 

健康経営の取り組みにあてる予算がない

前出の東京商工会議所の調査では、健康経営を実施するにあたっての課題として「予算がない」と答えた企業が22.6%と4分の1以上を占めています。

参考:東京商工会議所 健康づくり・スポーツ振興委員会「健康経営に関する実態調査 調査結果」

健康経営施策として設備投資や福利厚生制度の導入などを行うと、費用が発生します。

また健康経営を推進するチームの人件費や取り組み参加者の工数など、把握しにくいコストもあります。

健康経営は投資してすぐに結果を得られるものではないため、費用面での負担が大きいと考える中小企業は少なくありません

 

人事・総務部から中小企業で健康経営を推進するためのポイント

ここからは中小企業ならではの課題を踏まえ、人事や総務部から健康経営を実行していくためのポイントを解説します。健康経営の妨げとなっている要因を分析し、適切な対応を行ってください。

 

1.健康経営を重要な課題として認識する

まずは経営者に対し健康経営の重要性を示し、全社的な経営課題であることを提言します。

社内外への影響力の大きさを示すことで、健康経営の重大さを認識してもらえる可能性は高いです。

健康経営のメリットとしては、労働生産性の向上、退職・休職者の低減、モチベーションアップなどがあります。

健康経営を推進しない場合の損失額も明示し、大きなインパクトを与えてください。

 

株式会社emphealが提供する「生産性損失額シミュレーション」を活用すれば、プレゼンティーズムによる想定損失額を提示できます。

参考:empheal inc「健康経営のための生産性損失額シミュレーション」

想定損失額の莫大さから、推進の重要性を示せるでしょう。

また健康経営には、投資対象としての評価や、融資の優遇措置、採用PR効果など対外的なメリットもあります。

例えば、世界の投資額におけるESG投資の割合は年々増加しており、2016年時点で世界の投資額の26.3%を占めています。

出典:大和証券株式会社「ESG投資とは?」

今後もESG投資の傾向はますます強まることが予想されるため、健康経営の重要性は高いといえます。

健康経営による社内外への影響の大きさを示し、重要性を伝えてください。

 

2.中小企業での取り組み事例から学ぶ

健康経営の取り組み実績のない中小企業においては、同じような業種・規模の企業事例からノウハウを学ぶことが大切です。

今回は、経済産業省が公開している「健康経営優良法人 取り組み事例集 令和3年」から、3社の取り組みを抜粋して紹介します。

① 株式会社笠間製本印刷

事業内容

印刷業

重要員数

81名

取り組みのきっかけ

・発注先でCSR事業に注目される金融機関が多く、CSRの一貫として取り組みをスタート

・石川県内で健康経営の優良法人認定を受けている企業が少なく、差別化のために実施

取り組み例

・残業時間を含めた部署の業績目標を設定し、結果に応じて管理者に賞与を支給

・定時になると管理職のパソコンを強制シャットアウト(管理者が早く帰宅することで部下の帰社を促す)

・代表取締役をはじめとする6名の金沢マラソンの参加

・スポーツジム法人と契約し、従業員の運動を促進

取り組みの効果

・求職者から「福利厚生がしっかりしている企業」との評価を得る

・残業時間の大幅な削減に成功

 

②ナガオ株式会社

事業内容

化学工業薬品製造販売

重要員数

61名

取り組みのきっかけ

・ワークライフバランス向上による従業員と会社の持続的な相互成長を目指す

・健康経営の取り組みや考え方を従業員にさらに浸透させる

取り組み例

・将来の健康状態を自動予測するセルフチェックシステムの導入

・部署の垣根を越えたマラソン同好会の設立(会社が大会参加費やユニフォーム代を全額負担)

・地域のソフトボール大会への参加や、家族ソフトボール大会の実施

取り組みの効果

・離職率が10年間で0.5%

・志望動機としてワークライフバランスをあげる応募者の増加



③ネッツトヨタ山陽株式会社

事業内容

自動車販売、中古車の買い取り、自動車の車検・点検整備など

重要員数

220名

取り組みのきっかけ

・働きやすい職場、人財づくりによる従業員満足度の向上

・従業員の健康促進

取り組み例

・電子万歩計を支給し、個人別・部署別実績を毎月公表

・ウォーキングコンテストの実施など、楽しく運動できる環境の整備

・社員食堂のリニューアルと、カロリー別におかずを選択できるヘルシー仕出しの提供

取り組みの効果

・岡山市「桃太郎のまち健康推進応援団」への登録

・岡山県「おかやま健康づくりアワード」入賞

・業界誌で取り上げられ、同業他社から問い合わせをもらう

・採用時にプラスの影響

・お客様との健康をテーマにしたコミュニケーションの向上

 

比較的従業員の少ない企業であっても、小さな取り組みから大きな効果を生み出しているとわかります。自社でも実施できそうなアイディアを探し、計画に取り組んでください。

参考:経済産業省「健康経営優良法人 取り組み事例集 令和3年」

 

3.外部資源を活用してスモールステップで始める

健康経営において、いきなり大きな取り組みを行う必要はありません。

東京商工会議所が用意している「健康経営アドバイザー」プログラムなど知識を得られる外部の場を活用し、無理のない範囲でスタートさせてください。

健康経営アドバイザーは指定の研修を修了し、効果測定で合格することで認定される、健康経営の実施推進者です。

時間や場所を選ばないe-learning形式の研修であるため、手軽に受講可能です。

外部資源の活用で健康経営に関する知識が深まれば、現在の環境で実施できる効果的な取り組みが見つかります。

参考:東京商工会議所「健康経営アドバイザー」とは

 

4.健康経営に関する助成金を活用する

健康経営に対して予算面の課題がある場合、助成金の活用がおすすめです。健康経営に関する代表的な助成金は、次のとおりです。

①小規模事業場産業医活動助成金

対象企業

労働者数50人未満の事業場

対象となる取り組み

・産業医・保健師と契約し、事業場において産業医(保健師)活動を実施
(健康診断結果に関する意見、職場の巡視、長時間労働者の面接指導、健康教育など)

助成内容

最大20万円

参考:小規模事業場産業医活動助成金産業医コース・保健師コース・直接健康相談環境整備コース

 

②受動喫煙防止対策助成金

対象企業

以下すべてに当てはまる事業者

・労働者災害補償保険の適用事業者

・規定する中小企業の定義に当てはまる事業者

対象となる取り組み

・一定の基準を満たす喫煙専用室や指定たばこ専用喫煙室の設置

助成内容

・工事費や設備費、備品費などの経費の内、最大1/2を補助(上限100万円)

参考:厚生労働省 受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)

健康経営に関する助成金情報は日々更新されるため、厚生労働省や経済産業省などのホームページをこまめに確認してください。

顧問社会保険労務士がいる場合、助成金情報の照会をお願いできる場合もあります。

 

【健康課題別】低コストで始められる健康経営施策

最後に、具体的な健康経営の施策内容をご紹介します。中小企業が抱えている健康課題別に低コストで始められる施策を紹介するため、自社の状況に合った取り組みを探してください

 

1.メンタルヘルス対策

メンタル不調をかかえる従業員が多い場合、早急な予防と復帰促進の取り組みが必要です。

  • 施策例1:ストレスチェック(無料版)

概要

・オンライン上で57問の設問に答えることで、ストレス状態が把握できる

メリット

・無料で誰でも実施可能

・所要時間が5分程度で手軽に実施できる

注意点

・セルフチェックが目的なので、結果を会社が入手できない。

・結果の生かし方を従業員にレクチャーする必要あり

参考:厚生労働省「5分でできる職場のストレスセルフチェック」

 

  • 施策例2:社内の相談窓口の設置

概要

・メンタルヘルスなどに不安がある従業員が相談できる専用窓口を、社内に設置する

メリット

・外注費がかからない

・直属の上司などの利害関係にない人に相談できる

注意点

・相談相手が社内の人だと遠慮してしまう従業員もいるため、配慮が必要

・相談を受ける側が適切に対応できるよう、研修を受けて知識を得たり、専門家に相談できる体制を作ったりする必要あり

 

  • 施策例3:社外の相談窓口の紹介

概要

・地域産業保健センターなど、社外の専門家にメンタルヘルス相談ができるサービスを紹介する

メリット

・無料で専門家の支援を受けられる

・全国に350か所設置されており、身近なセンターを利用できる

注意点

・労働者数50人未満の小規模事業者のみが対象

・利用には事前予約が必要

参考:厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト心の耳「地域産業保健センター(地さんぽ)」

いずれも無料でできる取り組みなので、健康経営の最初の取り組みとしておすすめです。

 

2.運動習慣作りのサポート

適度な運動は、心身の健康の保持・増進に効果的です。従業員が楽しみながら運動習慣を身に着けられるよう、サポートしてください。

  • 施策例4:KIWI GOを活用した運動習慣作り

概要

・運動継続と従業員の交流を目的としたサービス(KIWI GO)を導入し、従業員の運動習慣の形成を支援する

メリット

・専用のアプリをダウンロードするだけで手軽に始められる

・従業員がゲーム感覚で楽しく運動に取り組める

・イベントの実施で従業員同士のコミュニケーションを促進できる

注意点

・ユーザー数に応じた利用料が発生

 

  • 施策例5:社内運動イベントの実施

概要

・社内でスポーツイベントなどを開催し、従業員が楽しく運動できる機会を設ける

メリット

・定期的な開催によって従業員に運動機会を提供できる

・従業員同士のコミュニケーションの促進効果も期待できる

注意点

・開催時間や頻度によっては従業員の負担になる可能性があるため、配慮が必要

 

  • 施策例6:オンラインでの体操時間の創設

概要

・オンラインツールを活用し、定期的に体を動かす機会を提供する

メリット

・離れた拠点の従業員や、在宅勤務者も参加できる

・定期的な開催によって従業員に運動機会を提供できる

注意点

・在宅勤務者の住環境によっては参加しづらい場合もあるため、座ったまま体を動かせるなど、内容の工夫が必要

勤務時間中に運動の機会を設けることで、従業員の運動習慣の形成をサポートできます。業務に支障が出ないよう、バランスを見て少しずつ実施していくとよいでしょう。

 

3.健康的な食生活の支援

適切な食生活は、生活習慣病予防の重要な要素です。企業でできる施策の例は、2つです。

  • 施策例7:ランチ代の補助

概要

・従業員の健康的な昼食摂取に対して、費用の一部を企業が負担する

メリット

・昼食の欠食を防ぎ、不健康な食生活を改善する機会となる

・従業員同士で楽しく食事をすることで、コミュニケーション促進の効果もある

・要件を満たせば、補助にかかる費用を福利厚生費として計上できる

注意点

・費用が発生するため、補助できる金額について慎重な検討が必要

・補助対象について、事前の取り決め・周知が必要

 

  • 施策例8:特定保健指導の活用(栄養指導など)

概要

・生活習慣病予防健診にて生活習慣の改善が必要とされた従業員に対して、保健師などに保健指導を実施してもらう

メリット

・健康状態に応じた適切な指導を専門家から受けられる

・3か月程度の継続した支援が受けられる

・従業員に費用負担がない

注意点

・加入している健康保険組合などに実施要項を確認する必要あり

まずは少ないコストで始められる取り組みから実施してください。

参考:全国健康保険協会「検診後の保健指導・健康相談」

 

まとめ:中小企業こそ事業存続のために健康経営が必須

従業員数が少なく、一人ひとりの活躍が事業の成長に直結する中小企業にこそ、健康経営の推進が必要です。

健康経営には労働生産性の向上、従業員の退職や休職リスクの低減などの社内におけるメリットと、企業価値向上などの対外的なメリットがあります

外部の専門家や相談窓口、助成金などを活用すれば中小企業ならではの課題に対処し、健康経営を推進できます。

健康の保持・促進には取り組みの継続が必要であるため、今回の記事を参考として、負担の少ない施策からスタートしてください。

なお健康経営施策の実行では、従業員が自発的に楽しく参加することが継続の鍵です。

従業員同士のコミュニケーションを促進しつつ、ゲーム感覚で運動習慣を身に付けられるKIWI GOは、従業員の運動習慣の形成におすすめです。

KIWI GOには運動継続につながる仕掛けが多数搭載されており、中小企業でも簡単に取り入れられます。

ぜひ最初の健康経営施策として、前向きにご検討ください。