働きやすい環境を重視する社員が増えているいま、ワーク・エンゲイジメントは注目されています。

ワーク・エンゲイジメントは従業員が生き生きと働ける環境を作るにあたって、非常に大切な概念です。

本記事では、ワーク・エンゲイジメントの意味と向上のメリット、計測方法についてご紹介します。

 

ワーク・エンゲイジメントとは

ワーク・エンゲイジメントは従業員のメンタル面での健康度を示す概念であり、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことを言います。

ワーク・エンゲイジメントは、オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授らによって提唱されており、特に以下の3つの要素が満たされている心理状態と定義されています。

活力(仕事から活力を得ていきいきとしている)

熱意(仕事に誇りとやりがいを感じている)

没頭(仕事に熱心に取り組んでいる)

さらに、ワーク・エンゲイジメントは一時的な心理状態ではなく、仕事に向けられた「持続的かつ全般的な感情と認知」と定義づけられています。

出典:厚生労働省

ワーク・エンゲイジメントは、仕事のパフォーマンスや生産性にも影響を与える指標として注目されています。生産性を厳密に計測することは難しいため、代わりに安定的に計測が可能な「UWES」という評価方法で測定したワーク・エンゲイジメントの指数が学術的に活用されることもあります。

 

ワーク・エンゲイジメントに関連する概念

ここからは、ワーク・エンゲイジメントに関連する言葉の違いを解説・比較しワーク・エンゲイジメントへのさらなる理解を深めます。

参考:厚生労働省 ワーク・エンゲイジメントの概念について

 

ワーカホリズム

ワーカホリズムは、仕事への活動水準は高いものの仕事への態度や認知がネガティブな状態のことを指します。

仕事に対してのポジティブで充実した心理状態とは言えないため、精力的に働いてはいますが、ワーク・エンゲイジメントとは異なる概念です。

 

バーンアウト

バーンアウトは燃え尽き症候群とも言われており、仕事への活動水準も、仕事への態度や認知も、ともにネガティブです。

ワークエンゲージメントとは対極の概念であり、仕事に対して意欲喪失しています。

社員がバーンアウトの状態になる前に、未然に防ぐ必要があります。

 

職務満足感

職務満足感が高い状態だと、仕事への態度や認知はポジティブですが、仕事への活動水準はネガティブです。

本人の満足度と実際の仕事の成果に乖離がある状態と言えます。

 

組織コミットメント

「組織コミットメント」とは「特定の組織に対する個人の一体感と関与の相対的な強さ」と定義されています。

ワーク・エンゲイジメントが、 個人と「仕事全般」との結びつきを示す概念であることに対し、組織コミットメントとは、個人と「組織」との結びつきを示します。

 

ワーク・モチベーション

「ワーク・モチベーション」とは、 「目標に向けて行動を方向づけ、活性化し、そして維持する心理的プロセス」と定義されています。

ワーク・エンゲイジメントでは、個人が仕事に抱くポジティブな状態を指す一方でワーク・モチベーションは、モチベーションが高まるよう動機づけを行う過程自体を指します。

 

ワーク・エンゲイジメントを向上させるメリット

ここでは、ワーク・エンゲイジメントが高まることのメリットについて述べます。

 

職場とプライベートが相互に影響を与え合うから

ワーク・エンゲイジメント向上により、そのポジティブな影響が他の部分へも相互作用することがあります。

これはスピルオーバーと言われており、ワーク・エンゲイジメントを向上させることで、仕事の部分がポジティブな状態になると、私生活にもポジティブな状態が伝播します

従業員の人生全体の豊かさの視点からも、ワーク・エンゲイジメントの概念は重要です。

 

従業員同士で相互に影響を与え合うから

ワーク・エンゲイジメント向上により従業員同士もポジティブな影響を与え合います。

職場でのポジティブな影響が伝播する現象はクロスオーバーと言われており、特に上司がいきいきしていると、部下もいきいきと働ける傾向があります。

上司のポジティブな心理が部下に伝わりやすい理由は、次のとおりです。

  • 部下が上司のポジティブさを学習し、自らワーク・エンゲイジメントを高めるケースがあるため
  • ワーク・エンゲイジメントの高い上司は、前向きな言動をする傾向が強いため
  • 職場そのものにワーク・エンゲイジメントを高める要因がある可能性が高いため

一般的には年齢が上がるほど、ワーク・エンゲイジメントは高まると言われています。

理由としては、キャリアを経るほどに裁量権、信頼関係、自己効力感などが蓄積されるからです。

裁量権、信頼関係、自己効力感は、ワーク・エンゲイジメントを高める重要な要素です。

上司と呼ばれる年齢層からワーク・エンゲイジメント向上に取り組めば、社内全体にポジティブな輪が広がりやすくなるといえます。


参考:ワーク・エンゲイジメントを高める4つの方法 慶應義塾大学 島津明人氏 | 人材・組織開発の最新記事(コラム・調査など) | リクルートマネジメントソリューションズ

 

ワーク・エンゲイジメントの計測指標

ここでは、ワーク・エンゲイジメント3つの計測指標についてご紹介します。

UWES

UWESはUtrecht Work Engagement Scalesの略で、ワーク・エンゲイジメント測定におけるもっとも基本的な指標です。

活力、没頭、熱意の3つの尺度を質問項目に盛り込み、回答結果を測定します。

UWESの回答結果の数値が高いほど、ワーク・エンゲイジメントが向上しているということになります。

UWESはワーク・エンゲイジメントそのものについての計測指標であり、後述するMBI-GSやOLBIと異なり、プラスの要素を基準としている点が特徴です。

参考:島津明人研究室 ワーク・エンゲイジメント(UWES)

 

MBI-GS

MBI-GSは、Maslach Burnout Inventory-General Surveyの略です。

疲労感、シニシズム、職務効力感の尺度を質問項目に盛り込み、回答結果を測定します。

元々はバーンアウトを測定するための指標のため、このMBI-GSの回答結果の数値が高いほどバーンアウトの状態になっていることが示されます。

一方、MBI-GSで計測した数値が低いほど、ワーク・エンゲイジメントが向上しているといえます。

参考:日本版MBI-GS (Maslach Burnout Inventory-GeneralSurvey)の妥当性の検討

 

OLBI

OLBIはOlddenburg Burnout Inventoryの略であり、疲弊と離脱の尺度を質問項目に盛り込み、回答結果を測定します。

OLBIはバーンアウトの状態を測る指標であり、数値が低いほどワーク・エンゲイジメントが高いと考えられます。

 

ワーク・エンゲイジメントを高める具体的な方法

ここからは、ワーク・エンゲイジメントを高める具体的な方法をご紹介します。

 

評価基準を明確に設ける

何をもってワーク・エンゲイジメント向上ができたと見なすか、明確に指標を設けます。

会社でさまざまな取り組みを行い、定期的にUWESでワーク・エンゲイジメントの状態を計測すると良いでしょう。

 

表彰の文化をつくる

表彰の文化をつくり努力が評価される環境が生まれれば、ワーク・エンゲイジメントの要素である活力、熱意、没頭が向上します。

社内イベントを開催し一年間の成績を表彰する、作業現場が評価期間内に無事故であればボーナスの査定対象に組み込む、などの表彰文化を作り、実践してください。

組織ごとの一体感を強めたい場合、所属部署や会社全体を評価するのも効果的です。

 

ジョブ・クラフティングを実践する

ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事に対する認知や行動を主体的に修正することで、仕事のやりがいを獲得する手法です。

同じ仕事であっても、取り組む従業員の捉え方一つで、やりがいや満足度は大きく変わります。

ジョブ・クラフティングには次の分類があります。

  • 仕事のやり方への工夫
  • 周りの人への工夫
  • 考え方への工夫

シーンに応じて、どのような点に工夫を施すべきか判断する必要があります。

ジョブ・クラフティングの実践方法はさまざまですが、一例として次のような流れでジョブ・クラフティングの計画作りを行います。

  1. ジョブ・クラフティングの基礎知識を身につける
  2. 事例を用いてジョブ・クラフティングのアイデアを出す
  3. 実際の業務で工夫できる点を考え計画として形にする

ジョブ・クラフティングで大切なのは、ただ考えるだけで終わらせず、実際に行動レベルまで落とし込み実践するサイクルを繰り返すことです。

仕事に対し継続的にやりがいを感じられるよう、定期的に計画を見直すよう促してください。

参考:ジョブ・クラフティング研修プログラム実施マニュアル

 

従業員どうしのコミュニケーションを推進する

従業員どうしのコミュニケーションを推進することで、良好な人間関係が築かれ、精神的に満たされます。

思いやり行動を増やせば、明るく活気ある職場に繋がります。

思いやり行動とは、困っている職場の仲間を従業員が自発的に助けることです。

参考:思いやり行動向上プログラム実施マニュアル

 

思いやり行動を重ねるほど、従業員同士の信頼関係は強くなりストレスが減ります

思いやり行動向上プログラムに参加してもらうなどして、従業員による自発的な助け合いを促してください。

 

CREWプログラムを実践する

従業員同士の人間関係を深める具体的な施策として海外でも利用されているのが、CREWプログラムです。

CREWプログラムは、お互いを知り、お互いに丁寧に敬意をもって接する関係性を構築するためのものです。

決められたテーマについて対話を重ね、理解を深めます。対話の進行は、専門のトレーニングを受けたCREWファシリテーターが行います

CREWファシリテーターはお互いの意見を否定しない、すべての意見に価値があることを伝える、といった基本的なルールを遵守することが重要です。

CREWプログラムによるセッションを重ねることで、同僚、上司、部下個人の思いが理解できるようになります。

CREWプログラム導入により、職場の雰囲気が明るくなった、協力体制が増した、といったポジティブな声もあがっています。

 

参考:CREWプログラム実施マニュアル

 

メンタルヘルスを強化する

どんなに仕事熱心であっても、熱中するあまり心身のバランスを崩してしまっては、ワーク・エンゲイジメントが向上したとは言えません。

過度な残業、職場の不和など、メンタルヘルスを阻害する危険因子を未然に防ぐ取り組みが必要です。

具体的な施策としては、残業時間に一定の制限を設ける、会社専属の心理カウンセラーを設置する、社内交流イベントを開催する、などがあります。

 

健康増進に努める

肉体面での健康も、ワーク・エンゲイジメント向上には欠かせません。

一時間ごとの休憩の奨励、機械操作マニュアルの見直し、ジムと提携した福利厚生の充実、など、健康増進に関する施策は企業ごとに異なります。

さまざまなアイデアを出し、自社の状況に合った取り組みを行ってください

 

まとめ:ワーク・エンゲイジメントを高めいきいきと働ける環境を作ろう

ワーク・エンゲイジメントは、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことです。

ワーク・エンゲイジメントを向上させれば、仕事への満足度が上がり、いきいきと働ける職場が生まれます。

社員の働きがいを高めるために、まずはワーク・エンゲイジメントの改善からはじめてみましょう。

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