現在は働き方改革の推進や新型コロナウイルスの流行により、従業員のウェルビーイングが重要視されています。数字の上では多くの企業が、長時間労働の是正や有給休暇取得率の向上を達成しました。
しかし仕事の質や生産性などは数字に表れにくいため、正確に分析することが困難です。
「ウェルビーイングが生産性にどう影響するのか」
「他業務に優先してウェルビーイング対策に注力するべきなのか」
取り組みの成果が問われるなか、上記のように悩んでいる企業担当者も多いでしょう。
アメリカの研究結果によると「幸せな従業員は不幸せな従業員と比べて創造性が3倍になり、生産性は31%高い」とされています。
ウェルビーイングは一時的な生産性向上のためだけではなく、定着率の上昇など企業にとって長期的なメリットも多いです。
そこで本記事ではウェルビーイングで生産性が向上する理由や、具体的な対策を紹介します。
目次
ウェルビーイングとは
企業経営において、ウェルビーイングの視点を取り入れる動きが活発化しています。
ここではウェルビーイングの概要および注目されている背景を解説します。
ウェルビーイングの概要
ウェルビーイングとは、心身の健康や社会的価値などによる幸福感を表す概念です。
世界保健機関憲章(1946年署名、1948年効力発生)の前文では「well-being」という表現を用いて健康を定義しています。
日本WHO協会の仮訳は以下のとおりです。
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」
参考:公益社団法人日本WHO協会 世界保健機関(WHO)憲章とは
健康や福祉といった幸せに加え、働くことで得られる社会的な幸福感も達成されている状態がウェルビーイングといえます。
ウェルビーイングが注目されている背景
ウェルビーイングの意味は狭義から広義へと変化してきました。
背景の一つには、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の存在があります。
「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標8:すべての人に働きがいと経済成長を」がウェルビーイングに関連することから、世界で取り組みが促進されています。
また2019年に施行された「働き方改革」は、生産性向上とともに就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境作りを目的としています。
新型コロナウイルスの流行が重なったことで、働きやすさへの意識変化も生まれました。
ウェルビーイングへの注目は、幸福を図る範囲が従来の健康から働きがい・働きやすさまで拡大したことが背景にあるといえます。
日本の生産性に関する課題
国際比較においては、日本の生産性の低さが問題視されています。
日本生産性本部の発表によると、時間あたり生産性(就業1時間あたり付加価値)および一人あたり生産性(就業者一人あたり付加価値)はOECD加盟38カ国中それぞれ27位と29位です。
生産性の向上は企業における喫緊の課題です。ここではその背景を確認するとともに課題を整理します。
日本的雇用慣行の限界
内閣府の調査によると、日本的雇用慣行の度合いが強い企業ほど多様な人材を確保できていないことが明らかになりました。
終身雇用や年功序列が日本的雇用慣行の特徴です。
従業員が年齢などに基づき昇進する仕組みがあると組織内の協力が高まるとされ、日本を象徴する雇用制度として定着しました。
しかし外部からの採用を制限する日本的雇用慣行は、イノベーションや多様な人材確保を必要とする現代においては限界を迎えています。
生産性向上のために求められる人材について多方面から議論を行い、雇用制度を柔軟にシフトしていくことが重要です。
少子化による人材難
2019年における出生数は87万人で過去最少となりました。
将来推計人口における2040年の出生数は約74万人と推計されており、2019年の1割減になると見込まれています。
企業間における人材獲得の競争がますます激化する中、定着率向上のための対策も急がれます。従業員の離職を防ぎ、少子化による人材難に対応することが不可欠です。
在宅勤務の課題
新型コロナウイルスの流行により、在宅勤務を取り入れる企業が増加しました。新たな働き方として歓迎される一方で、生産性を不安視する声も上がっています。
内閣官房の資料によると「在宅勤務で生産性が低下した」と答えた割合は労働者の82.0%、企業の92.3%にものぼりました。
出典:内閣官房 成長戦略会議(第7回)資料1 コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ
生産性が低下した理由としては「対面での素早い情報交換ができない」「パソコンや通信回線などの設備が劣る」などが上位を占めています。
さらに運動不足や孤独感・孤立感の慢性化も在宅勤務の課題としてあげられます。
働き方が多様化した現代において、在宅勤務は一つの選択肢として定着しつつあります。在宅勤務でも生産性向上が達成できるよう、組織で整備することが大切です。
ウェルビーイングが生産性向上につながる理由
2022年11月、株式会社アドバンテッジリスクマネジメントは「ウェルビーイングと仕事のパフォーマンスにおける相関」に関するデータ分析の結果を発表しました。
分析結果により、ウェルビーイングと生産性との間には中程度から大きな正の相関があると明らかになりました。
参考:株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 顧客企業 272 社、28.8 万人のメンタルデータを分析 従業員のウェルビーイングと生産性の相関が明らかに
ここからは、ウェルビーイングのどのような点が生産性に関わるのかを確認します。
病欠や労災の低減
ウェルビーイングの狭義的な意味は心身の健康です。従業員の心身が健康であれば、出勤率の向上や不注意による事故の防止につながります。
病欠や労災の事例が発生すると、人手不足や対象者の支援に加え事務手続きの負担が発生します。
生産性向上をめざす第一歩として、病欠や労災の低減に関する対策が必要です。
集中力や判断力の向上
ウェルビーイングは、健康管理と自己実現のいずれもが満たされた状態です。
従業員の集中力や判断力を最大限に発揮するため、ウェルビーイングの実現は必須であるといえます。
疲労している状態やモチベーション不足の状態では集中力を失いやすく、無駄な時間を消耗してしまいます。
少ない労働時間で最大の成果を上げることが、生産性の向上につながります。
定着率の上昇
働くことで人生を充実させたいと願う従業員にとって、満たされない状態が続く企業であれば帰属意識が低下してしまいます。
離職が繰り返されると、新たな人材の確保や育成などに多大なコストがかかります。
従業員が長く働けるような対策をとり、コスト削減への意識を高めることが重要です。
優秀な人材の確保
従業員のウェルビーイングが実現されていることは、企業ブランドの強化につながります。
求職者にとって、企業ブランドは就職先を選ぶ際の重要な判断材料です。
優秀な人材を確保するためには、ウェルビーイングの取り組みを企業ブランドとしてアピールすることが効果的です。
投資の促進
ESG投資とは、環境(Envionment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業への投資のことです。
ウェルビーイングへの取り組みは社会(Social)にあたります。
財務省の資料によると、企業が社会的課題に取り組む姿勢は⼀層注目されています。
実際に、社会的リターンが投資リターンに結び付くことを⽰唆する研究結果も出ています。
投資目線でも、企業は短期的な利益だけを追求するのではなく長期的な視野に立ち社会的責任を果たさなければなりません。
ウェルビーイングとワーク・エンゲイジメントの関連性
ワーク・エンゲイジメントとは仕事に関連するポジティブで充実した心理状態、つまり「活力」「熱意」「没頭」の3つがそろった状態です。
持続的かつ安定的な働きがいのある状態とも言い換えられ、従業員の組織コミットメントやパフォーマンス向上において重要視されています。
従業員のウェルビーイングを実現させるためには、ワーク・エンゲイジメントの向上が必要です。
参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-
ワーク・エンゲイジメントを向上させる方法
ここからは厚生労働省の発表より、従業員の認識や企業の取り組みがワーク・エンゲイジメントを向上させる仕組みに繋がっているということをより詳しく紹介します。
参考:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について
仕事の要求度と仕事の資源のバランスをとる
仕事の要求度とは、従業員のストレスなどを引き起こしうる仕事特性です。
ネガティブなものだけではなく、挑戦的なストレッサーは従業員の成長を促す可能性もあります。
仕事の資源とは、キャリア開発の機会や上司によるコーチングなどです。従業員が活用できる企業の支援といえます。
ワーク・エンゲイジメントを向上させるには、仕事の要求度と資源がバランスの取れた状態になっていることが理想です。
個人の資源(心理的資本)を育成する
個人の資源(心理的資本)とは、従業員の成長におけるポジティブな心理状態です。自己効力感やレジリエンスの育成も、ワーク・エンゲイジメント向上には欠かせません。
仕事の資源と個人の資源は、それぞれが独立してワーク・エンゲイジメントに影響を与えるだけでなく、相互に関連し双方を強化するために機能します。
出典:厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-
個人の資源、仕事の資源双方を豊富に整備することが重要です。
ウェルビーイングで生産性を向上させる具体的な方法
経済産業省の「健康経営銘柄2023」に選定された企業は、実際の取り組みによる仕事パフォーマンスの向上を報告しています。
事例を参考に、ウェルビーイング向上に向けて実践できそうなものを取り入れてください。
参考:経済産業省 健康経営銘柄2023 選定企業紹介レポート
健康診断の活用・促進
出典:Daigasグループ
従業員に対する健康診断の実施は、法律で定められた企業の義務です。
単に実施するだけではなく、診断結果を活用することで従業員のウェルビーイングに役立てられます。
大阪ガスでは健康診断の結果をもとに、食事や運動など7つの項目で生活習慣を確認できる「ヘルシー7(セブン)度チェック!」を作成しています。
様々な催しにより生活習慣改善の動機づけを図った結果「運動を週2回以上実施している」と回答した割合が24.4%から25.7%に上昇するなどの効果が得られました。
参考:Daigasグループ Daigasグループのサステナビリティ 安全衛生 人間成長を目指した企業経営(憲章Ⅵ)
長時間労働者への対応
出典:株式会社KSK
労働時間を削減するためには、日常業務の定期的な見直しや提案のしやすさなどが求められます。
株式会社KSKでは、事務手続き効率化や業務の改善提案によりインセンティブが支給される「サクサク提案運動」「ヨクスル運動」を実施しています。
健康に関する様々な取り組みの結果、従業員の健康指標やワーク・エンゲイジメントの向上が数値に表れています。
メンタルヘルス不調者への対応
心身に支障がある場合、本人のみが抱え込んでしまい悪化する恐れがあります。企業全体でメンタルヘルス対策に取り組み、従業員を適切な方法でケアを行ってください。
実際のケアにおいては、段階的予防や4つのケアなどに関する正しい知識が必要です。
適切な体制整備のため、詳しくはメンタルヘルスヘアに関する次の記事をチェックしてください。
あわせて読みたい:あなたの職場は大丈夫?従業員に対するメンタルヘルスケアの現状と進め方
快適な職場環境の整備
出典:三井物産株式会社
従業員が快適に働くための環境整備も効果的です。
例として、リフレッシュするための時間や場所を設けたり、施設内禁煙・分煙を徹底したりすることなどが挙げられます。
三井物産株式会社は、支社も含めた全社における全面禁煙の達成および様々な禁煙支援策を実施しています。
例えば禁煙相談窓口の設置やアプリによる卒煙プログラムの実施、イントラネットへの「禁煙サポートページ」の開設などです。
さらに健康保険組合との協働により、禁煙治療を受けて禁煙に成功した従業員に対する補給金支給も行っています。
禁煙に関する様々な取り組みの結果、2021年の喫煙者は2016年の約4割減となりました。
参考: 三井物産株式会社 サステナビリティ | 健康経営・労働安全衛生
運動機会の増進および習慣化
運動したいという気持ちがあっても「時間が足りない」「きっかけがない」などの理由でなかなか実行に移せない従業員は多いです。
そのため近年は運動に関連したイベントを企業が主催することも増えてきました。
イベントは従業員にとって絶好の運動習慣となるほか、所属感も高まるため注目されています。
野村ホールディングス株式会社は、部署ごとの平均歩数を競うウォーキングイベント「ノム☆チャレWALK」を毎年実施しています。
有志での登山にてゴミ拾いを兼ねるなど、従業員が工夫をしながら自主的に取り組んでいる点が特徴です。
イベント開催の結果、歩行習慣のある従業員は増加しました。
また会社の健康経営目標であるアブセンティーズム・プレゼンティーズムの低減にもつながると期待されています。
コミュニケーションの活発化
ワーク・エンゲイジメント向上のためには、職場コミュニケーションを活発化させる必要があります。
イベントを開催したり相談体制を整備したりするほか、手軽に利用できるコミュニケーションツールを導入することでも従業員の交流促進につながります。
KIWI GOはアプリを入れるだけで、従業員の運動不足とコミュニケーション不足を解消できる便利なツールです。歩数で貯めたコインをごほうびに交換したり、チーム対抗のウォーキングイベントを開催したりすることが可能です。
さらに同じ趣味の従業員がマッチングし、グループチャットで交流を深められるギルド機能もあります。
「在宅勤務で深刻化した従業員の健康課題に対処したい」とお考えの企業は、生産性向上や帰属意識向上にもつながるKIWI GOをぜひご活用ください。
まとめ:従業員のウェルビーイング実現は優先すべき目標
現代ではウェルビーイングの観点から、心身の健康管理はもちろんのこと、従業員のやる気や仕事の質にフォーカスした対策が求められています。
企業は労働時間の低減や手当の支給だけでなく、従業員が気持ちよく仕事に取り組めるよう多方面から考える必要があります。
ウェルビーイングは生産性にもかかわっているため、企業の規模を問わず優先して課題を見つけ、取り組みをスタートさせましょう。
KIWI GOなら従業員の運動や交流のきっかけが簡単に作れます。導入を検討したい企業はぜひお問い合わせください。