リモートワークや働き方改革が進み、従業員の健康実態を把握するのが難しいと感じる企業が増えています。プレゼンティーズムは、何らかの不調を抱えながら業務を行うことで生産性が下がっている状態です。なんとなく体調が悪い従業員や、メンタルヘルスの不調を抱える従業員が増えてきたと感じる企業は、プレゼンティーズムを測定し対策をおこないましょう

この記事ではプレゼンティーズムの測定方法を中心に、プレゼンティーズムを改善するためのポイントや事例を紹介します。従業員が万全な状態で仕事に取り組めるよう、ぜひ参考にしてください。

 

プレゼンティーズムとは

企業の健康と生産性の関係を示す指標として、プレゼンティーズムとアブセンティーズムがあります。

アブセンティーズム

病気のため、欠勤や長期休職している状態のこと

プレゼンティーズム

何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務の生産性が下がっている状態のこと

参考:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

アブセンティーズムは欠勤や休職などで、状況から問題が可視化しやすいのが特徴です。

一方プレゼンティーズムは目に見えにくく、本人も無自覚のうちにプレゼンティーズムの状態に陥ってしまうことが問題です。

 

プレゼンティーズムによる損失は大きい

プレゼンティーズムは、企業のコスト面に非常に大きな影響を与えます。

健康関連指標のリスクの有無でプレゼンティーズムの損失コストを比較すると、生活習慣指標や心理的指標において、リスクありの層で損失コストがとくに大きいとわかります。

出典:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

生活習慣指標では、睡眠休養の項目においてリスクありの層では約1.5倍の損失コストです。

心理的指標ではすべての項目で、リスクありの層における損失コストが約1.2~1.7倍と大きい状況です。

また企業の健康関連総コストにおいては、プレゼンティーズムによる損失がアブセンティーズムの損失の10倍以上を占めていました。

出典:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

これらの結果より、プレゼンティーズムの増加は企業にとって見逃せない大きなものだといえます。

 

プレゼンティーズムの要因

プレゼンティーズムの状態のまま仕事を続ければ、症状が悪化・長期化するリスクがあります。

またプレゼンティーズムが常態化し仕事で力を発揮できない状態になれば、「職場環境が悪いのかも」と従業員が転職を選択する可能性があります。

プレゼンティーズムを引き起こし得る健康問題は、次の通りです。

運動器・感覚器の障害

・腰痛

・肩こり

・頭痛

・眼精疲労

メンタルヘルスの不調

・メンタルストレス

・ワーク・エンゲイジメント(働きがい)

・うつ病

心身症(ストレスによる内科疾患)

・動悸

・息切れ

・胃腸の不調

・食欲不振

・便秘

・下痢

参考:経済産業省 健康経営オフィスレポート

なかでも経済産業省の発表により、メンタルの不調・睡眠・頭や首の痛みなどによるパフォーマンス低下が、多くの損失につながることがわかります。

出典:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

従業員の健康を維持するには、定期的にプレゼンティーズムを測定し把握することが大切です。

 

プレゼンティーズムの測定方法

プレゼンティーズムは感覚的な部分も多く、客観的に数値化することが困難なものでした。

しかし現在は、プレゼンティーズムによる損失割合を計算する指標がいくつか研究されています。

プレゼンティーズムの測定方法には5つの方法があります。それぞれの特徴を踏まえ、使いやすいものを選択してください

ただしそれぞれ測定結果の意味が異なるため、比較対象とはならない点に注意が必要です。

 

WHO-HPQ

WHO-HPQは、現状のパフォーマンスに対する評価を測定する指標です。

WHO-HPQではWHOで世界的に使用されている「WHO 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」を用いて、評価を行います。

  • 勤務時間はどれくらいか
  • 身体的・精神的な理由で休んだことがあったか
  • 仕事の出来はどれくらいだったか

上記を含む全12問からなる質問用紙で評価を行います。

WHO-HPQは海外のエビデンスが豊富で、世界的にもっとも広く活用されている指標です。無償での利用が可能ですが、RIOMHへの入会が推奨されています。

参考:国立国際医療研究センター 逆翻訳による妥当性検証を経た WHO-HPQ(世界保健機関 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙)日本語版の完成

 

プレゼンティーズムの具体的な算出では、おもに下記の質問を用います。

Q1.0から10までの尺度であなたと似た仕事において多くの勤務者の普段のパフォーマンスをどのように評価するか?

Q2.0から10までの尺度で過去4週間のあなたの勤務日のパフォーマンスをどのように評価するか?

参考:世界保健機関 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版

健康リスクとの関わりを把握できる「絶対的プレゼンティーズム」はQ2の値をそのまま用います。

Q2の回答が「8」であれば、パフォーマンス発揮度は8割であり、2割のプレゼンティーズム損失が生じていると考えられます。

日本人は控えめな傾向が強く、Q2の数値が低くなりがちです。その場合には、健康状態による損失コストが算出できる「相対的プレゼンティーズム」を用いて評価します。

相対的プレゼンティーズムはQ2÷Q1によって算出されます。Q2が「6」、Q1が「8」と回答した場合は、相対的プレゼンティーズムは6÷8=0.75です。

1.0を基準に、低い場合は数値が離れるほどパフォーマンスが低下している状態です。1.0より高い場合は、数値が離れるほどパフォーマンスが良好だといえます。

日本人の謙虚な気質からして、ほとんどの企業では相対的プレゼンティーズムを用いることが妥当だと考えられています。

参考:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

 

SPQ(東大1項目版)

SPQ(東大1項目版)は、過去4週間の仕事のパフォーマンス度を評価できる指標です。東京大学ワーキングで開発され、研究目的や商用目的で無料利用できます。

世界で利用されているWHO-HPQは表現が難解であり、活用が難しいといった声がありました。

それに対しSPQ(東大1項目版)は、簡単にプレゼンティーズムを測定できるよう、1つの設問のみで構成されています。

内容は「病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事をパーセンテージで評価する」というものです。

プレゼンティーズムの損失は「100%-回答値」で算出できます。

SPQ(東大1項目版)における日本人の測定値平均は84.9%とされています。そのためプレゼンティーズムの損失割合の平均は約15%です。

SPQ(東大1項目版)はシンプルでありながら、WHO-HPQと遜色ない妥当性があることがわかっています。

参考:東京大学未来ビジョン研究センター SPQの特徴

 

WLQ(Work Limitations Questionnaire)

WLQは健康問題による仕事上の制約や、生産性の低下率を測定できる指標です。

  • 時間管理
  • 身体活動
  • 集中力、対人関係
  • 仕事の結果

上記の4つの尺度から全25問の質問で構成されています。

体調不良で職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を、「常に支障があった」~「まったく支障はなかった」の 5段階から選択する方法により、プレゼンティーズムを算出します。

参考:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

 

WLQはWHO-HPQやSPQ(東大1項目版)と異なり、有料である点に注意が必要です。利用の際にはSOMPOヘルスサポートへの申し込みをしてください。

参考:SOMPOヘルスサポート プレゼンティーイズムサーベイ「LLax WLQ-J」

 

WFun(Work Functioning Impairment Scale)

WFunは産業医科大学で開発された、健康問題による労働障害を測定するための調査票です。

性別や年齢、業種に影響されず労働障害の程度にのみ焦点が当てられた指標のため、客観的な評価ができます。

WFunは簡易的な7つの設問からなり、合計得点(7~35 点)で評価を行います。結果が21 点以上の場合は、中程度以上の労働機能障害があると判断できます。

参考:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

 

健康情報を用いないため、専門の職種以外でも取り扱いやすい点もメリットです。利用の際にはWLQと同様、SOMPOヘルスサポートへの申し込みが必要です。

参考:SOMPOヘルスサポート プレゼンティーイズムサーベイ「WFun」

 

QQmethod

QQmethodは健康問題を含む尺度のため、プレゼンティーズムの原因を特定しやすいです。

プレゼンティーズム改善の施策に迷っている場合、QQmethodにより原因を可視化することで施策が検討しやすくなるためおすすめです。

QQmethodではまず持病など何かしらの健康上の問題や、仕事に支障をきたすような体の症状があるか回答します。

症状がある場合、追加で下記4つの質問に回答しプレゼンティーズムを評価します。

  • 仕事に一番影響を及ぼす健康問題
  • 過去3か月で何日間症状があったか
  • 症状があるときの仕事量
  • 症状があるときの仕事の質

これら4つの質問に10段階で答えることで、プレゼンティーズムの評価を行います。QQmethodは無料で利用可能です。

参考:経済産業省 企業の「健康経営」ガイドブック

 

プレゼンティーズムのコスト換算の方法

プレゼンティーズムの測定後、具体的な損失額を算出する場合にはコスト換算をする必要があります。

プレゼンティーズムの測定結果をもとに、コスト換算する方法は下記のとおりです。

・労働生産性損失額(円)=

プレゼンティーズム損失割合(各指標で計算した損失割合(%))×平均賃金(円)×従業員数

コスト換算をすれば、プレゼンティーズムの損失がはっきりとわかります。

また施策実施前と実施後で算出すれば、健康投資が労働生産性にどれくらい効果があったか検証できます。

定期的に算出し、より効果的な健康投資をおこなってください。

 

プレゼンティーズムを改善するためのポイント

プレゼンティーズムの測定を行い、改善が必要と判断した場合には、プレゼンティーズムの要因を減らしてください。

代表的な要因としては「運動器・感覚器障害(腰痛、肩こり、頭痛、眼精疲労など)、メンタルヘルス不調、心身症」があります。ここからは改善のポイントを4つ紹介します。

 

オフィス環境を見直す

快適なオフィス環境は運動器・感覚器障害やメンタルヘルス不調の改善、心身症の予防・改善に効果的です。

次の観点からオフィス環境を整備し、従業員が健康で働くための習慣を促してください。

  • 什器、レイアウトなどの空間面(人数に合わせて適切な距離感を保ったデスク配置、作業しやすい動線設計など)
  • 照明、空調などの設備面(目の負担が少ない照明の設置、自然光の採り入れ、快適な温度設定など)
  • ICT、インフラなどの情報面(リモートワーク環境の整備、Web会議の導入、社内研修の整備など)
  • 制度、ルールなどの運用面(取得しやすい休暇制度の導入、健康的な食事の提供など)

またオフィス内に緑を取り入れることで、ストレス軽減や視覚疲労の緩和効果が期待できます。

リモートワークでも働く環境は重要です。インターネット環境やDX環境が整わない状況では、ストレス増加や生産性低下につながります。

企業側から環境整備のポイントを案内したり、必要であれば企業から機材を貸与したりといった対策の検討が必要です。

 

コミュニケーション機会を増やす

従業員同士のコミュニケーションが増えることでメンタルヘルス不調や心身症の予防につながります。

下記のような方法でコミュニケーション機会を増やしましょう。

  • フリーアドレス制のワークスペースを設置し、従業員同士の会話を促す
  • 落ち着いたミーティングスペースを設置し、少人数での共同作業を促す
  • 1対1の面談スペースを設置し、日頃から気軽に相談ができる環境を整える
  • フリースペースを設置し、セミナーや社内行事に活用する

またパーテーションなしのスペースを作るなど、気軽に声をかけ合いやすい環境作りも効果的です。

近年はオンライン化が進み、従業員同士のコミュニケーションが減少しがちです。

コミュニケーションツールや社内イベントの企画など、従業員同士がお互いの理解を深めるきっかけづくりも大切です。

 

休憩や気分転換を促す

リラックスルームや談話室などを設置し、従業員が気軽に休憩や気分転換を行えるよう促すことも重要です。意識的に休憩や気分転換をするよう声掛けを行い、セルフケア意識を高めてください。

また体調不良を感じたとき、遠慮なく取れる休暇も大切です。女性の場合、企業側が生理休暇を充実させることも必要です。

早めに休暇を取ってしっかりと休むことで、プレゼンティーズムの予防につながります。

 

体を動かす習慣をつけてもらう

運動習慣は生活習慣病の予防や改善だけでなく、メンタルヘルスにおいて非常に重要です。

企業側が運動を促し、体を動かしやすい環境作りに取り組んでください。

  • ミーティングの合間に声かけをして座りっぱなしを予防する
  • 休憩時間にストレッチやラジオ体操を行う
  • 階段を使うよう促す
  • 運動会などイベントを開催する
  • 社内でウォーキングイベントを行う

有酸素運動はうつ病や不安気分の改善に有効だとされており、ウォーキングなど低強度の運動でも効果的です。

また社内で運動を促すことで従業員同士の会話が生まれ、コミュニケーション増加に役立ちます。

気軽に取り組める運動を習慣化し、健康維持につなげてください。

出典:㈶宮城県成人病予防協会 運動によるうつ病・うつ状態の予防に関する基礎知識

 

まとめ:プレゼンティーズム損失率を計測し、危機意識を持つ

プレゼンティーズムによる損失は目に見えないからこそ、プレゼンティーズムを測定して改善に取り組むことが重要です。

まずはプレゼンティーズムを可視化して、自社の状況を把握することから始めてください。

プレゼンティーズムの測定には、質問数が少なく手軽に測定可能なSPQ(東大1項目)がおすすめです。

またプレゼンティーズムを改善し従業員の健康のため企業として取り組みたい場合、運動習慣化を促すKIWI GOがピッタリです。

運動習慣を身につけることは、プレゼンティーズムの改善にも役立ちます

KIWI GOでは歩数に応じてコインが貯まり、貯まったコインはごほうびに変換できます。

さらにウォーキングイベントを簡単に開催できたり、同じ趣味の仲間で集まれたりと、コミュニケーションの機会増加につながる機能も満載です。

運動習慣を促すことからプレゼンティーズムを改善したいと考えている企業は、ぜひ前向きに導入を検討してください。