企業による健康経営が推進される中、施策の一つとしてワークライフバランスの実現に注目が集まっています。ワークライフバランスは職場の活性化に影響するもので、業績向上にも効果的です。
しかし「業務に追われなかなか施策を実行できない」「具体的な方法がわからない」と悩む担当者は多いでしょう。
そこで本記事では、ワークライフバランス実現のために大切なことを具体的な事例とともに紹介します。取り組みが企業にもたらす効果も解説するため、健康経営推進の参考にしてください。
目次
健康経営が注目される背景
健康経営とは、企業が従業員の健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践することをいいます。
健康経営に関する理解を深めるため、まずは昨今健康経営が注目されるようになった背景を解説します。
少子高齢化による人口減少
日本の高齢化率は進展し、2060年には38.1%に達すると推計されています。
さらに人口は今後100年間で100年前の水準まで減少する可能性が高く、働き手不足の問題も深刻です。
就労世代の活力向上や健康寿命の延伸が必要となることから、従業員の健康に注目が集まっています。
働き方や人材の多様化
厚生労働省によると、性別や年齢、雇用形態などのさまざまな観点から企業の内部人材の多様化は進展しています。
そうした動きから、健康経営により治療を受けながら働く人や女性特有の病気などへの理解を深め、多様化に対応することが大切です。
ワークライフバランスとは
健康経営の効果的な実践にはワークライフバランスの取り組みが重要です。ここではワークライフバランスの概要や健康経営との関連性について解説します。
ワークライフバランスの概要
ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を意味する用語です。現代では仕事と生活の間で問題を抱える人が多く、健康への悪影響や将来不安の大きな要因となっています。
一人ひとりが望む生き方を実現させるためにも、ワークライフバランスへの取り組みは不可欠です。
ワークライフバランスで実現される社会
内閣府が策定した憲章では、ワークライフバランスの実現によって目指すべき社会を以下のとおり定めています。
- 就労による経済的自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方・生き方が選択できる社会
ワークライフバランスを向上させることで、やりがいや充実感を抱き仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活においても人生の各段階に応じた生き方が選択・実現できます。
参考:内閣府 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章
社会の中で活動する一企業として、ワークライフバランス向上の必要性が高まっています。
健康経営におけるワークライフバランスの重要性
ワークライフバランスは仕事と生活を別々で考えるのではなく、相互に影響を与えて人生を充実させる考え方です。企業として従業員の多様な価値観を尊重し、一人ひとりが十分に能力を発揮できるような働き方を整備してください。
なおWHOの定義によると、健康とは「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」です。
ワークライフバランスの実現は広義において従業員の健康に繋がるため、健康経営の実践に有効な取り組みといえます。
日本におけるワークライフバランスの現状
日本は労働時間や仕事内容に関する決定権などで計られる指標「仕事上の重荷」や「労働生産性成長率」において、OECD平均を下回っています。
また女性の労働参加に関するOECD加盟国との比較でも、日本では30歳以上の年齢階層において労働参加率の低下傾向が見られます。
上記データより仕事の裁量度や柔軟性の低さが仕事と生活の両立を困難にしているといえます。
中央大学大学院教授の佐藤博樹氏によれば、ワークライフバランス向上や健康経営に必要なのは、従業員が残業時間の裁量を自ら判断できるような働き方への転換だとしています。
参考:HRpro ワーク・ライフ・バランスの向上が「健康経営」を、ヘルスリテラシーへの理解が「女性活躍」を促進させる
企業として仕事の裁量度や柔軟性を高めることで、従業員の生活をさらに充実させてください。
ワークライフバランスに取り組むメリット
健康経営の推進には、従業員のワークライフバランス実現が必要です。ここでは、ワークライフバランスに関連する取り組みが企業に与えるメリットを解説します。
参考:内閣府 企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット(概要版)
従業員の健康増進
ワークライフバランスを重視する企業は、従業員の健康に対する投資を積極的に行います。
適切な休息時間の確保により長時間労働が改善されることで、感染症の罹患者や生活習慣病患者の減少に繋がります。
離職率の低下
ワークライフバランスへの取り組みにより従業員の多様なニーズに対応することで、満足度は向上し離職率が低下します。
仕事と生活の調和が実現できる環境であれば長く働きたいと考え、企業への愛着心や貢献意識が高まるからです。
育児や介護など自社で離職が多くなる要因や傾向を把握し、手厚い支援をしてください。
経験やスキルの蓄積
ワークライフバランス実現のためには、従業員が仕事以外の活動や趣味などに時間を割けるような環境整備が大切です。従業員が多様な経験やスキルを習得すれば、業務における創造性を高められます。
企業成長のためにも、定着率の向上とともに経験やスキルの蓄積は不可欠です。
職場の活性化
ワークライフバランスが実現された従業員は意欲的に仕事に取り組むため、周囲の従業員の業務見直しや若手の育成が進みます。
職場でワークライフバランスを推進することで、業務代替による助け合いの意識が形成されチームワークの向上効果も期待できます。
生産性の向上
ワークライフバランスに取り組めば短時間で効率的に働けるようになり、時間管理能力が向上します。さらに離職率低下による採用・教育コストの削減や、残業時間の短縮による人件費や光熱費などの削減にも繋がります。
企業イメージの構築
ワークライフバランス推進企業は、社会的責任を果たす企業としてのイメージを構築できます。PR効果によりステークホルダーにも好印象を与えられるため、企業の信頼性と競争力を高めるうえでワークライフバランスへの取り組みは不可欠です。
ワークライフバランスへの取り組みにおける重要点
ここではワークライフバランス実現に向けた効果的な取り組みを行うために、おさえておきたい重要点を解説します。
参考:内閣府 社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集
経営層が積極的な姿勢を示す
ワークライフバランスの取り組みを促進するには、経営層の理解と積極的な姿勢が重要です。企業が経営戦略として本気で取り組むことで、従業員にもワークライフバランスの必要性が浸透します。
取り組みの意義や目標を社内外に向けて繰り返し発信してください。
管理職が率先して実践する
各職場でワークライフバランスの取り組みが定着するかどうかは、管理職の理解度や行動力に関わります。管理職自らが効率的に働かなければ、従業員のワークライフバランス実現は困難になります。
管理職は育児・介護休業や特別休暇を率先して利用するなどして、プライベートを充実させる姿勢を見せてください。
コミュニケーションを活発化させる
コミュニケーションの活発化により互いのプライベート事情や担当業務の状況について理解が進めば、業務量の調整や休暇取得の促進に役立ちます。
オフィス環境の見直しや社内イベントの開催、部活動などの社内コミュニティ発足などで従業員同士の関わりを増やしてください。
休養を仕事の成果に繋げる
残業の慢性化や休暇取得率の低さが課題となっている場合、休養が仕事の成果に繋がることを根気強く伝えてください。家族や友人と余暇を楽しんだり、自己啓発に励んだりすることで仕事のパフォーマンスは向上します。
企業がノー残業デーなどの制度を設ければ、業務の効率化に取り組むきっかけとなります。
休養が仕事に良い影響を与えていると実感できれば、ワークライフバランスへの理解も高まるでしょう。
取り組みの効果を可視化する
ワークライフバランスの取り組みは長期的に行うものであり、短期間では効果が見えにくい側面があります。モチベーション維持のため、取り組み効果の継続的な可視化と共有を実施してください。
目標の達成状況をこまめに把握しつつ、好事例の表彰を行えば従業員自らがワークライフバランス実現を楽しめる環境が生まれます。
ワークライフバランスの取り組み事例
ここからはワークライフバランスに関する企業の具体的な取り組み事例を紹介します。
事例を参考に、自社の現状に合わせて無理なく取り組めるものから始めてください。
住友生命保険相互会社
出典:住友生命保険相互会社
住友生命保険相互会社が展開する「人財共育」は顧客や社会、従業員のウェルビーイングに注力した取り組みです。総合職でも転勤しない働き方を含む3つのキャリアコースを用意し、毎年100人近くが希望に沿ったキャリアコース変更を行っています。
また「ファミリーサポート転勤制度」で、配偶者の転勤や親の介護などで転居を希望する従業員に向けた柔軟な転勤制度を用意しています。
労働時間削減に関しては、完成度20%で上司に方向性を確認し80%で提出する「20%スタート・80%クロージング」に取り組んでいます。取り組みの実施により、2021年度の総労働時間は2016年度に比べて11.2%削減されました。
参考:内閣府 多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組に関する調査(事例集)
株式会社スープストックトーキョー
株式会社スープストックトーキョーでは公休や有給休暇とは別に取得できる「生活価値拡充休暇」を創設し、年間120日の休日・休暇を確保しています。
さらに他部署での体験や社外での複業などを推進する「ピボットワーク制度」により、増えた休日の効果的な利用も可能です。
また「セレクト勤務制度」では時短勤務の事由として、育児だけでなく自己研鑽も対象としています。
取り組みの効果は、離職率低下や従業員満足度調査での高評価に表れています。
参考:内閣府 多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組に関する調査(事例集)
株式会社OKUTA
出典:株式会社OKUTA
株式会社OKUTAが実施している「パワーナップ制度」は勤務時間内の仮眠を推奨し、従業員がいきいきと働ける環境づくりに取り組む制度です。効果的な休息を取り入れることで業務効率を向上させ、休息の大切さを伝えています。
またコアタイムなしで出社・退社時間を自由に設定できる「スーパーフレックス制度」では、土日祝日含めてフレックス制度の対象としています。制度により柔軟な働き方が実現されるため、プライベートの充実度が高まります。
さらに広範囲での移住を認める「ふるさとテレワーク制度」は現場監督者も利用し、現場のVR化により遠隔操作での業務を実現させています。
上記さまざまな取り組みにより株式会社OKUTAの残業時間は8%減少し、1人当たりの売上額は6%増加しました。
参考:内閣府 多様で柔軟な働き方推進に向けた企業の取組に関する調査(事例集)
まとめ:心身の健康とワークライフバランスは繋がっている
ワークライフバランスは、充実した人生を送るために欠かせない考え方です。従業員のワークライフバランスが実現すると、離職率低下や生産性向上に繋がり企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。
ワークライフバランスへの取り組みは健康経営の推進にも繋がるため、経営層から従業員まで重要性が浸透するよう効果的に実行してください。
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