働く従業員の健康のため、現在では企業にも積極的な喫煙対策が求められています。喫煙に関して発令されたはじめての法令は、1900年の未成年者喫煙禁止法です。
その後、喫煙に関する法整備は進み、2020年に健康増進法が改正されたことで室内喫煙の禁止、喫煙専用室設置などのルールが義務化されました。
このような背景から、健康経営においても受動喫煙対策は非常に重要といえます。
本記事では、受動喫煙による影響や企業が実施すべき受動喫煙対策について解説します。
受動喫煙を予防し、従業員が健康に過ごせる環境を作りましょう。
目次
受動喫煙対策や喫煙対策の必要性
受動喫煙対策は、従業員等の健康管理を経営的な視点で捉える健康経営において非常に重要です。
ここからは健康経営における喫煙対策の必要性について、データに基づいて解説します。
参考:経済産業省 健康経営とは
参考:経済産業省 健康経営の推進について
習慣的に喫煙している人は16.7%
健康増進法の改正により、現在は喫煙ルールが厳しくなっています。しかし喫煙が習慣となっている方は、少なくありません。
厚生労働省が行った調査によると、令和元年時点で習慣的に喫煙している人は16.7%です。
参考:厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要
性別ごとに見ると、喫煙している人は男性で27.1%、女性で7.6%です。
喫煙をしている人の割合は減少傾向ではあるものの、下げ止まり傾向にあるといえます。
今後さらに喫煙者を減らしていくためには、会社を含めた周囲の協力が大切です。
非喫煙者が受動喫煙に遭遇する場所の28%が職場
厚生労働省が実施した調査では、職場での受動喫煙リスクが高いと明らかになりました。
非喫煙者が受動喫煙に遭遇する場所のうち、28%が職場です。
受動喫煙のリスクが高い場所としては飲食店36.9%、路上30.9%、遊技場30.3%があり、職場は比較的リスクの高い場所といえます。
国民の約8割以上は、非喫煙者です。リスクの高い職場において受動喫煙対策を行うことは、非常に重要です。
健康経営の評価を受けるうえで重要
健康経営への取り組みを評価する健康経営銘柄、健康経営優良法人(大規模部門)制度においては、受動喫煙の防止や禁煙の促進が評価項目に入っています。
健康経営に関わる認定を目指す場合、喫煙への積極的な対策が必須です。
禁煙を呼びかけるだけでなく、適切な設備を導入し制度面でもサポートしてください。
参考:経済産業省 健康経営銘柄2022選定要件及び健康経営優良法人2022認定要件
受動喫煙が健康にもたらす影響
受動喫煙は、がん・循環器疾患・呼吸への急性影響・慢性呼吸器疾患などの要因となり得ます。
厚生労働省の資料のなかでは、受動喫煙によって起こり得る影響をレベル別、疾患別に紹介しています。
- レベル 1:科学的証拠は,因果関係を推定するのに十分である
- レベル 2:科学的証拠は,因果関係を示唆しているが十分ではない
- レベル 3:科学的証拠は,因果関係の有無を推定するのに不十分である
- レベル 4:科学的証拠は,因果関係がないことを示唆している
レベルの数が少ないほど、受動喫煙と疾患に高い関連があります。
例えば、肺がんに関しては、レベル1の関連度です。乳がんおよび鼻腔・副鼻腔がんはレベル2と示されており、がん種ごとに影響は異なります。
また成人の循環器疾患はレベル1とされており、高い関連が見られます。
受動喫煙による健康への影響は、科学的にも明らかです。従業員の健康のためには、受動喫煙対策も重要です。
参考:厚生労働省 喫煙と健康
職場の受動喫煙を防止するための取り組み
2020年4月1日に健康増進法の一部が改正され、企業における受動喫煙対策が義務化されました。受動喫煙対策充実のため、2019年7月には厚生労働省により新ガイドラインが策定されています。
ここからはガイドラインをもとに、受動喫煙への取り組み方法を紹介します。
受動喫煙対策のための組織づくり
本格的な受動喫煙対策には場所や費用が必要であるため、個人で進めるのは困難です。
職場における受動喫煙対策では、まず組織作りを行うことが大切です。
組織を作るうえでは、次の内容を参考としてください。
- 推進計画の策定:事業者は受動喫煙防止策を推進するための計画を策定する
- 担当部署の指定:受動喫煙防止策を実施していくための部署や担当者を指定する
- 従業員の健康管理等:受動喫煙防止対策の実施状況に留意する
- 標識の設置・維持管理:喫煙専用室や指定たばこ専用室など、喫煙できる場所に必要な事項を記載した標識を掲示する。また標識の維持管理を行う
- 意識の高揚および情報の収集・提供:受動喫煙による健康への影響について従業員に伝え、意識を高める
- 受動喫煙対策の明示:屋内全面を禁煙にする、喫煙したい場合は特定屋外喫煙場所、喫煙専用室等を利用するなどのルールを伝える
参考:厚生労働省 令和元年7月1日 職場における受動喫煙防止のためのガイドライン
本格的な対策では、推進計画の策定と担当部署、担当者の指定が特に重要です。強固な組織を作ってから、具体的な取り組みについて話し合ってください。
喫煙専用施設を設置する際の工夫
ガイドラインでは、喫煙専用施設に工夫を施すことで受動喫煙対策につなげる方法が紹介されています。喫煙専用施設を設置する際は、以下のような内容も考慮してください。
- 設置場所:就業する場所や人の往来が多い場所を避ける。また、空気調和設備(エアコンディショナー)を採用する場合には、排気口の出口を確認し、建物全体にたばこの煙が拡散しないよう注意する
- 喫煙専用室の扉について:のれんやエアカーテン等を設置し、外部に煙が流出するのを防ぐ。人が出入りするときのみ扉を開放する場合、給気口を扉や開放時に遮られる側壁に設置する、スライド式の扉を設置するなどの対策で、開閉時の空気の乱れを抑える
- 喫煙専用室の構造:喫煙専用室の形は、長方形であると同時に入り口と屋外排気装置が相対となっていることが理想。効率的に換気できる作りに仕上げる
- 喫煙専用室の屋外排気が困難な場合、以下の要件を満たす脱煙機能を設定する
・扉を開放した状態の開口面において気流 0.2 メートル毎秒以上を確保
・総揮発性有機化合物の除去率95%以上
・当該装置により浄化され、室外に排気される空気における浮遊粉じんの量が 0.015mg/㎥以下
参考:厚生労働省 令和元年7月1日 職場における受動喫煙防止のためのガイドライン
喫煙専用施設を設置しても、煙が漏れてしまうと受動喫煙の防止効果が薄れてしまいます。ガイドラインの基準を参考として、外部にたばこの煙がもれないよう工夫してください。
従業員の喫煙率を低下させた企業の取り組み事例
ここからは従業員の喫煙率を低下させる企業の取り組み事例について解説します。
ロート製薬株式会社
出典:ロート製薬株式会社
ロート製薬では従業員の卒煙をサポートするため、次のような取り組みを実施しています。
- 2007年:事業所内・事業場内での全面禁煙を開始
- 2018年:卒煙推進イベントとして「卒煙ダービー」を開始
- 2019年:「ノースモーキング手当や卒煙手当」の支給を開始
卒煙ダービーは卒煙意向のある従業員がエントリーし、3か月に渡って卒煙に取り組む活動です。
その他の従業員は参加者1名を選択して励まし、社内が一体となって取り組みます。
また健康的な生活習慣や行動によってコインが貯まる「健康社内通貨 ARUCO(アルコ)」も導入しました。
貯まったコインは健康的な食事やリフレッシュ体験などさまざまなサービスに利用できるため、禁煙のモチベーションを高められます。
取り組みの結果、2004年に28.7%だった喫煙者の割合は2020年時点で0.1%まで減少しました。
ロート製薬は効果を出した企業として禁煙推進企業コンソーシアムにも参加し、取り組みをさまざまな企業に発信しています。
株式会社エムステージホールディングス
エムステージでは従業員喫煙率を2022年度までに10%以下にすることを目標に、卒煙に向けた取り組みを実施しています。
- 受動喫煙対策の実施:就業時間内の禁煙を規定化
- 禁煙治療費用の補助:禁煙外来や禁煙治療にかかる費用を年2万円を上限に支給
- たばこに関する知識提供:禁煙セミナーを開催したばこに関する知識を継続的に提供
- 禁煙を応援する風土作り:「禁煙チェレンジ宣言」を周囲に行い、皆で共有し応援する
- 非喫煙者に向けた制度作り:非喫煙者に対してもインセンティブを付与
禁煙治療に対する費用補助のほか、たばこと健康に関する知識の提供も含め総合的に支援を行っているのが特徴です。取り組みの結果、エムステージでは2022年度における従業員喫煙率8.3%を達成しています。その他健康への取り組みも評価され、4年連続で健康経営優良法人に認定されています。
参考:株式会社エムステージホールディングス 禁煙支援で従業員喫煙率8.3%へ
喫煙対策に取り組む際の注意点
喫煙対策の効果を高めるには、注意すべきポイントもあります。トラブルを防ぐため、ここからは喫煙対策に取り組む際の注意点を3つ紹介します。
従業員の理解を深めたうえで実施する
喫煙に関連する取り組みを実施するなかでは、従業員の行動を変える必要があります。
対策実施の際は、従業員に取り組みの効果や意義を理解してもらわなければいけません。いきなり対策を進めると、コンビニや小売店など近くの施設で喫煙する従業員が現れる可能性があります。
大人数になれば列ができ、近隣住民や店の迷惑になるケースもあります。
また近くに喫煙できる場所がないと、一部の従業員はルールを破ってでも喫煙してしまう可能性があり、企業のイメージ低下につながりかねません。
また喫煙できる環境がなくなることで、離職を検討する従業員も少なくありません。喫煙対策は必要ですが、強引な取り組みは避けましょう。
取り組みを実施する際は、健康に関するセミナーを実施する、楽しく取り組みを続けられる制度を用意するなどの工夫が必要です。
社長・役員が率先して取り組みを実行する
経営に関わる社長や役員が喫煙者の場合、従業員に禁煙を勧めても効果が薄れてしまいます。
従業員のやる気を高めるためには、経営陣が率先して禁煙に関する取り組みを実施することが大切です。
社長・役員が本気で喫煙対策に取り組んでいる姿勢が従業員に伝われば、従業員の意識も変わります。
また実際に、喫煙対策をしていって変わったことなどを従業員に伝えていくことも効果的です。
逆スモハラを行わない
スモハラとは喫煙者が非喫煙者に喫煙を強要したり、たばこの煙で不快な思いをさせたりする行為です。
一方、現在では禁煙を促進する社会の流れがあることから「逆スモハラ」が起こる可能性もあります。
逆スモハラは非喫煙者が喫煙者に禁煙を強要したり、たばこを吸う行為について嫌がらせをしたりすることを指します。
禁煙するかしないかは個人の自由であるため、喫煙している従業員に禁煙を強要することはできません。
喫煙対策を実施する際は逆スモハラの問題についても周知し、トラブルを防ぐことが大切です。
受動喫煙防止対策助成金の活用
受動喫煙防止対策助成金は喫煙室の設置などにかかる経費(工費・設備費・備品など)の3分の2(主たる業種の産業分類が飲食店以外は2分の1)について、上限100万円まで助成する制度です。
助成金支給には労働災害補償保険の適用事業主であること、下記のような中小企業事業主であることが条件です。
受動喫煙防止対策助成金を利用すれば、取り組みの実施にかかる費用を軽減できます。
助成金をうまく活用し、受動喫煙対策を前向きに進めてください。
まとめ:喫煙への取り組みを実施し健康経営を促進させることが大切
従業員の健康のため、喫煙対策、受動喫煙対策は必要不可欠です。経営陣が率先して喫煙への取り組みを実施し、健康経営を促進させてください。
また健康維持のため、喫煙対策とともに取り組みたいのが運動習慣の構築です。
運動で生活習慣病を予防できるほか、メンタルヘルス不調も防げるため従業員の運動不足にお悩みなら「KIWI GO」の活用が効果的です。
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