健康経営を進めるうえで、産業医は欠かせない存在です。
しかし産業医の活用を健康診断後の指導だけで終わらせる状況では、効果的な健康経営を実施することは難しいでしょう。
産業医は医学的な専門知識を持ち、従業員の健康管理や職場環境の改善に関して助言ができる存在です。
健康診断後の指導に加えて、職場のストレスや労働負荷の適正化、適切な安全対策の導入など職場環境について広く相談できます。
本記事では健康経営におけるパートナーとしての産業医の役割について、健康で生産的な職場を築くための産業医の活用方法などについて解説します。
目次
産業医とは
産業医とは、「事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師」です。
日本では労働安全衛生法に基づき、50人以上の従業員を雇用する事業場は産業医を選任し、従業員の健康管理を行うよう義務付けられています。
産業医は労働衛生や職場環境について豊富な知識を持ち、職場環境の改善という観点からも重要な役割を果たす存在です。
従業員一人ひとりの健康状態を把握して労働環境の改善や必要な健康管理の提案を行うことで、従業員の健康維持と生産性の向上に繋がります。
いわば、産業医は従業員の健康を支え、企業の生産性を高める重要なパートナーといえるでしょう。
健康経営を促進するうえでは、産業医の知識と経験を十分に活用することが非常に重要です。
参考:日本医師会 全国医師会産業医部会連絡協議会 (sangyo-doctors.gr.jp) 産業医とは
健康経営を促進する産業医の役割
産業医は医学的な立場から、労働者の健康保持・増進や職場環境の改善などについて助言できる存在です。
ここでは健康経営の視点を含め、会社における産業医の役割を7つ解説します。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
1.健康診断の実施と結果に基づく対応
健康診断は従業員の健康状態を把握し、早期に健康問題を発見するための重要な手段です。
しかし、健康診断は実施することだけが目的ではありません。
健康診断の結果から、従業員が就労できる健康状態であるかを確認することが主な目的です。
産業医は健康診断の結果を解釈し、具体的な健康管理を提案します。
健康上の課題があり現行の就労が難しいと産業医が考える場合、従業員の働く環境を見直すきっかけとなるでしょう。
定期的な健康診断は、生活習慣病の予防と治療の契機です。
産業医の知識を活かしてもらい、医療機関への受診勧奨や保健指導などの対応をしてもらうことが健康経営に繋がります。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
2.治療と仕事の両立支援
厚生労働省の調査(平成24年)では、病気を抱えながらも就労を続けたいと希望する労働者は92.5%にも上り、現在就労していない人でも70.9%が働きたいと希望しています。
この調査から、病気の治療と就業の両立を希望する働き手は多いといえます。
治療と仕事を両立する場合も、産業医の専門的な意見が重要です。
治療を行っている従業員がいる場合、産業医との面談により専門的な見地から就業の可否や適正な配慮の必要性について具体的なアドバイスを受けることができます。
参考:厚生労働省委託事業 治療と職業生活の両立等の支援対策事業
3.ストレスチェック制度の実施
現在、一定規模以上の企業ではメンタルヘルス対策の一次予防を促進する目的でストレスチェックの実施が義務付けられています。
そして産業医は、ストレスチェック制度における実施者の役割を担うことが望ましいとされています。
ストレスチェックによりストレスが高いと判断された従業員が申し出た場合、医師による面接指導が必要です。
会社の状況を理解した医師が面接指導の役割を担えば、より的確なストレス軽減施策に繋がります。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
4.長時間労働者への対応
産業医は、過重労働による健康障害防止のための指導も行います。
長時間労働は心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、産業医の専門的な視点からのアドバイスが重要です。
会社のリスク管理の観点からも、長時間労働の従業員に対する「健康リスクの評価と対策」について産業医と相談してください。
5.職場巡視
産業医が職場巡視をする目的は大きく分けて、次の2つです。
- 健康な従業員が、会社で働くことにより健康状態を悪化させないようにすること
- 病気を持っている従業員が、会社で働くことによりその病気を悪化させないようにすること
産業医は職場全体を巡視し、職場環境の改善点を見つけ出す役割を担います。
職場の状況を積極的に産業医に開示すれば、職場環境全体に関する適切な改善策の提案を受けることが可能です。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
6.衛生委員会への参加
衛生委員会とは、従業員の健康を保護すると共に、職場環境を改善する重要な組織です。
産業医は衛生委員会にメンバーとして参加できるため、健康管理体制や職場環境、働き方について医学的な立場からアドバイスをもらうことが可能です。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
また産業医が委員会に参加することで、事業場の活動状況や課題に関して産業医に理解してもらうきっかけとなります。
7.健康情報の管理
産業医には従業員の健康情報を適切に取り扱い、情報に基づいたアドバイスを提供する役割があります。
例えばAという従業員の血圧が高いという情報が産業医のもとに届いた場合、その情報は厳密に管理されます。
従業員の同意がない場合、人事部門や上司には具体的な疾患名を明らかにしない状態で職場改善のアドバイスを行います。
情報の適切な管理方法を理解している産業医がいれば、企業は従業員に対して必要な配慮を行いつつ、個々のプライバシーを守ることが可能です。
参考:厚生労働省委託事業 治療と職業生活の両立等の支援対策事業
産業医が健康経営にもたらす効果
産業医は従業員の健康を保全し、職場環境を最適化することで健康経営の実現をサポートします。
ここでは、産業医が健康経営にもたらす効果を3つ紹介します。
1.組織体制を強化し効果的な施策を策定できる
産業医がいることで、組織として健康施策をより精緻に検討できるようになります。
産業医は医学的な専門知識と企業の健康問題に対する独自の知識を持つ存在です。
企業ならではの事情を理解しているため、企業が抱える健康課題を特定し、解決するための具体的な計画作成のサポートを行います。
例えば、従業員の過度なストレスが問題となった場合、産業医はストレスチェックを行い、ストレスを減少させるための教育プログラムやカウンセリングを推奨します。
生活習慣病などの健康問題の場合は、より健康的な食事を選択するための講習会や、定期的な運動習慣を推奨するプログラムの導入について助言が可能です。
さらに産業医は健康診断の結果を解析し、従業員の健康状態の全体像を把握できます。
さまざまな産業医のサポートがあれば、組織に最適な施策が策定され従業員の健康と生産性向上、そして組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。
2.確実な健康施策の実行とリスクマネジメントの強化
産業医は定期健診やストレスチェックの実施に関して、労働基準法や労働安全衛生法の知識を持ち医学的な視点からアドバイスを提供できます。
そのため、産業医がいれば、義務化された健康に関する制度もより確実に実施できるでしょう。
また産業医が従業員の健康課題を正確に把握すれば、病気による突然の退職や職場環境の悪化、プレゼンティーイズムなどのリスクを適切にマネジメントできます。
産業医によるサポートがあれば従業員が長く健康に働けるようになり、生産性を高めるための戦略的な取り組みに繋がります。
3.産業医と企業の協力による健康経営の推進
健康経営の成功において、企業が産業医と積極的に協議して健康経営の目標やニーズに基づいた要望を具体的に伝えることが重要です。
企業が求めるニーズは健康診断後の面談、メンタルヘルス対策、がん等の治療と仕事の両立支援、長時間労働者や高ストレス者に対する面接指導など多岐に渡ります。
企業規模が大きくなるにつれて面談が必要な労働者が増え、産業医の活動時間も増えます。
効率的に健康管理を行うため、事前に具体的な要望や業務の進め方、必要な活動時間などを産業医と共有し、方針をすり合わせたうえで健康管理を進めてください。
産業医と共同で行うべき活動の例は、次の通りです。
- 現状課題・改善点の洗い出し、事業場としての取り組み意向の確認
- 今後の取り組み方針と具体的な方策についての検討
- 取り組み方策に関するマニュアルのとりまとめ
また、具体的な事例には次のような活動があります。
- 労働安全衛生法の遵守や健康経営の観点から、会社として取り組む意義を整理
- 会社の支援方針と共に、従業員として心がけるべきことを整理し、全社で共有
- 定期健診断後のフォローの仕組みを検討
- 休職者に対して配布する「療養の手引き」を作成
- 復職判断のための主治医との情報共有のための様式を検討
企業によって、抱える健康課題や職場環境は異なります。
まずは社内に潜む従業員の健康リスクについて、産業医と一緒に話し合うことが重要です。
参考:厚生労働省 治療を受けながら安心して働き続けることができる職場づくり
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構 中小企業事業者のために産業医ができること
まとめ:産業医と健康経営を進めることで施策の効果はさらに高まる
健康経営を実施するうえで、産業医の存在は必要不可欠です。
産業医は科学的知見から従業員の健康を保ち、企業全体の生産性の向上に寄与する存在です。
会社の事情を知る産業医がいれば企業はより効果的な健康経営の施策の立案と実施が可能になり、健康経営は効率的に進むでしょう。
しかし企業の施策を効果的に上げるためには、個々の従業員の健康意識と生活習慣を高めることも重要です。
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