社員の健康診断は、労働安全衛生法によって定められた企業の義務です。
しかし健康診断にはさまざまな種類があり、どの検査項目を実施すればよいか悩む担当者は少なくありません。
健康診断にはいくつかの種類とそれぞれに決められた検査項目があり、仕事の内容によって必須となる項目が異なります。
当記事では会社が行うべき健康診断の内容について、義務化されている内容や検査項目、注意点を紹介します。会社として、正しい健康診断を実施するための参考にしてください。
目次
社員の健康診断は企業の義務
労働安全衛生法66条により、社員の健康診断は義務化されています。健康診断を実施するため、健康診断の費用や対象範囲を紹介します。
健康診断に関わる費用
依頼する医療機関や診断内容によって異なりますが、健康診断に必要な費用は従業員1人あたり約10,000〜15,000円です。
健康診断に必要な費用は、基本的に会社が負担します。しかし健康診断に関するすべての費用が会社負担になるわけではありません。
診断後に任意の再検査を実施する場合、義務化されていない検査項目を希望する場合(人間ドックや胃カメラなどオプション検査)の費用は従業員が負担するのが一般的です。
ただし産業医や会社の判断で追加検査を実施する場合、会社が費用を負担します。
健康診断の対象となる従業員
正社員・契約社員・パートなど、会社にはさまざまな雇用形態の方がいます。
一般健康診断の場合、健康診断の種類によって対象となる労働者の範囲は異なります。
出典:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう(P1)
『常時使用する労働者』は、対象の法律によって定義される内容が異なります。
労働安全法における「常時使用する労働者」とは、以下の項目いずれかに該当する人を示します。
- 期間の定めのない契約で働いているもの
- 期間の定めがある場合は契約により1年以上使用が予定される者
- 同種の業務に従事する労働者の1週間の所定労働時間数が通常の労働者と比べ4分の3以上である者
参考:厚生労働省 東京労働局 Q16.一般健康診断では常時使用する労働者が対象になるとのことですが、パート労働者の取り扱いはどのようになりますか?
上記のとおり正社員・役職に関わらず1年を通じて常時雇用する場合は、すべて健康診断の対象です。
また3の条件を満たすパートや契約社員も、一定時間以上働いていれば対象です。
漏れなく健康診断を受けてもらいましょう。
ただし対象でないからといって、健康診断を受けなくてよいわけではありません。
法律的な義務はありませんが、ほとんどの企業で勤務時間の少ない方も健康診断の対象としています。
健康に長く働いてもらうため、従業員全員が健康診断を受診するのが理想です。
義務に違反した場合の罰則
労働安全衛生法の第六十六条では、健康診断における義務について記載されています。
健康診断に関して、企業に課せられている義務は次のとおりです。
- 医師による健康診断を行うこと
- 健康診断の結果の記録すること
- 健康診断の診断の結果から異常の所見がある場合の医師等からの意見を聞くこと
- 健康診断の医師からの意見によっては、必要な処置を行うこと
- 健康診断を受けた社員に対し、結果を通知すること
- 健康診断の結果から、特に健康の保持に努める必要がある社員に対し、保健指導等に努めること
- 医師による面接指導を行うこと
企業に定められた健康診断の義務に違反した場合には、50万以下の罰金が課せられます。
従業員が会社指定の医療機関で健康診断を受けなかった場合でも、診断結果を知らせる書面を会社に提出することが義務となっています。
健康診断をスムーズに受診できるよう、従業員が気軽に相談できる環境を整えましょう。
健康診断の種類
労働安全衛生法によって義務化されている健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断」の2種類があります。
目的や検査項目などが異なるため、それぞれ確認してください。
一般健康診断
一般健康診断は、健康診断が義務化されている従業員すべてに対して行う健康診断です。
一般健康診断には、以下のような種類があります。
- 雇入れ時の健康診断
- 1年に1回行う定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従業員の検便
出典:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
それぞれ検査実施のタイミングや検査項目が異なるため、「<h2>一般健康診断の診断項目</h2>」(記事内リンク)で詳しくチェックしてください。
特殊健康診断
特殊健康診断とは、労働安全衛生法で定められた有害業務に従事している方を対象に行う健康診断です。有害業務には、次のものがあります。
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 特定化学物質業務
- 石綿業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛業務
- 有機溶剤業務
- 粉じん作業
参考:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード 特殊健康診断
上記作業に従事している場合、雇入れ時もしくは有害業務への配置になった際、または6か月おきに健康診断を受けてもらう必要があります。
また特殊健康診断のなかには、じん肺法施行規則別表で定められた24の粉じん作業に従事した労働者に対して実施するじん肺健康診断があります。
実施が必要な時期は、就業時・ 定期(所見有りの場合:1年に1回、所見なしの場合:3年に1回)・離職時です。
詳しくは、厚生労働省のじん肺法で確認してください。
参考:厚生労働省 じん肺法
一般健康診断の診断項目
健康診断を実施する際には、漏れのない適切な診断を受けてもらうことが大切です。
ここからは実施が義務化されている一般健康診断の診断項目について、紹介します。
雇用時の健康診断
雇用時に必要な一般健康診断の診断項目は、以下11項目です。
- 既住歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長・体重・胸囲・視力・聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量と赤血球数)
- 肝機能検査(GOT,GPT,γ―GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
健康診断は、従業員個人で受ける形でも問題ありません。
しかし個人だと受診忘れ、検査漏れが起こりやすいことから、会社がまとめて医療機関に申し込む形がおすすめです。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
定期健康診断
定期健康診断に必要な一般健康診断の診断項目は、以下11項目です。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
- 肝機能検査(GOT,GPT,γ―GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
- 心電図検査
雇用時検査との違いは、医師の総合的な判断により以下の項目を省略できることです。
- 胸囲
- 胸部エックス線検査
- 喀痰検査
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 心電図検査
また胸部エックス線検査だけでなく、喀痰検査が必要になる点も違います。
一般健康診断としっかり区別することが大切です。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
特定業務従事者の診断項目
特定業務従事者とは、以下14種類の業務に関わる従業員です。
- 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに 準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
- 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
上記の業務を行う従業員には、6か月以内に1回または配置替えの際に必修項目の健康診断を実施しなければなりません。
特定業務従事者が行う健康診断の必修項目は、定期健康診断と同様です。
医師の総合的な判断によって、定期健康診断と同様の検査項目の受診を免除できます。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
海外派遣労働者の診断項目
労働安全衛生規則第45条の2に基づき、6か月以上海外に派遣される労働者については、派遣前や帰国後の健康診断が義務付けられています。
健康診断内容は、定期健康診断と同様の項目です。
ただし帰国時には医師の判断によって、以下の項目が追加される場合があります。
- 腹部画像検査
- 血中尿酸値
- B型肝炎ウィルス抗体検査
- ABO式、RH式血液型検査
海外でも事業を展開している場合、忘れないようにしてください。
給食従業員の診断項目
事業場附属の食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者に対しては、検便による健康診断が義務付けられています。
雇入れ時や業務の配置替え時の際、検便による健康診断を行います。
検便の診断により、伝染病保菌者でないことを確認します。
参考:安全衛生情報センター 労働安全衛生規則第一編第六章健康の保持増進のための処置
特殊健康診断の診断項目
特殊健康診断による診断項目は業務によって異なるため、間違えないよう確認することが大切です。
一部業務の診断項目の例
特殊健康診断の必修診断項目は、従事する業務内容によって違います。
例えば鉛を取り扱う業務に従事する人の健康診断項目は次のとおりです。
- 業務の経歴調査
- 作業条件の簡易な調査
- 鉛による自覚症状や他覚症状の有無や履歴調査
- 血液検査・尿検査(鉛の量やデルタアミノレブリン酸の量を検査)
また、医師が必要と判断した場合には、以下のような検査も追加されることがあります。
- 作業条件の調査
- 貧血検査
- 赤血球中のプロトポルフィリン量の検査
- 神経内科学的検査
また、放射線業務においての診断項目は、以下のとおりです。
- 被ばく歴の有無の調査及び評価
- 白血球数の検査
- 赤血球数の検査
- 白内障に関する目の調査
- 皮膚の検査
上記のように特殊健康診断の必修診断項目は、従事する業務内容によって違います。
間違いのないよう確認することが大切です。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法第66条第2項、3項の政令で定める有害な業務について(特殊健康診断、歯科検診)
じん肺健康診断の診断項目
じん肺健康診断は、特殊健康診断として分類される健康診断です。
常時粉じん作業に従事する労働者には、次の検査を受けてもらわなければいけません。
- 粉じん作業の職歴の調査
- 胸部エックス線検査
- 胸部臨床検査
- 肺機能検査
また胸部臨床検査の結果に疑いがある場合には、結核精密検査を追加で受ける必要があります。
参考:厚生労働省 奈良労働局 じん肺、じん肺健康診断、じん肺管理区分について
健康診断実施後の義務
健康診断の実施後にも、義務化されている取り組みがあります。
ここからは従業員に健康診断を受診してもらったあと、会社が取り組むべき内容について紹介します。
診断結果は保管する
一般健康診断を実施した場合には健康診断の結果をもとに健康診断個人票を作成し、5年間保管する義務があります。
参考:厚生労働省 労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう
健康診断個人票の作成は、労働安全衛生規則の様式第5号を使用して作成できます。
一方、特殊健康診断では保管期間が5年〜30年とそれぞれ異なります。
厚生労働省のサイトを確認し、正しい期間で保管してください。
診断後は監督署に報告する
健康診断後は労働基準監督署に対し、健康診断結果を報告する義務があります。
報告義務の対象となるのは、50人以上の従業員を要する事業者です。
次の健康診断を受診したあとは、健康診断結果報告書を労働基準監督署に提出してください。
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 特殊健康診断
- じん肺健康診断
参考:東京労働局 労働基準部 健康課 健康診断結果報告書等の提出について
雇入時に実施した一般健康診断の結果や給食従業員の検便結果について報告の必要はありません。
各種健康診断の報告書は、以下の厚生労働省のホームページから確認できます。
健康診断結果を従業員の健康につなげる方法
義務として毎年健康診断を実施するだけでは、なかなか結果につながりません。
健康診断をより効果的なものとするため、健康診断の結果を今後の生活に役立ててください。
健康診断の結果から健康への取り組み内容を検討する
健康診断では、BMI値・血圧・血糖値などを数値化して従業員の健康状態を確認できます。
そのため健康診断の結果から、従業員の健康状態や健康課題を正しく把握できる可能性が高いです。
例えばBMI値が高い場合、乱れた食生活や運動不足などの問題から、肥満傾向にあると判断できます。
BMI値が高い従業員が多い場合、健康問題解決のため次のような取り組みが実施できます。
- ウォーキングをサポートする運動アプリを導入する
- 勤務時間中に運動の時間を取り入れる
- おすすめの食事内容を提案するサービスを導入する
- 栄養バランスの取れたお弁当を用意する
毎年実施される健康診断の結果を基に、従業員にとって最適な取り組み内容を検討してください。
再検査に必要な日を有給取得ではなく出勤扱いにする
従業員のなかには、再検査を希望しているものの「仕事を休めない」と悩んでいる方がいます。
また受診が必要になった場合、再検査の費用は一般的に従業員の負担です。
そのため再検査をサポートしなければ、健康状態の悪化をそのままにする従業員が出てきます。
企業としては従業員が必要な検査を受診できるよう、再検査日を出勤扱いにして環境を整えることが大切です。
また再検査の費用を会社負担とすれば、検査や受診の負担を軽減できます。
健康診断で問題が判明した場合は、すぐに再検査、再受診で詳細を調べ生活習慣を改善することが大切です。
具体的な取り組みにつなげるため、検査を受けやすい環境を作りましょう。
まとめ:正しく健康診断を実施し健康改善に役立てることが大切
健康診断は、労働安全衛生法によって定められた事業者の義務です。定めをしっかりと守り、適切なタイミングで検査を受けてもらいましょう。
ただし健康診断を受けてもらうだけでは、具体的な取り組みにつながりません。
健康診断の結果を分析し、従業員に適した取り組みを見つけることが大切です。
肥満傾向の従業員が多く運動不足が気になる場合、ウォーキングに関する取り組みがおすすめです。
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歩くよう呼びかけてもなかなか効果が出ない、進んで運動する従業員が少ないとお悩みの企業は、ぜひKIWI GOを活用してください。